やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『アウトレイジ 最終章』 感想

最終章(物理的に)


アウトレイジ 最終章』を見ました。公式サイト↓
outrage-movie.jp
私はヤクザ映画を全く見たことがないので他の作品と比べることはできませんが、『アウトレイジ』シリーズは面白い。詩集のような乾いた情緒が多い北野武作品において、このシリーズはエンタメ作品と割り切って作っている感じがします。


北野監督は数学が好きなので、構図もカット割りもスッパリ切ったり割ったりしているのがいい。あいつがこうしたらこっちはこうなるからそしたらこうして、という因果応報や裏切りの流れを作るのも上手い。
そしてこのシリーズの魅力は「エグい殺し方」にもあります。菜箸を耳に挿したり(「刺す」よりこっちの漢字の方が適切でしょう)歯医者の道具で口の中をめちゃめちゃにしたり首に縄を結わえて車で引っ張ったりバッティングセンターのボールを死ぬまで顔で受け続けたり。あーひどい。でも「うわーひどい」と思いながらちょっと笑いながら見ている自分がいる。多分北野映画の乾いた表現にあまり生々しい感じを受けないからでしょう。


さて、最終章。個人的にはイマイチでした。理由をいくつか挙げます。
①登場人物のヨボヨボ感
たけしさんを始めとして前作から出ている重鎮たちが皆さん高齢化して、おじいちゃんです。さらに西田敏行さんと塩見三省さんは大病を患ったので、見た目も弱々しくなっています。
なので、迫力がない。
西田さんは狡猾な演技でヨボヨボ感を「得体のしれない怖さ」に見せていましたが、塩見さんはもう体力がない感じがありあり。皆さんに立ったり動いたりさせない工夫が随所にあって見ていて泣けてきました。老人介護ヤクザ。
これは、たけしさんにもいえます。たけしさんは第1作目から活舌が悪くて迫力がなかったですが、これが回を追うごとにさらにひどくなっている。見た目も太ってしまい歩き方も年寄りっぽくなり、迫力がない。おじいちゃん。


②関西弁は関西人に
ピエール瀧、お前はダメだ。他の作品だとあんなに怖いのに、この作品では全編コント。なぜこんなに関西弁をしゃべれない人に関西弁でラストまで登場させるのか。オープニングで殺せよ。もしくは静岡出身の設定にしろよ。
あと、花田(ピエール瀧)の殺され方もダメ。爆発で顔がボーンとなるところを映してほしい。そこはチープな人形でもいい(そういう黒沢清的な表現方法をするとこの映画の基準がぶれちゃうか)ので、無様な姿を見せて欲しかったです。
ついでにいうと、花田の性癖ってそんなド変態じゃないですよね?単なるSMドM野郎なだけ。ここはその道の専門家に教えを請い、とても笑えないドM野郎な性癖を披露してほしかったです。そこで凄む花田。その落差が笑いになるのです。


③コマ不足
過去2作で重要な役どころがどんどん死んでいったので、残りにはカスしかいない。
大杉漣さんは「元証券マンの娘婿ヤクザ」という立ち位置なので怖くないのは仕方ないのですが、名高達郎さんや光石研さんは小物過ぎ。名高さんが山王会の会長なんて力不足も甚だしい。三浦友和さんの足元にも及ばない。
俳優たちの迫力不足でヤクザの怖さが全く足りません。


④殺し方がつまらない
上に書いたようにこのシリーズは「面白いエグい殺し方」も楽しみの一つなのですが、今作では大杉漣の生き埋め→車で轢くくらいしかない。あとは銃で撃つばかり。つまらん。


もちろん面白いところもあります。オープニングの花田(ピエール瀧)と大友(ビートたけし)の最初の出会い。「舐めてんのか!」「舐めてなんていねーよ!」ギャグボールぶら下げて何凄んでいるの?大友にも「十分楽しんだみたいじゃねーか」と言われています。ヤクザのメンチの切り合いがコントになっていている!
あと、ファーストカットで軽トラの後ろ姿を映して「あれ?車のナンバーが何か違うな」と思わせてそのままカメラがハングル語の看板をさりげなくフレームインさせることによりここが韓国ということを伝える構図。上手い。
そしてタイトル文字は毎回お馴染みの車を上から映したショットに文字を被せる。おお、アウトレイジだ!


