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やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

音楽の価値。文化とビジネスと。

雑感 音楽

今が斜陽なのか、過去がバブルなのか


2015年7月7日の「クローズアップ現代」を見ました。「あなたは音楽をどう愛す?~新・配信サービスの衝撃~」の回。


音楽の聴き方がレコードからCD、そしてダウンロードに移ってきて、今またストリーミングという新しい形態に移ろうとしています。もはや音楽は所有するものからアクセスするものになっています。


番組の趣旨は「音楽にお金を払う人が少なくなってきていて、音楽という文化は風前の灯だ。それに対して制作側やミュージシャンはどうするのか」というものでした。
TwitterのTL上でも「対価を払いましょう。ダウンロードではなく、CDを買いましょう」という意見が結構多くありました。
しかし、私はあまりこれらの意見に全面的に賛成できません。番組を見ていても納得もしながら「そうかなあ」と思うところもありました。


まず、番組の中で気になったところで本質でない部分を最初に片付けよう。
音楽の聴き方が変わることに対して様々な人に意見を求めていましたが、ITジャーナリストに訊くのは間違い。音楽に関係ないもん、この人。それだったら音楽評論家に話を訊くべき。
もうひとつ。「見た目重視の時代になってきた。例えば男性でピアノの弾き語りでキャラクターが地味みたいな男の子だと、すごい曲が良くてもどうすればいいのかなみたいな」と言っていた音楽制作側の人が半笑いでしゃべっていたのが気になりました。NHKのカメラの前で緊張しているのでしょう、照れも恥ずかしさもあるのでしょう。でも、半笑いでこういうコメントを言うと、地味な男の子に対して「おめー地味だから売れるわけねーよ(笑)」と思っているように見えてしまいました。もちろんそんなことないんだろうけど。
あと、音楽のヒットチャートがアイドルばかりになっているという比較がありましたが、今回のテーマは音楽の聴き方・お金の落とし方なので、これは関係ない。幅広い音楽にお金をかける余裕がなくなった結果がこの状況ということなのでしょうが、そういうVTRの作りになっていなかった。


さて、本編。
そもそも、今の時代CDが売れない、音楽業界がピンチだという前提が違うのではないかと思うのです。
番組の中で「音楽市場がピーク時の3分の1に激減した(5,898億円→1,840億円)」と折れ線グラフで説明がありましたが、同じ表で1988年も2,000億円程度でした。それ以前はもっと低かったでしょう。
ということは、今が音楽不況なのではなく、90年代が異常だった(バブルだった)、ということではないでしょうか。
音楽は儲かるから音楽に関係する会社が増え、ビジネスとして大きくなりすぎたから、元に戻ったときに「大不況だ」となっているだけなのでは。


そして、今の時代売れている曲はアイドルばかりという分析もありましたが、70年代~80年代だって歌謡曲・アイドルばかりだったでしょ。つまり、「芸能」が強いという点では今と変わらない。ここでも「90年代が異常」だったのです。


その結果、音楽の多様性が失われたという分析も間違っています。今ほど多様な音楽が溢れている時代はないです。
確かに90年代と比べれば音楽のパイは減り、売れ線や芸能以外にお金(育成・宣伝)をかけることは難しくなってきたので、見た目の多様性は減っています。しかし、今はDTMやボカロの進化などで廉価で音楽を作ることは可能になったし、ニコ動やSNSなど、発表する場も宣伝するツールも多様化しています。以前だったらレコード契約されないような変な音楽でもそれが好きな層に届けることができるようになったのです。
ただ、この方法は自分から新しい情報音楽を求める一部の積極的な人にしか届きません。一般大衆に多様な音楽を届けるという意味ではこの「音楽不況」は残念です。
だからこそ番組中にピーター・バラカンさんが言っていた「音楽に多様性がないのではなく、メディアから伝わってくるものに多様性がなくなっている」という言葉は大きい。ラジオでもっといろんな音楽をかければいいのにね。


