やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「贖罪」湊かなえ 感想

「イヤミス」というらしいですよ


デビュー作「告白」と同じく一人称の語りで綴られていく物語。湊さん、このパターン好きね。
相変わらず、悪意満載。湊さんの作品はいつも女性は怖くて男性はアホ(というか扱いが酷い)。
物語の中の狭い人間関係の中で全ての要素が重なり合うのはご都合主義ではありますが、フィクションなのでそれは悪いと思いません。ただ、それがリアリティを持って描かれていれば。
今回の場合はそれがちょっと足りず、「そんなことあるか」と思うことがしばしばありました。


まずは時効間際になって示し合わせたように負の連鎖が続くこと。
15年近く何もなかったのに急にその4人が殺人を犯す(事故・正当防衛・心神耗弱も含む)。そんなナイスタイミングある?これはもはや稲川淳二の世界ですよ。
また、肝心の犯人ですが、これも15年近く全く「覚えていない」だったのに、急に「あの人(じゃないか、に似ている)」と具体名が出てくるなんて。
「殺人」という異常な出来事のため記憶が蘇ったという理由付けですが、それでも急に核心に迫りすぎじゃない?「顔を思い出した(こんな感じの顔、顔のここにほくろが)」くらいならいいですが、いきなり具体名はいきなり過ぎます。
そしてその犯人ですが、小児性愛者という描写はありませんでしたが、その辺はどうなっているの?動機が自分を捨てた女に対する復讐だとして、殺人は分かるけど性的暴行はちょっと理解できない。だってそこは性癖の部分ですから。
例えば私は若い女の子が好きですが、それでも10歳の子どもは無理だー。…何言ってんだ。


と冷静になればいろいろ指摘する部分もあるのですが、読んでいる間は読みやすい語り口と女性の怖さと結末がどうなるのかが気になって一気に読んでしまいました。
そのラストですが、麻子は犯人に「父と子」を教えただけなのでしょうか。そこで自分で犯人を殺したりしないのでしょうか。
そうしないと負の連鎖は決着しないと思うのですが。ここまで悪意満載で書いているのだから、ラストも救いようのない結末でもよいと思うのですが。


湊かなえさんの本は、勝手な推測ですが多分女性ファンの方が多い気がします。
それは、女性の心の奥にある「悪意」を書いているから。男性はアホなのでそこまで「悪意」に絡め取られたりしません。
女性向けの「ご近所の悪い噂」なんていうマンガ本がいくつも出版されているのもその現れだと思います。男性向けにはそんな本ないですもんね。
また、一人称の語り口なので読みやすい。口語体なのでくどい説明や複雑な語彙が出てこない。なのでどんどん読めてしまう。彼女がもともと脚本家志望だったからセリフに特化した作品になるのかな?
同時期に宮部みゆきさんの本も読んでいたのですが、そちらの方が読むのに時間がかかりました。それは三人称できっちり描かれている文章を読むのに手間がかかるからです。
どちらが優れている、という話ではありません。語り口や切り口の違いの話です。
宮部さんの作品も読みやすいと思うのですが、それでもセリフだけの方がそりゃ読みやすいですよね。


湊さんのような読後感の悪いミステリを「イヤミス」というらしいですよ。
私は「言葉が生まれる=命を与えられる」と思っているので、あんまりこの言葉が一般化して欲しくないです。
また、湊さんの作品で「イヤミス」のカテゴリに収まらないスケール、もしくは真逆のハッピーな読後感になるような作品も読んでみたいです。
でもそれを読むのはまた文庫になってから。


ドラマの方の感想はこちら↓
ドラマ「贖罪」 感想 - やりやすいことから少しずつ


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