でもやっぱり物足りないのよねー。マシンガンで撃ちまくるなんてもう何でもありじゃん。裏切りとか工作とか作戦とか関係ないじゃん。


ラスト、大友が自殺してエンド。ラストカットで大友が死んだ様子を映していましたが、これいる?「確実に死んだからもう次はないよ」という宣言なのかな?
北野監督はインタビューで「いくらでも続けられるけどきりがないので終わらせた」と言っていましたが、そうでもありますがそれ以前に大友がおじいちゃん過ぎてもう続けられないでしょう、物理的に。


このシリーズのファンとしてはきちんとお話を畳んでくれてよかったですが、作品単体の評価としてはここに書いたように厳しいものがあります。うーん、残念。


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RHYMESTER『ダンサブル』 感想(楽曲編その3)

結論、いいアルバムってこと


前回までのお話↓
ese.hatenablog.com
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8.Diamonds feat. KIRINJI
キラキラしてる!RHYMESTERなのにこんなにキラキラしているのはミニアルバム『フラッシュバック夏』収録の『into the night』以来。
KIRINJIとはKIRINJI『The Great Journey』でRHYMESTERが客演したので今回はそのお返しですね。
トラックは音がたくさん入っているけどごちゃごちゃせずポップに聞こえるこの感じ、まさにKIRINJI印です。


この曲はふたりとも歌詞がいい。
まずは宇多丸さん。オープニングショットで街の雑踏を描きます。多くの人が歩いている風景が見えるでしょ。で、「ライツ、キャメラ、アクション」で主人公である「僕」にぐーっとカメラが寄ってピントが合ってくる。その他大勢の一人だった「僕」に命が吹き込まれた瞬間です。私はアニメでの映像を頭に浮かべながら聴いています。
これが歌詞でしょ、これが表現でしょ。


続いてDさん。トラックがメロディアスだからか、この曲では韻よりも内容重視の歌詞です。

偏ってたっていいんじゃないですか? その偏りが人を幸せにするんだと思うんです
嘲笑(わら)う者はきっと羨んでる 何もないんじゃないかと悩んでる
ゾンビ映画がお好きだなんてステキですよ!

私が女子ならDさんにこんなこと言ってもらいたいなあ。しかしインタビューを読むと子供に向けて歌っているそうで。なるほど、確かにそうとも読めるな。
あと、「お好きですか?」「苦手ですか?」のコトリンゴさんの声、超ステキ!


サビの「そのブリリアンス煌いて」とか「瞳の透明度はきっとフローレス」なんかはKIRINJIとの共作だからこそ。宇多丸さん曰く「俺らが言ってたら超気持ち悪いよ」。確かにその通り。
ここ、ライブでは私たちが歌うのかな?


曲のテーマは「好きなものがあることは素晴らしい、それは他人に左右される必要はない、それがあなたの世界を輝かせる」というもの。賛成です!


9.カミングスーン
今作の実質ラスト曲。アコギのジャッジャッという軽やかなリズムの刻みが気持ちいい。
曲のテーマは「巡りくる季節」「また会おう」と「未来はもっとより良くなる」というもの。
40代後半のRHYMESTERが「オレ史上ベスト今更新中さ」と歌える強さ。しかもそれが強がりではなく、実際こうして最高を更新しているという事実。強いぜ。


この曲もライブでは「オッオー!」の合いの手が必須ですな。


10.マイクの細道
ボーナストラック的な一曲。アルバム全体編のエントリにも書きましたが、この曲だけ「ダンサブル」というこのアルバムのテーマにそぐわない。
ドラマ主題歌でシングルでもあるので入れなきゃいけないとなるとここしか置き所がないしアルバムを締めるという意味ではこの場所でいいのかもしれませんが、単純に曲の強さが足りない気がするんだよなー。


歌詞の内容はいいし頷くのですが、快楽性が足りない。それは曲のテンポのせいかサビの弱さのせいか。


ただ、ラストの「熱狂まであと5秒 4、3、2、1」という締めのフレーズは応用性があるのでライブで上手く使えば映えるでしょう。私には思いつきませんが、多分ライムスチームは素晴らしい使い方をしているはずだ。


