やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「職業としてのAV女優」中村淳彦 感想

風俗に行って説教をするオヤジの戯言


AV女優。はい、日々お世話になっております。彼女たちがいなければ私の日々の生活は立ち行きません。
これはAV女優を「ビジネス」「職業」として考えた本です。著者は「名前のない女たち」シリーズなどで知られる(知られてないか)中村淳彦氏。いわゆる「実話系」ライターですが、今回は「職業」という切り口で語ることで幻冬舎新書という一般書から本書を出版しています。


AV女優というと、人前で裸を晒し、さらにそれ以上の行為をすることで報酬を得るのがお仕事です。親や知り合いにばれるというリスクの代わりに高収入を得られる(ハイリスクハイリターン)というのが一般的な認識だと思いますが(私もそうだと思っていました)、現在は応募者が多いため選ばれるハードルが上がり、その分報酬は下がり、リスクの割には得られるリターンが少なくなってきているそうです。
それでもなぜ彼女たちはAV女優になるのか。
現在はキャバ嬢がなりたい職業にランクインするような時代ですので、お水や風俗に対する嫌悪感や心理的ハードルは昔に比べて低いんでしょうね。また、「おねだりマスカット」などで一般のタレントと変わらないルックスやキャラクターで活躍している女の子たちを見ると憧れの対象にもなるのでしょうか。
それでも、こういう光の面だけを見て応募する女性にはちょっと待て、と私は言いたい。


私はアダルトビデオは大好きですが、性的嗜好は至ってノーマルです。なので、可愛い子が可愛くセックスしてくれたらそれで満足なのですが、最近はそれだけではこの世界では生きていけないらしく、すぐにぶっかけ・ごっくん・中出し・アナル、そしてレイプやSMなど、どんどんハードなプレイが求められます。私はそんなの求めてないのに。
AV女優に応募してくる女性たちは、アイドルのようにちやほやされてイケメンとハイレベルなセックスができると考えて応募してくるのでしょう(私の勝手な偏見)。しかし、そんな扱いをされるのはほんのごくわずか。ほとんどは「できなかったら他の人に頼むからいいよ。代わりはいくらでもいる」という世界で、どんどんハードなプレイが求められているのです。


この世界は「単体」「企画単体」「企画」というヒエラルキーがあります。

プロ野球でいえば1軍・2軍・育成、警察でいえばキャリア・ノンキャリ、会社でいえば正社員・契約社員・パートみたいなものだ。

でも応募してくる女性たちはみんな自分が「単体」の扱いを受けると信じて応募してくるのでしょう。こんな専門用語やランク分けなんて当然知らないでしょうし、そんな説明もろくにされないでしょう。かわいそうだな。


本書では、引退後の生活についても書かれています。
AV業界で名を売ってそこから芸能界で活躍、というのが一番の成功例でしょうが、長いAVの歴史の中でも成功したのは飯島愛しかいません(私のジャッジによる)。及川奈央が戦隊ヒーローものや大河ドラマに出演したのは歴史的快挙ですが、現在はほぼ名前を聞きません。つまり元AV女優という肩書きは引退直後は肩書きになりますが、時間が経つにつれて、結局実力がなければ生き残れないのです。逆にこの肩書きがネックになることの方が多いでしょう。
しかし、現在は「恵比寿マスカッツ」など、現役AV女優でありながら芸能界でも活躍できる場が増えてきました。これはAV女優のスペックの向上(見た目もタレント性も)と、世間がAV女優という職業について眉をひそめる部分が減ってきたためという部分があるといえます。しかしこれは逆にいうと「現役AV女優」だからこそ需要があるのですが。
また、夕樹舞子・蒼井そら小澤マリアなどはアジア各国ではすさまじい人気と知名度を誇っており、AV女優でありながら海外ではセレブ的な扱いを受けているそうです。これはインターネットの普及により、世界各国でも日本のAVが流通しているからです。
このように、以前に比べるとAV女優でも芸能界では活躍できる可能性は増えてきましたが、それは「現役AV女優だから」という肩書きが必要となります。引退してしまうとその効用はすぐに消え、逆に「元AV女優」が足かせになる部分が多いのです。
では、その他のAV女優はどこへ行っているのか。

統計のとりようがないので私の知っている限りでは、AV女優全体では3分の2はキャバクラや性風俗など、長期間従事することのできる高収入の風俗業に流れている

風俗業に行かなかった3分の1は、(中略)AV引退をきっかけに裸になったりカラダを売る仕事から足を洗う

資格を取って再就職をしたり、AV業界の裏方としてヘアメイクやプロダクションのマネージャーになったり、AV女優という経験と知名度を活かしてライターになったりしているそうです。
また、オークションで「○○と焼肉を食べる権」「使用済み下着」などを販売したり、特定の人にパトロンになってもらったり、富裕層などの特権階級からの依頼があったりという例もあるそうです。

容貌が優れていてAV女優を経験して、最終的にセックスという武器がある女性は、脱ぐことを封印してもAV女優としての成功体験やシビアな社会に身を投じた経験がプラスとなって、高望みしなければどうにでもなるのである。

だそうです。なるほど。
AV業界で生き抜いてこられたバイタリティがあれば、何でもできますよね。
ヘアメイク・化粧・衣装等で普段街で見かける姿とは全く違うし、名前も本名でない。であれば、AV女優であった過去をリセットしても次の人生にはさほど影響がない。もしバレるとしてもそれは確率的には非常に低く、以前ほどの世間の白い目もない。
そう考えると、「AV女優になる」というのはそんなにリスクが高いわけではないようです。
しかし、当然ですが全員が順調な生活を送っているわけではありません。

楽しく楽に稼げたという「AV女優(売春)脳」は深刻で、これが退職後、3分の2が時給の高い性風俗に流れている原因である。AV女優は誰かにバレるリスクより、一般社会と感覚がズレること、一度足を踏み入れてしまうと抜け出せないリスクの方が高い。

そうですよね。これも私の偏見ですが、どんなきっかけであるにしろ、AV女優を選ぶような人はお金や性に対してだらしないからこの世界に入る。そしてだらしないからこの世界から抜け出せない。


というわけで、AV女優という職業は以前よりリスクは少ないけれどリターンも少ない。裸やセックスを売りにして、その映像がずっと残るといういわば狂った世界なのに、生き残るのはまっとうな人でなければならない。
そう思うと、そこまでしてなるべき職業かなあ、というのが素直な感想です。「かわいいAV女優=イマイチなグラビアモデル=容姿の劣った女優」であれば、「一般人としてはとても可愛い」という土俵で戦った方が良さそうな気がするのですが。


こういった内容は誰かが書いてくれない限り知り得ないことが多いので、書いてくれた著者には敬意を表すべきですが、何だか上から目線で書かれている感じがあります。女優に対するインタビューの際はどのような態度だったのかな。この著者はAV業界やAV女優があってこそ仕事があるんだから、同じ「アウトロー」としての意識を持って欲しい。お前も同類だよ。


そして、新しいAV女優がデビューするたびに「こんな可愛い子が!」と驚き、衝撃を受け、感動し、興奮する私も似たようなもんです。

職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)

職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)