読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「ヒンシュクの達人」 ビートたけし 感想

書籍

たけしさんの新刊。「週刊ポスト」で連載している連載をより抜き・加筆してまとめたものです。
たけしさんは、こういう発言をしたらどう受け取られるか、という事に関してバランス感覚が優れていますね。たけしさんの「毒舌」は、たけしさんがあるシチュエーション、ある文脈で言うから許されるし受け入れられる。同じ発言でも別の人が言ったらウケないし、正論でもその人が言うと非難される。
では、いくつか名フレーズを紹介します。


政治家の発言とは。

橋下市長が世間から見放されるきっかけになったのは、やっぱりあの「慰安婦は必要だった」って発言だろう。
(中略)
まあ、歴史がどうだったとかそんな話は置いといて、これじゃあ女の票が取れるはずないだろって。この話を持ち出して喜ぶ人がどれだけいるか、怒る人がどれだけいるかって考えりゃ、普通はテーマにしないだろうけどな。

発言自体が正しいかどうかより、その発言によりどういう結果をもたらすか。正論だけじゃ政治の世界は渡っていけない。


最近の若者は。

意識的なのか無意識なのかは分からないけど、若いヤツの多くが、無理して働いて自分の収入やステータスを上げようとしなくても追っかけられる趣味や道楽を選んでしまっているわけだよ。
(中略)
だけど、そうやって自分の視野をわざと狭めている若者がいる一方で、そいつらを「メシのタネ」にしている賢いヤツラもいるってのが、今の時代の「二極化」の実態でさ。頭はいいヤツは、与えられた状況に満足しているヤツラをターゲットに、そいつらの趣味嗜好に合ったものをうまく当てがって商売にしてさ。視野の狭いオタクが気がつかないうちに、ドンドン搾取して儲けてるって図式なんだよな。

これは耳の痛い指摘。私は若者ではありませんが、あまり稼ぐということに対して意欲がありません。物欲もありません。自分の趣味だけにお金を使う、という生き方。あれ、搾取されてんの?俺。


ブーム、視聴率、実力について。

エンタテイメントってものの難しいところなんだけど、実は技術的にうまいか下手かというのは人気商売ではあんまり問題じゃなくてさ。要は、衝撃的で、新鮮で、もう1回見たいと思えるかどうかってポイントに尽きるんだよ。
(中略)
まさに「成熟はブームの終わり」で、全てのエンタテイメントってのは、技術が上がれば上がるほど食えなくなるという矛盾と戦っていくしかないんだよな。

私たちは「慣れてしまう」生き物ですからね。

最近よくある「芸人が芸人を採点する」ってのもそもそもビミョーな話だね。本当に有望な若手が出てくりゃ、自分の食い扶持が脅かされるわけで、潰そうとするのが正しい芸人の姿なんでさ。

松本人志は「芸人性善説」を採っていますが、たけしさんは逆ですね。


生活保護受給問題の話題で「働くこと」について。

とにかく「働くことは辛い」っていうのが大原則なんでさ。楽な仕事なんてどこにもない。
(中略)
いつの間にかニッポン中に「仕事は楽しまなきゃいけない」「自分らしくイキイキと働かなきゃいけない」という幻想がはびこっちまってさ。そんな甘~い現実なんて、実際にはありもしないのに。

結局、口では「暴力団はけしからん」と号令をかけても、お上はそれを本気で壊滅しようとはしない。「被災地を助けよう」って言ってもガレキは受け入れないし、適当な歌や踊りで感動ごっこを演出するだけ。この国は上から下まで「ポーズ」ばかりなんだよ。手ごろなところで落としどころを見つけて、解決したつもりになっちまうんだよな。芸人が生活保護見直しキャンペーンの格好の人身御供にされちまったって面はあるよね。
だけど、その芸人はすぐに謝らずにダンマリを決め込んだせいで、さらに大きな批判に晒されちまった。芸人として重要なのは「社会的な善悪」よりも、「自分の行動が客(世間)からどう見えるか」ってことだよ。それを考えないから、タイミングを失してしまったんだよ。とにかく芸人の基本は、客の反応を見ることなんだっての。