終わった。全曲書いたぞ。後半になるにつれて疲れてきて熱量も文章量も減っているな…。でもどの曲も大好きなのです!
アルバムを多く作ると曲が増えてきて、アルバムツアーでは全曲披露してもその次ではどれかを落とさなければならない。そして新曲と定番曲とレア曲でライブが構成されていくのですが、こんなに名曲・ライブ映えする曲が増えちゃうとどの曲を落とすか困っちゃいますね。まさにうれしい悲鳴。
あー、ライブが楽しみだ。大箱セットと小箱セットでセトリも演出も違うそうなのですが、私は大箱セットには行けない…。12月になってからでいいので、アンコール大箱セットをやってもらえないかなー。見たいよー!


RHYMESTER『ダンサブル』 感想(楽曲編その2)

ふざける人


RHYMESTERのNEWアルバム『ダンサブル』の楽曲の感想を書くエントリですが、書きたいことが多すぎて一度で収まらないので数曲ごとに分けて書くことにしました。今回は2回目でアルバム3曲目『Back&Force』から。今回はどこまで書けるかな。
前回のお話↓
ese.hatenablog.com


3. Back & Forth
『Future Is Born』と並ぶこのアルバムのリード曲(私選曲による)。アホみたいなことを書きますが、ラップって、掛け合いがカッコいいよね。
ラップは歌詞が聞き取れないと何を歌っているのか分からないので「初めて聴いていい曲!」というのはあまりないのですが、この曲には「聴けばすごさが即分かる強さ」があります。現代はAIとかバーチャルとかCGとかいろいろありますが、目の前の手品は驚くしメッシのスーパープレイは興奮する。「現実の強さ」はいつの時代も不変です。アキラ100%もそう。
この曲の掛け合いの素晴らしさは説明するものではありません。聴けば分かる。

そう今この瞬間こそがセッションさ 全てはIn the mix
声と声とが FlowとFlowとが 交差する刹那のダイナミクス
その瞬間 僕らは溶けて混ざって ビターでスイートなジャムになる

そういうことです。
あと、ここの「そう今この瞬間」で一瞬トラックがミュートするのもいい。ここ、ライブで盛りあがるぞー。


また、この曲はサビが素晴らしい。

上がってこうぜ もっともっと まだPartyはJust begun
騒いでこうぜ HipでHOPでYou don'tなHooligans
2 Turntable 2 MIC You See? 今宵のホストは(誰だ?)
宇多丸Mummy-DとJIN Still TOKIO#1

この頭の「上がって」「騒いで」「2」「宇多丸」の「あー」「さー」「つー」「うー」の伸ばす部分、次の小節を食っていてさらに裏拍で入るのでめちゃめちゃグルーヴが増す!(小節の前の部分から演奏や歌が入ることを「小節を食う」という言い方をします)
最初のサビもいいけど、後半の盛りあがりきったところから入るサビがカッコよすぎて聴きながら毎回笑ってしまう。


もうひとつ、この曲を強化しているのはドラムです。生ドラムはやはり打ち込みビートとは違うグルーヴを生み出しています。この曲全体の「乱れ打ち感」が素晴らしい。曲が終わっているのに叩きたい欲が止まらない感じのエンディングもいい。


ちなみにDさんの「こ、こ、こ、こんちは!」のヴァースは、「Pump me up」の日本語訳です。訳ではないか。
これです。
www.youtube.com
ここもライブで盛りあがるぞー。



4.梯子酒
おふざけ曲です。最近のRHYMESTERはシリアスな曲が多かったので、その分このくだらなさは最高!今までのシリアスが全部フリになっている。
抜き出しようがない、全編酩酊リリックです。
「ウェイウェイ~!」の部分はライブでも盛り上がること間違いなしですが、個人的にはDさんがどんな動きをするのか見てみたい。
そしてラストの「生ビール生ビール」以降の部分、あーもうライブが楽しみでたまらない!


