頭のいい人の文章は面白い。自分がなんとなく思っていること・感じていることを言語化してくれるから。それこそが「腑に落ちる」という感覚です。「膝を叩く」でもいいけど。
内田さんの本としては「街場のメディア論」「下流志向」ときて、これを読みました。「日本辺境論」は途中で挫折して本棚の中…。
哲学者であり知識博学満載なので、こういう語りベースの本だと読みやすいです。
それでも、感想となると書きにくい。だって私の感想で出てくる言葉はこの本に書かれている言葉以下のものしか出てこないのだから。
内容は多岐に渡っています。
■「頑張る」という社会的サクセスモデルはもういいんじゃないか
自分の可能性を最大化するためには、自分の可能性には限界があるということを知っておく必要がある。
頑張りすぎると壊れてしまう。だから限界があるということを知っておかなければならない。「愛情」も同じで、「試す」ものではなく、「育てる」ものである。
■「個性」ということ
自分の立ち位置を「マッピング」する。歴史的な流れと、社会的な立ち位置を、鳥の目から俯瞰して見る。それには「勉強」するしかない。
「自分の個性を知る」というのは、本来「消去法」的な作業なんです。
自分たちの生きている社会の成り立ちを「勉強」することによって、ある世代、ある地域集団の全体にのしかかっている「大気圧」を認識できた人間だけが、それを控除した後になお残っているものを、自分の「個性」として認知できるのです。
■背中の意識を蘇らせる
「身体化した社会規範」のことをぼくは「型」というふうに言い換えているわけです。
「型に縛られていること」。それが日本人の倫理性の特徴的なあり方です。
「紋付き」「男が表に出ると、七人の敵がいる」「都会生活者は自ら進んで知覚をオフにしている」「ハンカチ落とし」…。これらも「型」と「身体感覚」について意味と理由があるのです。
■定型があるものの方が「飽きない」
フリージャズは定型を壊すという芸術表現ですが、それは延々とやり続けるものではありません。多分やっている方が先に飽きてしまうのでしょう。
それに比べると、パンクは商業的なロックに対するアンチテーゼとして出てきましたが、基本的なバンド編成と一応決まったコード進行がありと、最低限の定型をキープしたからこそ、30年続いているのだと思います。
■「らしく」生きる
「身の程をわきまえている」人間だけが醸し出す「品格」
「品」というのは、要するに、「らしさ」の内側にあえて踏みとどまる節度のこと
節度というのは、平たく言えば、無用のリスクは回避する、ということ
■核家族は風通しが悪すぎる
親権の行使に対して、親たちの兄弟姉妹が横から介入してくる、というのが親族の基本構造
男の子の場合は、両親とお母さんの兄弟(おじさん)が最小単位であり基本構造だそうです。うーん、これはちょっと賛同できません。確かに大人数の方が「煮詰まらない」とは思うのですが、これが基本というのは難しいのではないでしょうか。そのおじさんも家庭を持って家から離れていくでしょうし。単なる3世代同居ではダメなのかしら。
でも、家庭が全てプライベートな空間になり、空気が淀む、という意見には賛成です。他人がいないから全てが私的空間になり、他者に対する振る舞いができない。それが学校でも同じようなだらし無さで振る舞うから「他者」に対して拒絶が起き、それがいじめや学級崩壊につながるという論理です。
公私の振る舞い方を切り替えるということの大切さをもう誰も教えない。その方が「風通しが良くなる」ということを誰もアナウンスしない。
家庭は社会であり、家族は他者です。
そこで人間は初めて共同的に生きるマナーを学びます。そのマナーは集団のスケールがどれほど拡がっても、本質的には変わりません。何よりもまず自分を適切に防衛すること、他者にディセントであること、自分の立ち位置を正しくマップすること。
「ディセント」とは「礼儀正しい・友好的な」という意味です。
いちいち抜き出しているとキリがない。
内田さんの文章はいちいちくどくしつこいくらいに噛み砕いて説明してくれるので、読みやすいですが振り返ってみるときちんと自分の身体に溶け込んでいないことがよくあります。何度か読み返して、身体に染み込ませていくことが必要ですね。
冒頭でも書きましたが、「街場のメディア論」「下流志向」もオススメですので、ぜひ読んでみてください。
下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)
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