世間からどう見えるか、が判断基準。ウケてるな、引いてるな、というジャッジが舞台上だけでなく、芸人としての立ち振る舞いとして重要、ということですな。


教育論。

「いじめ問題」が毎日話題になってるけど、これはもう「いじめ」じゃなくて「犯罪」だろうよ。
「暴行罪」「脅迫罪」「恐喝罪」と、ホントの罪状で呼んでやらないと。「これは犯罪だ」ってことをガキの足りない頭でも分かるようにしてやんないと、また同じことが起こっちまうぜ。

今この国には「努力すれば夢は叶う」って言葉や考え方が当然のように広まっている。だから親は、一刻も早く子どもに夢を持たせて、その道で頑張れってハッパをかけているわけ。だけどそれは、一歩間違えると非常に危うい教育法だと思うな。
(中略)
(ゴルフの)松山や(野球の)大谷みたいになれるのは、どう考えたってごく一部なんだよ。(中略)それでも親は「努力すれば夢は叶う」と子どもに言い続けるべきなのか。思うような結果が得られなければ「努力が足らなかったからだ」って子どもを突き放してしまうのか。
(中略)
それよりも親にとって大事なのは、夢破れた子どものために逃げ道を用意しておいてやることだね。(中略)人間は決して平等じゃない、努力したって報われないことの方が多いっていう厳しい現実を、子どもの頃から親の責任で叩きこんでおいてやるってことなんだよ。(中略)本当は「努力すれば叶う夢もごくまれにある」ってことなんだよ。
自分には才能がないと分かってからが勝負なんじゃないか。

私もそう思います。今の時代は「夢」背負わせすぎ。子どもの頃は自分の将来をそんなにちゃんと考えてなんかいません。だから将来の夢にパイロットとか野球選手とかの「適当な夢」が多くなるんであって、本気でそこを目指している子なんてほぼいません。


みのさんの話。

みのさんは会見で「30過ぎて子どもがいる男に、親が責任をっていうのはいかがなものか」なんて話して叩かれていたけど、(中略)こういうとき、「正論」を言うことが必ずしも「正解」とは限らないってのが難しい。(中略)それはまさに「言わない約束」で、「それを自分で言っちゃおしまい」ってことがある。心の中ではいろいろと思うことがあっても、あえて頭を下げていれば、周りがいつか「それはおかしいんじゃないか」って言ってくれるわけでね。

正論が通らない場合がある。トータルで正論を通すために今は頭を下げる、というやり方も、時には必要。

最近、「自分が勝った」と思った瞬間に、相手をトコトン叩きのめしてやろうという感覚の人間が増えたような気がする。自分の方が有利だと分かった瞬間に居丈高になるんだよな。
(中略)
人間、自分が圧倒的に優位な立場にいるときに、相手にどう振る舞うかで品性みたいなものが分かる。「溺れた犬は叩け」じゃないけど、弱っている相手、弱い立場の相手をかさにかかっていじめるのは、とにかく下品なんだよ。

そうです。損得や勝ち負けではなく、品がいいかどうか、という判断基準がもっとあっていい。


ざっとですが、それでも結構長くなってしまいました。
こうやってまとめてみると、たけしさんの判断基準、つまり美意識とか恥とか意地とか品とかが分かってきますね。やはり、お金とか勝ち負けは最重要ではない。そうではない自意識で生きていくと、結果としてお金だったり地位が付いてくるんですよね。
これはしゃべりをまとめたものなので、とても読みやすいです。30分あれば読めそう。前作「間抜けの構造」よりは軽いですが、それでもパンチライン続々ですので、ぜひ。


たけし関連のエントリ↓
パンチライン続々!「サワコの朝」 ゲスト:ビートたけし - やりやすいことから少しずつ
「間抜けの構造」ビートたけし 感想 - やりやすいことから少しずつ


ヒンシュクの達人 (小学館新書)

ヒンシュクの達人 (小学館新書)

間抜けの構造 (新潮新書)

間抜けの構造 (新潮新書)

ヒンシュクの達人(小学館新書)

ヒンシュクの達人(小学館新書)