5.Don't Worry Be Happy
ジャズです!RHYMESTER、こんな曲もできるのね。
この曲もドラムを始めとした楽器チームの演奏がカッコいいなあ、と思い歌詞カードを見てみるとMOUNTAIN MOCHA KILIMANJARO(モカキリ)なのね。
私、このドラムの岡野さんが好きすぎる。RHYMESTERだと『人間交差点』もこの人、RHYMESTERがReプロデュースしたスキマスイッチの『ゴールデンタイムラバー』もこの人、このアルバムの『爆発的』もこの人。もうー、どれもカッコいい!


以前、この曲がモカキリ演奏だと知らずにこんなツイートしたこともありました。
www.youtube.com
ちゃんとした音源は見つけられなかったのでこれでお茶を濁そう。


そして、この曲のドラムがカッコいいのは「ダ・チーチーチー」が連発!というのもあります。「ダ・チーチーチー」とは「ドラムのカッコいいフィル」ですが、この説明では何も伝わっていないと思いますので、こちらをどうぞ。
ongaku.tech
miyearnzzlabo.com


リリックは久しぶりのストーリーテリングのオチのある小噺。こういう「内容・オチが分かっているのに面白い」というのは落語に通じるものがありますね。もちろん落語同様演者のレベルで面白さは変わります。
面白いのですが、Dさんヴァースにちょっと注文つけていいですか。お金を下ろし忘れたはあるあるですが、カードも忘れたなんてことあるのかな?それよりも「カードの限度額越えてた」の方がリアリティがあるし、より「見栄っ張りのダメ男」な感じが出ると思いますが。
つまんない注文つけてごめんなさい。


この曲はDさんふざけているよねー。「お金を貸してください!」の部分、スキャットの部分、ラストの「おしまい」の部分。ライブでもふざけるだろうなー。見たいなー、かわいいだろうなー。
あと、宇多丸さんの「DA.YO.NE♥」の言い方も超かわいい。


途中ブリッジの部分で男女別のコール&レスポンスがありますが、これ、私たちもライブで音源のような裏声で叫んだ方がいいのかな?どうすればいいんだろ。


6.ゆれろ
この曲、音がぐちゃぐちゃしている感じなのに踊れる跳ねるリズムだし、エレクトロなのに肉体的な感じで不思議なトラック。で、このトラックで「ゆれろ」というテーマで歌われているのはまさしく「ゆれろ」です。内容的に深そうで深くない。ひたすら踊ろうぜとけしかけられています。


でもね、宇多丸さんはやっぱり理屈っぽいリリックになるんだよなー。Dさんはリミッター解除して弾けまくり。いいダシのところ、音頭のところ、確実にライブではふざけてくるよね。楽しみ。ヨイヨイヨイ!ドドンがドン!



7.爆発的 feat. サイプレス上野 & HUNGER
この曲もドラムが主役!まさにタイトル通り「爆発的」です!仮タイトルは『ドラムエクスプロージョン』だったそうですが、そっちもいいな!
イントロのオケ、最初はラッパがメインだったのが徐々にドラムの音がデカくなる音像の変化もいい。
この演奏もモカキリ。RHYMESTERのオフィシャルHPにあるインタビューの中でJINさんは

ドラムとラップだけでご飯3杯食えるみたいな曲をつくれたらいいよねって話したな。だから本当にドラム勝負みたいな感じ。モカキリにはTiger(岡野諭)という素晴らしいドラマーがいるからばっちりいけるだろうと。実際Tigerのドラムはすごくよくて、エンジニアの人も「スネアとハットが貼りついてる感じがいいですよね」って独特の言い回しで褒めていて。Tigerのドラミング様様だね。

と言っています。「スネアとハットが貼りついている感じ」って上手い表現!確かにその通り、ドラムでご飯3杯食えます!
曲終わりのまさしく大爆発をおこす終わり方もいい。西部警察か!というくらいの過剰さ。これくらいの突き抜けが今のエンタメに必要な強度なんだろうな。


サ上とHUNGERの生ラップも聴きたいけど、どうせ全国ツアーでは東京くらいにしか出てくれないんでしょ。仕方ないけど、残念。


よし、今回だけで5曲書いたぞ。あと3曲はまた次回。 



パーフェクト・タイムズ[初回限定特典付き盤]

