やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

最近読んだ本一言感想

最近怠けていて本を読んでいない。特に物語の世界に入り込むために時間と集中力の必要な小説を読んでいない。
そんな中でもいくつか読んだのですが(小説じゃないけど)、それぞれ独立したエントリになるほど語れる「論」がないので、まとめて一言感想を。


「物語論」木村俊介

物語論 (講談社現代新書)

物語論 (講談社現代新書)


帯には「物語が紡がれていく過程」とあり、小説家や漫画家など17名の創作者が、自分の作品が出来上がっていく過程を語っています。
こういう「ものが出来る過程」のインタビュー、好きなんです。それはスキャンダラスな興味ではなく、0が1になる瞬間を見たい好奇心なのです。
今作は「物語論」ですが、物語論というよりは物語を生み出すための「技術論」という印象でした。小説であればどこまで描写するのか、一人称か三人称か、広げた風呂敷をどう畳むか、あるいは畳まないか、など。
漫画であれば毎回の掴みと引きはどうあるべきか、台詞ではなく登場人物の表情で語らせるためには、ページをめくった右上のコマと次のページに向かう左下のコマの意味、など。
この世界で活躍している人たちはもちろんとてつもない「才能」を持っているわけですが、その才能を具現化するためには、私たちに「分からせる技術・伝える技術」が必要なのです。
このインタビューの中で異色なのは渋谷陽一。彼はロッキング・オンの社長でありながらインタビューもするし原稿も書くし編集作業もやる。さらに写真まで自分で撮るのです。全部自分でやりたいし、そうあるのが当たり前だと思っています(多分)。だから社員にもそれを望むのですが、そんな人材はほとんどいないので、ロッキング・オンは人材が流動的になる。鹿野淳さんを始めとして、ロッキンを出て現在活躍されている編集者・音楽評論家はたくさんいますね。
渋谷さんの意識にあるもう一つは「売れたものは偉い」という意識です。ビーイングが世間を賑わしていた当時、ロキノン周辺はあからさまにバカにしていましたが、渋谷さんは評価していました。サザンを評価するのは曲のクオリティそのものももちろんですが、これだけビッグになってもまだ「売れたい」という健全な欲を評価している部分もあります。
そういう客目線での意識は素晴らしい。経営者でもあるからなんでしょうね。だから彼の主催する「ロックインジャパン」はあれだけお客さんが入っても快適で楽しいのでしょう。
最後に、以前ロッキング・オンにいた柴那典さんのブログから引用します。

最初にちゃんと言っておくと、RIJって、すごくいいフェスなんですよ。トイレや通路の隅々にいたるまで空間全体がきちんとコントロールされていて、ストレスとか環境とかへの不満がほとんどない。かつて自分がスタッフやライターとして関わっていた贔屓目を抜きにしても、本気でディズニーランドのホスピタリティを目指しているんじゃないか?と思うくらい客目線の快適さが徹底されている。

Tシャツと集合写真 〜2010年代の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」論 その1 - 日々の音色とことば:


「独裁入門」香山リカ

「独裁」入門 (集英社新書)

「独裁」入門 (集英社新書)


相変わらず香山先生の本は、読みやすくて共感だらけなのに読み終わると何も覚えていない。自分の考えていることの一部をなぞっているだけだからなのかな?
中身はもちろん香山先生の天敵橋下徹。私も彼の政策には賛成しませんし、それ以上に彼は人の上に立つ器の人間でないと考えています。会社であれば優秀な上司かもしれませんが、国を司る立場にいるべき人間ではないと思います。
香山先生は彼(とそしてかつての小泉純一郎)の「白か黒か」という二者択一の手法が嫌いで、そこは私も同感します。今回の選挙で自民党は大勝しましたが、それで自民党の掲げる政策全てを国民から支持されたと思ってほしくありません。アベノミクスには賛成するけど96条改変には反対の人もいるでしょうし、中国・韓国に対して強硬的な態度を支持した人も反原発かもしれない。
本書の帯には「苛立つ民意はヒーローを求める」とあります。確かにその空気はありますし、それは怖い。小泉郵政選挙なんてまさにその象徴的な出来事であり、結果でした。
香山先生の本は毎回感想が書きにくいなあ。


「商店街はなぜ滅びるのか」新雅史

商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)

商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)


私は商店街の再生は今後の少子高齢化における重要なテーマだと思っているのですが、明快な回答やヒントは得られませんでした。
本書は商店街の成り立ちから没落までを詳しく解説してくれるのですが、私が読みたいのはそこじゃない。現在瀕死に陥っている商店街の復活のヒントやキーワードなのです。
個人的には、商店街の没落は当然すぎる結果です。モータリゼーションに対応できず、ワンストップで何でも買える業態に対抗できず、品質や価格の面でも負けている。
資本主義の真っ当な敗者として市場を去るべきなのに、補助金などにすがってゾンビのように生き延びている。
そして住居と店舗が一体化しているため、店舗の健全な入れ替わりも起きない。そのくせ子どもが店を継ぐわけでもない。
こんな中途半端な業態が生き残れるわけないのに、中心市街地のいい場所に土地を持っているために簡単に動いてくれない。
今後少子高齢化が進むと、車で移動できない高齢者も増えてきます。その際に店や医療などが近距離ででまとまった「コンパクトシティ」は意義を増すのですが、現在の商店街ではそれは実現できません。
本書でも商店街の今後の目指すべき、進むべき道筋は示されていません。そこが一番知りたかったのに。
個人的には、一度商店街はリセットさせたいです。街を再デザインすべき時に来ていると思うのです。無駄な補助金をだらだら垂れ流しするのはあまりにもったいない。しかし、各市町村にそんなお金はないし、そんなことをしたら地元の政治家は一部の住民から大反発を喰らい、次の選挙でひどい目に遭わされるでしょう。だからできない。やっぱり50年後より3年後の選挙になっちゃいますよね。そこで国の出番ですが、国にもそんなお金の余裕がない。
じゃあ、毎年少しの「無駄だと分かっているけど」補助金を垂れ流している方が、トータルではプラスなのでしょうか。難しい。