この「音楽が売れない」は「CDが売れない」ということですが、それはレコード会社の視点であって、リスナーとしては過去最高の音楽環境で音楽に接することができる時代です。
それでも「CDを買わずにダウンロード・ストリーミングするから音楽は不況だ」と現代の若者を責めますが、そういう安価なリスニング環境があったらそりゃ飛びつくでしょ。違法の無料アプリは別として、安価でたくさんの音楽に接することができるんだもん。いちいちCD買っていられないよ。
大人は若者を責めますが、その大人が若者だった時代に同じサービスがあったら絶対CDなんて買ってないって。「ジャケットがいい」「シングルでないアルバム曲がいい」なんて言うのは一部のコアなファンだけ。大多数のミーハーな一般人は安くて手軽な方を選ぶに決まっているでしょ。


私は、CDに特典を付けたりライブ会場で物販に力を入れたり握手会などで直接触れ合う機会を設けたりすることは全く批判しません。CDが売れない、音楽にお金を出すという意味が変わってきた現代で、音楽活動を円滑に進めるためにはどうすればいいのだろうと考えれば、自ずとこのようなやり方になるでしょう。
いい音楽を作り続けるためにはお金が必要で、CDにお金が落ちないのであれば、別のやり方でお金を出してもらうしかない。


そもそも、音楽なんて生きる上で必要ないものです。いや、必要ないとは言いませんが、なくても死なないものです。だからこそモーツアルトの時代からパトロンがいて、音楽家はその庇護のもと活動をしてきました。
現代の音楽もそういう一部の熱心なファン、つまり「タニマチ」に支えられて活動していく時代になってきたのだと思います。


ただ、ダウンロード・ストリーミングが全く収入にならないのは問題です。
番組では「CDアルバム1枚:110円、ダウンロード1曲:16.6円、ストリーミング1再生:0.16円」と説明がありました。こんなに違えば確かに生活できないよな。
※しかし、CDの1曲換算は8.48円となっていました。あれ、ダウンロードの方が高いぞ…?
また、私はストリーミングの分配の仕組みを知らないのですが、ピーター・バラカンさん曰く「CDやダウンロードは1回買えばおしまい。しかしストリーミングは1再生は安いけれど、10回再生されれば10倍、100回再生されれば100倍の利益になる」と言っていました。それが本当なら、この方式はミュージシャンにとってもいい仕組みなのでは?
テイラー・スウィフトがストリーミングに対して怒っていると番組内で紹介されていましたが、あれってAppleMusicが無料期間は印税を支払わない、ということに対して怒ったとニュースで見ましたが、ストリーミング自体に怒っているの?誰か教えてください。


といろいろ書きましたが、しばらくはそんなに変わらないと思っています。
私の周りで、音楽を熱心に聴いている人なんてほんの一握りです。その中でもこのストリーミングに課金する人はさらに一握りです。ほとんどの人はAWAもLINEMUSICもAppleMusicもその存在自体知らないです。
普段「クロ現」を見る層からすれば、ダウンロード・ストリーミングなどは単語も仕組みも全く理解できないでしょう。
この新しい流れに注目しているのは、まだほんのわずかしかいないのです。大人はもちろん、若者でもまだほんのわずかでしょう。


今後しばらく、売れないと言われながらCDは存続していきます。それは、他に音楽を入手する方法を知らない人と、特典目当てに買う人がいるからです。CDがなくなるという事態は、あったとしてもまだ当分先のことです。
私だって音楽を聴く環境は、自分の部屋はCDかi-Pod(ステレオがi-Pod対応なので)。車の中はCDを録音したHDD。外を歩くときはi-Pod。スマホで音楽を聴くということはしません。容量やデータ通信料が怖いので。
私は自分を熱心な音楽ファンだと思っていますが、それでもストリーミングのリスニング環境にはなりません。Wi-Fi環境等がもっと整備されれば変わるかもしれませんが。
なので、そんなに急にストリーミングに代わるということはないと思っています。手段が増えてよかったね、でいいんじゃない?


音楽は素晴らしい。なくなることはありませんが、それを届ける手段はビジネス・利益という現実的な問題をクリアする必要があります。業界もミュージシャンも利益の出るビジネスモデルを、ぜひ作ってください。私たちも、明日の素晴らしい音楽のために今日お金を払いましょう。


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