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ダンサブル(通常盤)

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RHYMESTER『ダンサブル』 感想(楽曲編その1)

バトン


1か月近く前、RHYMESTERのNEWアルバム『ダンサブル』の全体感想のエントリを書きまして、ようやくアルバム収録曲についてそれぞれ書いていきます。
全体感想はこちら↓
ese.hatenablog.com


さて、ちょっと1曲目について書き出してみたら、まあ長い長い。なので、このアルバムについては数曲ごとのエントリとして書くことにしました。読みにくくなるかと思いますが、一度に書くには時間も気力も足りないので、小出しで書きますがご了承ください。


1.スタイル・ウォーズ
「スタイル・ウォーズ」とはヒップホップ用語のひとつで「様々なスタイルでの闘い」のことです。そのままだ。
例えば速いラップが得意なMC、ゆっくりなフロウでグルーヴを生み出すのが得意なMC、韻が固いMC、韻にこだわらないMC、様々なラッパーがいます。どれが正しいというわけではありません。様々なスタイルでサヴァイブしていく、勝ちあがっていくのがヒップホップの魅力のひとつです。
この違うスタイル同士の闘いが「スタイル・ウォーズ」なわけです。


前作『Bitter, Sweet & Beautiful』のエンディング曲『マイクロフォン』のDさんの「オレはこうしたがオマエならどうする?『ヤツらがどうしたオレらならこうする!』」のリリック、宇多丸さんの「花咲けスタイルとスタイルのウォーズ」のリリックはまさに「スタイル・ウォーズ」のことです。
で、この曲でも「オレ曰く 花咲けスタイルとスタイルのウォーズ」という宇多丸さんのリリックがあり、Dさんは前作『フットステップス・イン・ザ・ダーク』で「バトン」という単語を『マイクロフォン』で「鉄の棒」という表現でリンクさせていて、さらにこの曲では「このバトンのボタン押せば」という形で続いています。
前作が1曲目からラストに至って再び円環構造のように「マイク=バトン」という表現でリンクしており、さらに今作の1曲目にも続いているのは、ヒップホップの引用文化を上手く使った表現方法ですな。


この曲を初めて聴いたのは「人間交差点フェス2016」、つまり1年半も前です。それ以降他のライブでも毎回聴いており、リリックの詳細は分からないながらも「カッコいい曲だな」というのは分かっていました。
そして今年の「人間交差点フェス2017」でも披露してくれたとき、宇多丸さんは「1年前にも披露したけど、アルバムバージョンでは生のホーンを入れたりしてブラッシュアップしているから」と言い訳のような説明をしていて、そのときは「アルバムがなかなかできないから言い訳がましいな」と思ったのですが、確かにアルバムではホーンが入っていてそれがカッコいい!以前のバージョンよりいい!宇多丸さん、待った甲斐がありましたよ!


宇多丸さんは最近大人になり文化人になりだいぶ丸くなったように思っていましたが「黙ったままじゃカスがのさばるから ペンとかマイク持って『まだまだ斬る』」なんてまだ歌うのね。
ちなみに「まだまだ斬る」はKダブシャインと一緒にやった『物騒な発想(まだ斬る!)』から来ていますね。
www.youtube.com


2.Future Is Born feat.mabanua
この曲ができて宇多丸さんは「このアルバム勝った!」と言ったそうです。私も同感です。
ヒップホップ黎明期のシンプルなトラックに聴こえますが実は音もリズムもメロディもすごく最先端のオシャレな音作り。素晴らしい。ブルーノ・マーズのような「ノスタルジーに引きずられない現代性」に感じました。


宇多丸さんのヴァースはまさしくヒップホップが生まれたその瞬間を歌っています。上手い!きちんと説明しつつ「これから歴史が始まる!」というワクワクもあり、もちろん韻踏みまくり。完璧じゃないですか!


