映画「アルゴ」感想 - やりやすいことから少しずつ

「分からない」という怖さ

「アルゴ」を見ました。
アカデミー賞作品賞受賞作品ですが、歴史実話系にあまり興味のない私はスルーしておりました。（同じ理由で「ミュンヘン」もまだ見ていません）
それでもアカデミー賞作品賞ということは名作に違いないわけで、レンタルしてきました。
公式HP↓

映画『アルゴ』3.13 ブルーレイ＆DVDセットリリースレンタル/オンデマンド同時開始

ベン・アフレックの監督としての技量は分かりません。そもそも私は演出とか編集とかカット割りとか構図とかが分からない。
ただ、「二枚目だけどアホっぽいアゴ割れ俳優」という私のベン・アフレックに対するイメージは変わりました。カッコいいじゃん！アゴをヒゲで隠しているからかな。

この映画のキモは「人質を救出するために架空の映画製作をでっち上げて出国させる」という筋書き。こんな荒唐無稽なお話が実話なんだもんなあ。まさに事実は小説より奇なり。ロンハーでもこんなドッキリやらないよ。

映画は、前半はゆっくり進みます。ちょっとだれ気味で見ていました。これがトニー・メンデス（ベン・アフレック）がイラン入りするところから緊迫感が増し、いざ出国の場面では「どうなるどうなる。やばいやばい。ばれるのかばれないのか。間に合うのか間に合わないのか」というハラハラし通し。結末は分かっているのにドキドキしちゃう。古典的ですが王道の展開にまんまとはまってしまいました。

「架空の映画製作」とのことなので、イランでセット組んで撮影するような話かと思いましたが、ロケハンという設定なのですね。
その分、説得力を増すために脚本はあるしポスターもあるし役者もいるしホン読みもあるし新聞記事もあるし制作会社もあるしと米国では準備万端。

一度は作戦中止を命じられたトニーが出国を強行し、米国でその段取りに奔走する上司がとてもカッコよかった。大統領の了承が必要なのでお偉いさんに直接交渉し、それがダメなら高官の子どもの関係者を装って直接コンタクトを取る実行力とスピード。
結果、すんでのところで飛行機のチケットを手配することに成功。これ、秒単位のタイミングでしたが、こんなにギリギリのはずはない。と思っていたら、この辺のエピソードは全部「盛り過ぎ」だそうです。まあ、そりゃそうだよね。

宇多丸が映画『アルゴ』を語る - YouTube
私も宇多丸さんと同じくバス発車の場面では「そんな小ネタの天丼いらないよ！」と思いながら見ていました。

ラストの飛行機を追って追跡する国境警備隊は、どうするつもりだったのでしょうか。6人のために飛行機ごと撃ち落とすつもりだったのでしょうか。結果「ただ見送る」という、何がしたかったのか分からないクライマックスでした。

この作品をレンタルしたのは1週間前なのですが、その間、ISによる日本人人質事件が起こったので、どうしてもそのことも頭によぎりながら見ていました。
この映画の事件の発端はアメリカが悪い（映画でも冒頭でそれは認めている）のですが、イラン国民のすぐ激高する「怒りの瞬発性」やずっと怒っている「怒りの持続性」に得体のしれない怖さを感じました。
私は「日本語吹き替え＋日本語字幕」で見たのですが、イラン国民の発言は吹き替えも字幕もほとんど出ず、「言っていることが全く分からない」状態でした。それが怖い。「分からない」って怖いのです。
劇中、ロケハンで市場を視察している最中におじさんが怒る場面があるのですが、何について怒っているか分からないというのが何とも言えず怖い。一応「無断で撮影した」というのが発端ですが、写真を返すと言っても怒りは収まらず、「自分の息子は米国製の銃で殺された」という言いがかりでしかない理由で怒り続けます。
何なの、怖い。話が通じない。

そう、「話が通じない」というのが怖いのです。
何を言っているか分からないという物理的な「分からない」もそうですが、価値観や倫理観が自分たちと全く違うので、何に対して怒るのか、何がOKで何がNGなのかが分からない。宗教の違いももちろんあるでしょうが、それ以上に様々な「基準」が違うから怖い。
劇中のデモ行進や国旗に火を点けたりする暴力的な行為も、私には全く分からない。そこまで怒る出来事ってあるのか。怒ったとしても、そこまで暴力的な行動に出られるのか。怒ったとしても、そこまでずっと怒りを持続させることができるのか。
文化・宗教、そして民族性の違いに「こりゃ同じ土俵で話し合うことはできないわ」と思ってしまいました。

作品としては面白かったですが、アカデミー賞作品賞取るほどかなあ。
あと、「エクステンデッドバージョン」は見ていないのですが、何が違うのでしょうか。

映画『アルゴ』予告編1【HD】 2012年10月26日公開 - YouTube