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やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「ウォーリアー」 感想

映画

刃牙であり喧嘩商売であり、PRIDEでありUFCであり、映画だった。


映画「ウォーリアー」を見ました。これは2011年の作品なのですが、日本では劇場公開されず、DVDにもならず、歴史から忘れ去られようとした作品でした。それが、主演のトム・ハーディが「マッドマックス怒りのデスロード」の主演になったことからようやく2015年にDVD化されたのです。なのでTSUTAYAではまた準新作扱い。
私も全くこの作品のことは知らなかったのですが、Twitterで「これは面白いぞ」という熱いつぶやきを散見し、どれどれと思ってレンタルしてきました。


燃えた!
こんな傑作を、ただ無名だからスルーするとはけしからん!


公式HP↓
映画『ウォーリアー』2015年8月4日(火)Blu-ray&DVDリリース
まず、主要3人の絶望と孤独と動機の表現が素晴らしい。
トム・ハーディ演じるトミーは、アル中の父親から逃げるために母親と家を出ます。しかし兄は恋人がいたため家に残り、母親と二人きり。もちろん生活は楽ではなく、母親は困窮の中病死しました。孤独と絶望を埋めるために海兵隊に入った彼はそこでも味方の誤射により友人を失います。父、母、兄、友人を失い、さらに国からも裏切られる。こんな絶望がありますか!軍から逃げることを決意したトミーですが、その最中に装甲車の事故に出くわし、軍の仲間を救出します。


トミーの兄ブレンダンは高校の物理の教師として働き、娘二人に恵まれ幸せな生活を送っていましたが、娘の心臓病の治療のため多額の費用が必要となり、また多分リーマンショックの影響もあって住宅ローンの支払いが困難になり、あと3か月でマイホームを手放すことになってしまいます。ローンの返済のためMMAの草ファイトでファイトマネーを稼いでいた彼ですが、学校にばれて停職(しかもその間無給)になってしまいます。
ブレンダンは当時恋人(現在の妻)がいたため母・弟とともに父親から逃げることはせず、父親のもとに残ることを選択します。これは恋人を守るためでもあり、レスリングの才能のあった弟にかかりっきりだった父親の愛情を自分に向けてもらえるチャンスだと思ったからでもあります。しかし父親は自分には愛情を向けてくれず、酒に溺れるばかり。結果彼も父親と絶縁し、娘にも会わせない状態です。
兄なのに父親からの愛情を受けられず、弟からは裏切り者扱い。そしてやっと掴んだ家族という幸せとその象徴であるマイホームを手放さなければならない悔しさ。こちらも厳しい現実です。


そしてその父パディは、昔は名うてのレスリングトレーナーでしたが、いつしか酒に溺れ家族は崩壊し、現在は力のない老人。何とか3年ほど禁酒をして家族との関係を再生させようとしても、息子二人からは疎まれ(ブレンダンには娘に「あの人誰?」と訊かれ「近所のおじいちゃん」と言われる!)、孤独を深めるばかり。
もちろん全ての原因は自分でありお酒なのですが、きちんと反省して酒を断っても、全く相手にされない。トミーからはトレーナー以外の親子関係は全て拒絶され、試合前にリラックスさせようと身体に触れるのも「触るな」と言われる。ブレンダンからは「家には来るな。手紙か電話だけにしろ」と言われ、孫にも会わせてもらえません。


と、主要登場人物全員が絶望と苦境と孤独の中にいるのです。
そんなとき、新しい総合格闘技の大会が開かれることになります。何と賞金500万ドル!約5億円ですよ!トミーは軍の同僚だった友人の家庭のために、ブレンダンは家を取り戻すために出場します。


ここまでの背景や動機の部分の説明が上手い。トミーの動機は友人のためという部分もありますが、友人とはいえ他人のためにそこまでやるか?という感じもします。しかし、全てに裏切られ続けた彼にとって唯一の信頼であり希望が友人の家庭なのです。また、彼の絶望と孤独は闘いでしか発散することができず、それも動機の一つになっています。
ブレンダンが家を取り戻すのに固執する(妻は「家なんてなくなってもアパートでいいわよ。何とかなる」と言っているのに)のは、マイホームこそが自分が幼い頃体験することができなかった「家庭」そのものだったからでしょう。父親が家に来ることを拒絶するのも、自分が築いた「家庭」には触れられたくなかったから。


試合前日にようやく出会う兄弟。兄は弟に和解を呼びかけますが、それぞれの理由があり今の状態になってしまった家族なので、仲直りは難しいようです。


そしていよいよ試合ですが、この描写が素晴らしい。本当にPRIDEやUFCの試合を見ているようでした。実際、選手役にはMMAの選手が出ているからリアリティはバッチリ。単なる筋肉モリモリだけではなく、グラウンドでの攻防やパウンドを振り下ろす様など、動きにリアリティがありました。そりゃそうだ、本職なんだもの。
あと、試合は2日間のトーナメントで行われるという設定もいい。トーナメントだからまぐれ勝ちもあるわけで、ブレンダンが勝ち上がる根拠になります。そして、パンチ力だけではなく関節技一発で大逆転も可能というMMAそのものの競技性も展開に説得力を持たせます。


