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やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「僕らはいつまで『ダメ出し社会』を続けるのか」 荻上チキ 感想

情けは人のためならず


荻上さんは、名前は聞いたことありますが他の本は読んだことないしテレビなどでしゃべっているのも見たことがありません。若き論客、くらいの前知識で読みました。


この本を手に取ったのはタイトルのおかげ。私もいつもこういう風に思っています。
誰かを叩いても何も解決しないし、誰かを貶めても自分の価値が上がるわけじゃない。


現在の社会における問題点を、きちんと数字を使って説明していきます。丁寧で優しい語り口はとても読みやすくて理解しやすい。
同じような本でも新書なのに堅苦しい書き方をする人も多いですが、こういう人はメディアの使い分けができていないと思ってしまいます。同じような学者が読む学術書であれば固く重い表現でも構いませんが、新書であればその読者層に合った表現が必要だと思うのです。
その点荻上さんは、普段ネットで文章を読んでいる人や、こういう問題に興味はあってもそこまで専門的な知識のない若い人でも理解できるような書き方を意識して書いているように思えました。


「頭でっかち」「心でっかち」という表現、いいですね。
私も「みんなが優しくなればいい社会になる」という「心でっかち」な考え方を持っていますが、目の前の難題を解決するのにみんなの心の優しさを期待していたらその解決はいつになるやら。
「心でっかち」な考え方が悪いわけではありませんが、問題解決の具体的な方策としては別物です。


ある大学が大学を欠席しがちな学生に対して面談・カウンセリングを行った結果、その大学の退学率が2%下がったそうです。
これだけ聞くと「大学生になってまで学校からあれこれ手を出すべきではない」という意見も聞こえてきそうす。私もそう思います。
しかし、大学の欠席がそのまま引きこもりにつながったり、中退が就職にとって不利になり就職ができず、その結果生活保護を受けるようになったとすれば、その前に手を打ってその危険から遠ざけることは間違いでもおせっかいでもないと思うのです。
もうひとつ。犯罪を犯して刑務所に入った人が再び罪を犯すのは、もちろんその人の性質もありますが、出所後にお金も仕事も居場所もない状態から全てを作り上げなければならない、という厳しい現実があります。そのため、住所や仕事が持てず、再び罪を犯してしまうという負のスパイラルが発生しているのも現実です。そうでなければ生活保護を受けるか。
刑務所にしても生活保護にしても、その原資は私たちの税金です。であれば、「犯罪者を生み出しにくい社会」「ドロップアウトさせない社会」を目指す方が、長期的にはプラスになるのでは、という考え方です。
刑務所や生活保護にはコストがかかりますが、もしその人たちが社会で活躍すれば労働により利益を生み出し、納税により社会に貢献します。
どちらも「そんなの個人の責任だろ」という意見も当然ありますが、それでも社会的弱者を生み出さない社会や、社会的弱者も生きやすい社会の方が「社会全体ではプラスになる」のです。そうであれば、そういう社会を目指しませんか。


私は大学時代に倫理学を学んでいた時があり、そこでこういう「全体功利」という考えを学びました。そしてそれが私の普段の考え方のベースになっています。
例えばゴミのポイ捨てをすればそれを片付けるコストが発生します。もしそれがなければそのコストは別の部分に充てられるのです。
長野県はお年寄り向けの体操教室や、減塩メニューの指導に力を入れています。もちろんこの活動にもコストはかかっていますが、その結果長野県は全国一の長寿社会を達成し、さらに医療費は減少するという結果ももたらしています。トータルではコスト削減になっているのです。しかもお年寄りが元気であれば本人も楽しいし、家族も嬉しい。介護負担も減るし。
目の前のコストと、それにより生み出される利益とコスト。「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな話ですが、もう少しみなさんが大きな・長期的な目で物事を見るようになると社会全体も良くなります。また「心でっかち」な意見ですが。


ラストは、「で、どうするのか」ですが、荻上さんは一例としてNPOの活動例を挙げています。
何かひとつでもいいので社会問題に関心が生まれれば、それについての情報を得るようになる。そこで活動している人たちに参加するのは少々ハードルは高いですが、寄付や活動情報の宣伝などは比較的簡単にできます。
これらの情報を得たり広げたり寄付したりという活動は、ネットがインフラ化した現代だからこそできることです。
社会や政治やマスコミを批判するだけではすぐには何も変わりません。私たち個人が何か動かなくては。そこで目の前にあるネットは大きな力になるし、社会を先導していく活動をしている人たちに対しても応援も支援もできる。


さて、私は何ができるのか。
とりあえず悪口や陰口や足の引っ張り合いはやめて、いいものは素直に褒めたり周りに推奨したりするところから始めよう。