やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

RADWIMPS「絶体絶命」全曲感想

「いとしきこのアルバム」

東日本大震災があってから、野田君は「いとしき」という支援サイトを立ち上げています。そう、このアルバムは「絶体絶命」ではなく、「いとしき体いとしき命」なのです!
いやー、ほんとすごい。このアルバムは個人的にはラッド史上最高傑作なので、なかなか言葉にするまで時間がかかっています。それなのにこんな話を聞いたらまた唸るしかありません。
いやー、ほんとすごい。


そういうわけで、前回予告したとおり全曲感想です。「解説」や「批評」なんてできないので、あくまでも個人的な「感想」です。


全体として言えるのは、野田君は言葉の使い方が上手すぎる。ある言葉を突き詰めて考えたり、違う視点から見たり、ラップのように韻踏みとして使ったり。何かバカリズムのような「総合格闘技絶対王者」の印象があります。
マスに向けた派手さは無いけど、お笑い・音楽ファンの間では「あいつには敵わない」という共通認識があるような。


1「DADA」
演奏はヘビーですが、野田君の声やメロディーによりポップに聴けます。この「聴きやすさ」がホルモンにもあればなあ。
最近の野田君は「生と死」について歌うことが多いのですが、この曲もそれがテーマ。
「生まれた時すなわちそれが入口 あとは誰しもが死ぬ時が出口」
「近道がしたいのなら すぐそこにあるよ 壱、弐の、参で 線路へ」
「大事に抱えたその命がこの星にとり何よりもいらんのに」
死ぬことこそが地球のため?いや、しかし。
「なんならそこで泣き散らして ただ駄々こねくり回して 何度だって立ち尽くして 邪論、戯論、愚論まき散らして」
やはり生きることに意味はあるはずだ。私たちは考えなければ。


2「透明人間18号」
メロディーはポップ。歌詞は分かりやすいものではありません。
自分は何になれるのか、ということでしょうか?それを、自分の意思でつかむ・変える。
「愛さないで 愛でよう/探らないで 探そう/語らないで 喋ろう/歩まないで 歩こう」
全て自分の意思で動くこと・変えること。


3「君と羊と青」
群青、です。リズムとメロディーがポップでいいですね!
歌詞は、「青春」「あの日の自分が今の自分を動かしている」というものでしょうか。


4「だいだらぼっち」
ささやくように歌う、おだやかな曲。
「ひとりぼっち」についての歌。まわりに人がいるからひとりぼっちになれる。しかし、それは逆に誰もひとりぼっちになれないということ。


5「学芸会」
ラッドには珍しいストーリーテリングの曲。ヘビーな演奏・メロディからバンプの「カルマ」のような印象を受けました。
自分の世界では自分が主人公、しかし現実の世界はそうではない。それを学芸会で「少年D」を与えられた少年を描いています。最後で運動会の話になるので、この曲のタイトルは「少年D」の方が良かったなあ。学芸会の話ではなくて、少年Dの話なので。
個人的には、この曲はこのアルバムでだいぶ上位に入るほど好きです!


6「狭心症
前回のエントリでも書きましたが、Aメロのぎりぎりまで我慢したバンドの演奏が素晴らしい。4分の4拍子しか楽器の音を入れない緊張感がこの曲のテンションを盛りたてます。
「この眼が二つだけでよかったなあ 世界の悲しみがすべて見えてしまったら
僕は到底生きていけはしないから うまいことできた世界だ いやになるほど」
野田君は遠く離れた場所での出来事も、目の前で起きた出来事も、等しく感じてしまうそうです。今回の地震で、彼は何を感じているのでしょうか。
それにしてもこの曲、パンチラインだらけで抜き出しにくい!


7「グラウンドゼロ」
この文章を書くために改めて聴きましたが、いい曲だなあ。
メロディも演奏も素晴らしい。そして歌詞もやっぱり素晴らしい。
常に私たちは未来に向かって歩いている。嫌と思っても未来に向かって進んでいる。その未来は、自分の未来。自分の未来は自分で作って進んでいくもの。


8「π」
この曲はピアノがフィーチャーされています。こういう、リズム楽器として使われるピアノ大好き。
この曲もリズムとメロディーが素晴らしいなあ。
曲の内容は「他人との距離」がテーマ。
「行き当たりでばったりのはずが予定通りだったり もうガッカリ物語り でもやっぱり良かったりしてる」
「細ったり 太ったり 僕はきっと今食べ盛り」
など、韻踏みが上手い。


9「G行為」
個人的にはこの曲がNO.1です。もう、ヒップホップです。エミネムです。トラックの感じも、変な高い声も、エミネムです。「MY NAME IS」のイメージ。
前回のエントリにも同じことを書きましたが、メロディー要素の薄いヒップホップがなぜ他の音楽よりも強いかというと、韻を踏むという言葉遊びの面白さ、そして韻を踏むことによりリズム・グルーヴが強化される、そして言葉が多くあることにより、いわゆる「歌詞」では言い尽くせないディティールにまで踏み込んだ表現が出来るということ、だと思っています。
そして、この要素の全てでこの曲はヒップホップを超えてしまっています。同時期にライムスターの新譜を聴いたのですが、「日常」をテーマにしたアルバムでしたが、全然敵わない。20年ヒップホップをやってきた「キングオブステージ」が20代半ばの若者に圧倒的大差で敗れる。才能とは残酷だ。


10「DUGOUT」
ダッグアウト・・・待避壕、控え席、ベンチ。
歌詞には直接この言葉は出てきませんが、生まれてこの世に出てからみんな迷子。生まれた意味を、意義を、居場所を見い出せない。毎日何かを食べてまでしがみついているこの世界に価値が、意味があるとは到底思えない。しかし。
「その脚の向いた方がいつ何時だって前になんだ」「後ろ振り返ってみりゃ ほら先頭にブッチギって立ってるんだ」
命には、生まれてきたことには、君には意味がある。君の人生に控室なんてない。
こういう激しい曲はバンドの演奏力がよく分かるのでよいですね。サビのベビーかつ疾走感はバンプじゃ無理だ。また、メタルのようなドラムでもポップに聞こえるのは野田君のメロディーの強さだ。


11「ものもらい」
歌詞を読んでもこの「ものもらい」の意味が分からない。当たり前にあると思っていた自分のあれこれが無くなるなんて想像できる?そう、君を失って初めて気がついた。近すぎて見えなかったんだ。近すぎて分からなかったんだ。


12「携帯電話」
マンドリンが入っていて、カントリー風味の曲です。
先行シングルでありましたが、「DADA」「狭心症」のようなヘビーさは無し。軽やかにポップです。携帯電話を自分に置き換えてあれこれ。ラッドにしては簡単じゃない?ちょっと物足りない。なんだかかわいそう。ハードル上がりすぎ。


13「億万笑者」
「明日に希望を持った者だけに 絶望があるんだ 何かを信じた者だけに 裏切りはあるんだ」
「握りしめることもなければ 奪われることもないんだ 失くしたって気付かぬ者からは 何も奪えやしないんだ」
対義語を巧みに使う野田節炸裂です。
ただ、曲全体からはあまりカタルシスを感じられない。その代わり、この曲を聴いていると、野田君のボーカル力の向上を感じます。
以前は彼女のためになよなよした弱っちい強さが魅力でしたが、今作では世界に対峙している力強さを感じるボーカルに成長しました。


14「救世主」
「君=世界」

絶体絶命(通常盤)

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絶体延命(通常盤)(DVD)

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