やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「フリースタイルダンジョン」で裾野は広がる。その先はまだ分からない。

希望を持って期待するしかできない


「フリースタイルダンジョン」というテレビ番組があります。
www.tv-asahi.co.jp
私の住んでいる地域では放送されていないのですが、YouTubeでは全ての回を見ることができるので、全国誰でも見ることができます。


フリースタイルやMCバトルはB-BOY PARKなどがあり、90年代の日本語HIPHOPの盛り上がりのときはチェックしていました。KREVAが3連覇していた時代。
最近は全くチェックしていなかったのですが、今もいろいろな大会があるのですね。皆さん地下深く技磨くライマー(RHYMESTER「耳ヲ貸スベキ」より)なのね。


で、この番組なのですが、皆さん上手い!KREVAの時代の動画と比べるとその差は歴然。日本語HIPHOP、進化しています。
日本語HIPHOPの進化については関連エントリとしてこちらも読んでください。
ese.hatenablog.com
この番組が好評なのも、皆さんラップが上手いからです。聴くに堪えうる、いや聴くに値するレベルでバトルが繰り広げられているから、番組として盛り上がります。
テレビ的なことをいうと、字幕が出るのがいい。何を言っているのかが分かるとより楽しめますから。


そもそも、絶えず言葉を発するというだけでもまずすごい。実際誰かとフリスタゲームやってみればよく分かる。これがレベル1。さらにビートに乗って言葉をはめていくというのがまた難しい。単なる早口でなく、フロウとしてのラップ。これがレベル2。レベル3で韻を踏む。即興でしゃべりながら今言った言葉と次に言う言葉を掛けていく。頭の中どうなってるのかな。レベル4ではこれらすべてをストーリーとして成立させる。
こんな大変なことを、皆さん楽々と披露しているのです。すげえ。
●レベル1:絶えず言葉を発する
●レベル2:ビートに乗って言葉をはめていく
●レベル3:韻を踏む
●レベル4:意味の通るリリックに仕上げる
番組を見ていて私が特に感心するのは、フロウの豊富さ。同じビートでもいろいろなアプローチでビートに乗っている。一つのバトル、一つのヴァースの中でもいろいろなパターンを披露してくれるので、聴いてきて「おおっ!」と盛り上がります。個人的に、パンチラインももちろん大好きですが、フロウにきちんと乗っているラップが好きなのです。


私が気になるのは、モンスターと審査員の人選。なぜサイプレス上野はプレイヤーでKEN THE390は審査員なんだと。なぜ漢はプレイヤーで晋平太は審査員なんだと。どっちがどっちでもいいのですが、「何で俺がこっちなんだよ」というもめ事は内部ではなかったのかな。いや、なければいいのですが。


これを書いている現在、13回まで進んでいるのですが、ストーリーとしてもいい。開始早々はモンスターが強くて誰が出ても敵わない。審査員からも「モンスターは強いんだから、チャレンジャーはもっと対策立てなきゃダメだよ」と苦言を言われたこともありました。
そして中ボスとしてのR-指定が出てきたらこれがめちゃめちゃ上手い、強い。こりゃダメだ。上手いからプロなので、素人が出ても勝てるわけがない。
そう思っていた時に焚巻がついにR-指定も撃破し、初めてラスボス般若が登場。
般若の実績は文句ないものですが、それでも久々のMCバトル。ここまでハードル上がった状態でどこまでできるのか。それが「これぞ般若!」のラップで般若の勝利。
そして次の回からこれまで負けが多かったT-PABLOWやサ上がまたギアが上がってさらに強くなる。
本筋のストーリーも登場人物もみな成長している感じがとてもよい。少年マンガみたい。


この番組をきっかけにラップを始める少年も出てくるかもしれません。ラップや日本語HIPHOPにとってテレビで啓蒙も熱狂もできる番組があることはとてもありがたいことです。


でも、私は実はMCバトルはそんなに好きではないのです。
ひとつは、悪口が嫌いだから。もちろんバトルなので相手を倒すのが目的。そうなると「俺はお前よりすげーんだぞ」になるのは仕方ないのですが、Disは好きじゃないのよねー。
なので、Disでなくあるお題に対してラップするというのはどうでしょう。そうすればスチャダラパーのような人たちも出られる。


もうひとつは、MCバトルってラッパーの実力のほんの一部のみの闘いだから。
即興でラップできるのは確かにものすごい能力ですが、音源を作るときには全く関係がない。
MCバトルはサッカーのリフティングみたいなもので、それだけが上手くてもサッカー自体の上手さにはならないのです。でも、リフティングが上手いというのはサッカーの上手さの一部だし基礎体力みたいなもの。
MCバトルができるほどの能力がないとライブで盛り上げることもできないでしょうから。


MCバトルを否定するわけではないですが、それだけがラッパーの実力ではないよ。面白いラップやいいリリックも含めてラッパーの実力であり魅力なのです。
私はきちんと構築したリリックを聴きたい派なのです。RHYMESTER育ちなので。


この番組は日本語HIPHOPの裾野を広げることに貢献しているのは間違いないですが、偏見やステレオタイプな見方もまた増やしてしまうのでは、という危惧もあります。ラップはヤンキーみたいな悪そうな奴がやるもんだと。
この番組でもいろいろなタイプのラッパーが登場していますが、でもまだそういう空気や雰囲気はあるなあー。ぼくのりりっくのぼうよみみたいなタイプのラッパーも出てきているのに、そういうラッパーはこの番組には出ません。
裾野は広げても、範囲は広がっていないのでは。


とはいえ、一つの番組にそこまで求めるのは野暮な話。この番組は確実に日本語HIPHOPの拡大に貢献してくれています。そしていつかこの番組出身のラッパーがスターとなって日本中に知られる日が来るかもしれません。
未来は分からない。希望を持って期待するだけ。


関連エントリいくつか↓
ese.hatenablog.com
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番組タイトルはこのアルバムに収録されている「フリースタイルダンジョン」から。

空からの力

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