周りの応援も試合(と映画)を盛り上げます。ブレンダンの試合に反対していた妻は、最初はテレビも見れず、結果を知らせるメールをドキドキしながら待つだけ。夫が勝ったことを知ると、次の試合はテレビで応援し、翌日には会場のリングサイドで夫を応援します。高校の校長もテレビで見ていたのを翌日にはドライブインシアターで生徒と一緒に応援。この盛り上がっていく感じ、いい。
トミーは最初は全くの孤独ですが、軍の英雄というニュースが流れるととたんにファンが増え、翌日には海兵隊の人たちがリングサイドの一角を占めて応援してくれるようになりました。そのチケットどうやって入手したんだ、という疑問は置いておこう。


初日の夜、トミーからなじられ、ついに酒に逃げてしまう父。朝、ボロボロになった父を見たトミーは、自分の胸に引き寄せて眠らせます。あの憎むべき父親は既におらず、そこにいたのは弱った老人でした。


そしていよいよ兄弟の決勝戦。ここでこの二人が兄弟であるということも明かされ、さらに盛り上がる会場。
試合の前半はトミーの優勢で進みますが、途中関節技でブレンダンはトミーの肩を脱臼させます。これで勝負ありですが、トミーは闘うことを止めません。この辺、レフリーはなぜドクターチェックしないんだというツッコミは無視だ!
もはや勝てる見込みはほとんどないのに闘うことを止めないトミーに対して、背後から首を極めるブレンダン。「愛してる」と言いながら絞める兄に、ついにタップする弟。ついに兄弟が和解した瞬間です。さらに、この「後ろから抱える」という構図は、朝トミーが父を眠らせたのと同じですよね。


こうして、家族は再生の第一歩を踏み出すことができました。ご都合主義かもしれませんが、拳を交えるというのは、言葉よりも多くを語り、いろいろなものを溶かすのでしょう。


熱くていい作品でした。
役者の皆さんはみんな素晴らしいのですが、やはりトミーを演じたトム・ハーディが素晴らしかったです。ほとんどしゃべらない役ですが、その無口さと目つきだけで孤独と絶望を表現していました。「ダークナイトライジング」のベインより、「マッドマックス怒りのデスロード」のマックスよりもよかった。


こういう物語の場合、動機が大事で、そこがきちんと描かれていないと感情移入ができません。主人公はこういう動機があるから絶対に勝ちたいし、厳しいトレーニングにも耐えることができる。そしてそれを見ている私たちも応援できる。
本作はそこをしっかりと描けていたので、よかった。「クリード」はその点が不満だったのです。
で、この動機の部分と兄弟・親子の関係性を描きながら試合部分も説得力あるボリュームで入れるとなると、相当大変。よく140分に収めたな、と思います。


カメラワークについて。
本作は映している対象の手前に何か物があり、それ越しで撮影している構図が多かったです。最初は「何でこんな撮り方しているんだろう」と思っていましたが、後半の試合場面になると金網越しで撮っている場面が多く、これら全ては意図があってこういう撮り方しているのですね。
つまり、「他人が入り込めない壁」のようなものです。それはトミーの心の闇であったりブレンダンの家族に対する思いであったりパディの息子に対する距離であったり。もちろん試合ではセコンドの声は聞こえても他人は手出しはできない。金網の中の二人しか決着をつけることはできない。
この撮り方、上手いなあ。


もちろん、ツッコミどころもあります。
まず、トミーとブレンダンはどちらも実績もない無名選手なのにこの大会になぜ出られるんだ、という点。トミーはジムの先輩を倒したから、という理由ですが、それでも実績をもう少し積ませた方がいいのでは。
ブレンダンは出る予定だったジムの先輩がケガをしたのでトレーナーに「俺を出してくれよ」と頼んで出場という理由。うーむ、弱すぎる。説得とコネだけで出るなよ。ここでも「なら、あいつ(誰かそこそこ強い奴)を倒せたら」という条件があって、それをクリアするなどのハードルがあった方がよいのでは。
そして、こんな高額賞金が出る大会なのに無名選手が出過ぎだし同じジムから出過ぎ問題。これは、第1回目なのでブッキングに苦労するのは実際ありそうなので、実はリアルなのかもしれない。でも、物語上の説得力を出すために予選大会などやればいいのに。
どちらも、そこまですると時間が足りないか。
あとは上に書きましたが、トミーが軍のヒーローだという報道があって、試合2日目に急に海兵隊の一団が客席の一角にいましたが、そんな急にチケット取れないぞ。
そして何よりトミーの脱臼無視問題。そもそもトレーナーもいないなんてことは許されるのか。ラウンドの休憩時にケアしてくれる人が誰もいないなんてあり得るのか。そして明らかにトミーの身体に不具合が起きているのにドクターチェックしないのか。
この辺は試合開始後に父が遅れてやって来る、ではダメなのでしょうか。


まあ、こんなツッコミも許せる熱さと説得力があったので、許すしかない。いい作品でした。
劇場公開でもないし今さら宣伝も難しいですが、何とかもう少し広がってほしいなあ。私のこのエントリがその一助になればと思います。



町山智浩が映画『ウォリアー』を語る

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