Dさんのヴァースは出だしの「上にも下にも何者にも媚びぬとこがイカしてた ドレミファにもソラシドにも媚びぬとこがイカしてた」のフロウが超カッコいい!
リリックは宇多丸さんの「ヒップホップが生まれた瞬間」から続いて「それが日本に伝わった後」を描いています。この分担も上手いなー。


フック(サビ)では「今日のぼくらが明日の創造主かもね 今もどこかで奇跡が進行中かもね」というリリック。ここ、「かもね」なのね。
確かにそうかもしれませんが、もっと自信持って「Co'mon now」とかでいいんじゃないでしょうか。俺たちが創造主で俺たちが奇跡を起こしているんだぞ!と。それがヒップホップのセルフボーストでしょ。まあ、この慎重な立場がRHYMESTERらしいのですが。


この曲はサビやヴァースよりブリッジの部分に苦労して、そこができたからこそ「このアルバム勝った!」になったそうですが、確かにブリッジの部分が強いですね。ライブでも盛り上がること間違いなし。
ここの部分はヒップホップの定型句を日本語訳したもので、オールドスクールな感じとそれが日本に伝わったことが両方混じったリリックですね。
でも、「さあ、空に手を上げて バカみたいにブンブン振れ」の部分、ライブで手を左右に振るのに少し抵抗があります。もちろんライブでは手を上げちゃいますが、まだ少し抗う心がある。J-POPではよくある風景ですが、個人的には寒いんだよなー。
あと、ここの「上げて/振れ」の母音エを語尾上げで伸ばすフロウも寒い。DOTAMAやKENTHE390もそういうフロウをよくやりますが、苦手。
この辺はあくまで個人的な感覚の話です。


この曲はアルバムのリード曲に相応しい名曲だと思いますが、ひとつだけどうしても気に入らないところがあります。Dさんヴァースの「ただしオマエらのRootsはあくまでオレだとは言っ・て・お・き・たい ぜ!」の部分。
こういうの、自分で言うのはダサいです。「俺がNo.1」と言うのは大事ですが、「お前のそれ、俺が元祖だから」と自分で言っちゃうのはサムくない?Mummy-DRHYMESTERが日本語ヒップホップのレジェンドだなんてことは誰もが認めることで誰も異論はありませんが、それは周りが言うことで自分が言うことではないですよ。過去の栄光自慢、過去の苦労自慢は老害の始まり。
www.youtube.com


今日はここまで。2曲だけで3,000字も書いてしまった。このペースで書いていくといつ終わるんだろ。今後はもう少しコンパクトに書くようにします。続きはいつになるか分かりませんが、なるたけ早く書くようにします。


Bitter,Sweet&Beautiful

Bitter,Sweet&Beautiful

映画『ダンケルク』 感想

映画の新しい形


映画『ダンケルク』を見ました。公式サイト↓
wwws.warnerbros.co.jp
私は、戦争映画を見ません。戦争の陰惨な雰囲気が苦手だし(ホラー映画見るくせに!)、歴史の知識が全くないからです。そんな私がこの映画を見ようと思ったのは、クリストファー・ノーラン監督作品だからです。
メメント』『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』のノーランですよ!どんなテーマであってもノーランなら大丈夫だろうという盤石な期待感を持って映画館に行きました。


そしたら、何か違う。
この日私は仕事終わりで車を走らせ(私の最寄りの映画館まで車で1時間半かかるのだ!)劇場に行ったので、眠い&トイレ行きたいという映画を見るには最悪のコンディションだったのを差し引いても、何か違う。


私のノーラン作品のイメージは「そんなに難しくない話を難しそうに哲学的っぽく語るけど分かりやすく見せる映画」です。『メメント』は「記憶が30分しかもたない男の真実探し」だし、『ダークナイト』は「正義が悪を叩くから悪が栄えるのでは?」だし、『インセプション』は「夢の中なら何でもできる、のか?」だし、『インターステラー』は「マジなハードSFで語る家族愛」だし。
それが、この作品ではそういう難しいテーマ語りはなし。「戦争って個人視点で見ると何が何だか分からないけど超怖いよね」という「体験映画」でした。


そもそも、「ダンケルク」は地名なのですが、私はそれすら知りませんでした。そしてここで「ダンケルクの戦い」と言われる撤退戦が行われたことも知りませんでした。
しかし、この映画ではその辺はほぼ何も伝えてくれません。「あなたたち包囲したよ」というビラを見せられるだけ。セリフもほとんどないので登場人物がどんな人なのか、どんな考えや背景を持っているのかも分かりません。
そして、この作品は「飛行士の1時間」「船長の1日」「兵士の1週間」という違った時系列を並行して描くので、それも分かりにくくしています。
事前知識のない人がこの作品だけを見てどれだけ理解できたでしょうか。


