やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「『空き家』が蝕む日本」 長嶋修 感想

空き家問題、個人的に興味があります。

空き家率、13・5%で過去最高…社会問題化 : ホームガイド : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/pdf/yoyaku.pdf

全国平均で13.5%が空き家。10軒家があったら1軒以上は空き家。100軒あったら13軒空き家。多いな!
私の住んでいる地域にも空き家はいくつもあります。もったいないし、防犯上も危険。私の住んでいる地域は雪も降るので、建物の倒壊も心配です。


理由①「更地にすると固定資産税が多くかかるから」
これは、もともと住宅が足りない時代に

「更地のまま放置しておくより、住宅を建てた方が税金安いですよ」というアメを使うことによって建設需要を喚起しようとしたわけです。

今や住宅数は充足、人口・世帯数が減少する局面です。時代が変わり、空き家の存在が問題視されるなかで「使わない住宅を壊さない理由」としてこの制度が利用されているのは、この税制の本来の趣旨にも反します。


理由②「新築住宅建設による経済効果が大きいから」
例えば3000万円の新築住宅を建てると、波及効果は約2倍、6000万円分の経済効果があるそうです。
だから経済が落ち込むと経済対策としてすぐに新築住宅建設に関する税制優遇や住宅ローン金利軽減などの政策がとられ続けてきました。
で、その結果が

新築住宅建設に税金を投入することで空き家を増やし、その対策のためにまた税金を使う

という構図になっています。


そして日本では住宅は建てた瞬間から価値の下落が始まり、25年程度で建物の価値はほぼゼロになります。


著者は不動産業界で働いてきた人なので、住宅業界の裏事情なども詳しく書かれていますが、まあそれはのぞき見くらいにしておいて、「で、どうするの」という話です。


対策①「リバースモーゲージ

自宅を担保にお金を借り、死ぬまで返済不要。本人死亡後、不動産を売却することで借入金を返済するリバースモーゲージといった仕組みは、本格的な高齢化で社会保障費の増大が懸念される我が国において必ず実現させたい

しかし、住宅の価値毀損やきちんとした評価を行う仕組みがないため、この仕組みは実現できていないそうです。


対策②「空き家課税」

例えば「3年以上空き家にしていた場合は課税される」というもの。(中略)賃貸など、住宅として活用されている場合に限り、先の固定資産税権限措置が適用され、街の価値を毀損する放置空き家はさらなる課税対象とするのです。

これ、いいですね。更地にした方が安いから壊す、という選択肢もありますが、賃貸など有効活用すればさらにお得になる制度だと、上手く住宅が回っていきそうです。


具体的な対策は専門家に訊けばいろいろアイデアを出してくれると思いますが、そもそも人口減少に向かっている日本でこれ以上新築住宅に固執する政策はナンセンスすぎる。例えそれが短期的にはプラスだとしても、長い目で見れば効率的な政策でないことは明らかです。でも、来年の1万円より来週の千円を選んじゃうんだよな。政治家は今しかないから。100年の計なんて持ってないから。100年後は自分死んでいるので関係ないから。


中古住宅が新築に比べて経済波及効果が少ないとしても、空き家対策のためにまた税金を使うのはアホらしい。今後人口減少社会に向かっていく中で、徐々にコンパクトシティに舵を切らなければならないのも明らかなのに新築を推し進めると、土地に余裕がないからより郊外に広がり、インフラの整備にまたお金(税金)が余計にかかる。
地域が近くに固まっていれば、上下水道・道路の整備・除雪費用など、様々なことがコンパクトで済みます。つまり、少ない税金で賄えるのです。


また、最近の異常気象で山崩れにより家が被害に遭うニュースをよく見ますが、こういうのも「何でこんな山際ぎりぎりに家建てているのかな?」と思うことがしばしばあります。これも住宅が郊外に広がった結果、山ぎりぎりまで宅地となったため、という側面もあると思います。


確かに中古住宅では見た目の経済指標はあまり上昇しません。でも、それに引き換えのコストも下がるのであればプラマイでそんなマイナスになるとは思いません。
また、中古住宅の価値がきちんと評価されるようになれば、金持ちは今ある住宅を手放して新しい新築を建てるかもしれません。子育てを終えた老夫婦は住んでいた住宅を担保にしてコンパクトなマンションに移ることが増えるかもしれません。そして新築住宅には手が出ない人たちもマイホームを手に入れることができるようになるかもしれません。
経済指標以外で人々の幸福を測ることができるなら、こちらの方が幸福度は高くなるのではないでしょうか。


里山資本主義」などと同じく、地域でお金や価値をぐるぐる回す、という社会形態がもっと評価される時代になるべきだと思うのです。
政治家の皆さん、頑張ってください。


ちょっとだけ関連エントリ↓
「里山資本主義」 藻谷浩介 感想 - やりやすいことから少しずつ


(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)

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