事前知識としていくつか紹介しておきます。
miyearnzzlabo.com
nlab.itmedia.co.jp


上にも書きましたが、この映画は「体験」です。海岸にいるところを銃撃される。生きるか死ぬかは運次第。やっと船に乗ったと思ったらまた銃撃されて沈没。隣の船に移ろうとしたらそこは重油の海でさらに炎に包まれる。戦争って嫌だなー。
ここに物語はありません。私は、映画とは「物語」があってそれを演技や演出で見せるものだと思っていたのですが、この作品はそうではない。ただ戦争という「個人ではどうにもならないとてつもなく嫌な出来事」を体験させられるだけです。
この「嫌な出来事」をさらに後押しするのがハンス・ジマーの音楽です。終始ずっと聞こえるチクタクチクタクという音や音階が上がりそうで上がっていない「無限音階」を使ったBGMなどがイライラや不安感を増す効果をもたらしています。


飛行士が敵機を撃墜しても、船長が民間船で兵士を救っても、海岸から数万人のイギリス兵を脱出させても、彼らが英雄として称えられる結末はありません。そういう物語を紡ぐ作品ではないのです。あくまで戦争の一場面を切り取り、それを観客に体験させているだけ。だけ、というのは言い過ぎか。


なので、見終わっても「結局、何だったの?」「何が言いたいの?」「何を見せられたの?」という感想を持つのも仕方ないです。私もそうだったもの。
この作品はIMAXで見るように撮影されています。そのため、その他の一般の劇場で見ると上下が切られた状態での上映なのです。何だそりゃ、ひどい。でも、この上下に大きいIMAXで見たら没入感は一般の劇場と段違い(らしい。私の地元にIMAXなんてねーよ!)なので、この「体験」はよりリアルな臨場感をもたらすことでしょう。私は体験できないけどな!


ノーラン監督はIMAXやフィルムにこだわる人ですが、「CGを使わない」というこだわりも持っています。これまでのアクション・SF映画ですらほとんどが実写。さすがに『インセプション』はCG多めですが。実際に建物や乗り物や街を作り、壊す。ノーラン監督は山崎貴監督との対談で「実際作ってもそんなに高くないよ」と言っていました。そんなこと言えるのはあなたか石油王だけです。


で、この作品もノーCGなのですが、何しろ第二次世界大戦のお話なので、その当時の飛行機を作品に出そうと思っても飛行機がない。奇跡的に実機があったのでそれを使って撮影していますが、その当時の飛行機が飛べる状態で残っていることなんてほぼないので、数が足りない。なので、劇中も飛行機がほとんど登場しません。見えないところからの銃撃か、1対1の銃撃戦か。
同様に、船も少ない。後半で民間船が兵士を救いに来た場面で船がいくつか映るのですが、少ない。ここは海を埋め尽くすほどの船が登場した方が絵的にも迫力があるしカタルシスもあるし感動もする。しかし実写なので少ない船しか登場しない。
そして、エキストラにもCGを使わないので、何だか人が少ない。数十万人の撤退戦なのに、人がまばら。何と画面の奥にいるピントが合わない遠くの兵士たちは「描き割り」なんだそうです!すごいのかすごくないのかよく分からない話。何だか本末転倒のような気がしますが…。


当時の飛行機や船を使うこと、CGを使わないこと。監督のこれらのこだわりによって、余計ウソっぽく見えてしまうのは果たして成功なのでしょうか。
CGはあくまで手段のはず。実物のセットやロケの方がいいならそうすればいいしCGでないと表現できない映像なら使えばいい。こだわりがこじらせになるのは違うと思うのですが。


というわけで、ノーラン好きの私ですが、はまりませんでした。評論家的な見方をすれば評価すべき作品なのでしょうが、やはり私は物語を求めます。でも、次回作があれば必ず見に行きます。まだノーラン監督への期待と信頼は揺らいでいません。


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