やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「怒り」 感想

役者を信じろ


映画「怒り」を見てきました。公式サイト↓
www.ikari-movie.com
このキャスト陣、どうですか。豪華でしょう。
最近、こういう主役級のキャストを大勢並べる作品多いですね。東宝川村元気プロデューサーの次の「何者」もこのパターン。今は大スターがいないからこういう手法になるのかな。別にいいけど、今の流行りなのね。


李相日監督の作品は「フラガール」「悪人」に続く3作目。過去エントリ↓
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com



この作品は、「信じることの難しさ」を描いた作品です。映画を見た後、これはいいキャッチコピーを思いついた!と思ってネットを見ていたら、そのものズバリを書いている文章がありました。
realsound.jp
ああ、もうこれで私が書けることはあまりない。それでも書こう。
以下、ネタバレあります。


本名不明、経歴不明、住所不定の人間を信じられるか。信じきれるか。


東京編
妻夫木君は陽性のキャラクターで何を演じてもそのいい人ぶりがにじみ出てしまうのですが、今回は立派にゲイでした!輪郭を覆う髭、タイトなシャツ、ボタン3つは開ける。役者やのう。
綾野剛はゲイっぽさよりも「弱く、柔らかい」という印象でした。こちらも、役者やのう。
私は腐女子ではないので二人のからみについては何も意見はありません。役者やのう。
ラスト、直人(綾野剛)を最後の最後で信じきれなかった優馬(妻夫木聡)の号泣。彼を疑ってしまった、信じてやれなかった自分への怒り。役者やのう!
ただ、実は心臓が弱くてひっそりと死んでいたというのは少女マンガみたいだなーとは思いました。


千葉編
頭のネジの緩い愛子(宮﨑あおい)と娘を完全に信じきれていない親父(渡辺謙)、そして謎の男田代(松山ケンイチ)。
この作品は名優勢ぞろいですが、私は宮﨑あおい優勝、松山ケンイチ準優勝だと思いました。
宮﨑あおいは完全に愛子だったわ。眉毛なしすっぴんで素直だけどちょっとおバカな感じ。人を信じるけどそのせいで今までいろんな男に騙されてきたのでしょう。そんな自分はまともな幸せを掴めないと思っています。そしてやっと見つけた田代は、もしかしたら殺人犯なのでは。
信じられるか?信じきれるか?結局警察に電話をしてしまう愛子。田代の留守電に「犯人じゃなかったら来て」というメッセージ。それはもう、疑っているということですよね。
そのメッセージを聞いた田代は、自分が疑われていること、信じられていないことを知らされます。今まで親の借金から逃げるために全国を転々としてきた彼は、やっと幸せを掴み、愛子には何でも話せると言っていて、これまでのことも全部話したのに、それでも信じてもらえていなかった。殺人犯だと疑われていた。そんな悲しいことってありますか。
ラストで東京駅から電話をかけてくる田代。ここまでセリフをあまりしゃべらなかったことがここで活きてきます。「迷惑をかけた。これ以上迷惑をかけられない」
電話もせずそのまま離れることもできたはずですが、多分カバンの中に愛子が入れた40万円が彼を思いとどまらせたのでしょう。
彼を疑ってしまった自分への怒りと、戻ってきてくれる喜びで号泣する愛子。ここは慟哭といっていい泣きっぷりでした。


この役作りのために7キロ太ったという宮﨑あおいは、まだ細い側でした。演技は素晴らしかったですが、世の女性を敵に回したかもしれません。
私たちのミスリードのために左利きを演じた松山ケンイチですが、左利きへたくそだな、と本当の左利きは思いました。でも、彼の演技で私は騙されました!ずっと犯人は松ケンだと思っていたよ!やられた。
渡辺謙は、いつもの思いやりや決断力のある男性ではなく、娘のことも信じきれていない、そして言うべきことをなかなか言えない、あまり冴えない親父でした。上手い。あと、キャップを被ってポロシャツをズボンにインする着こなしなどが「私の親父か!」と思う冴えないっぷりでした。上手い。


沖縄編
広瀬すずは、広瀬すずでした。かるたの途中に沖縄に寄ったといっても通じる感じ。まあ、彼女はスターなので何をやっても「広瀬すず」が出ちゃうんだろうけど。
途中米兵にレイプされるのですが、ヌードは無理でもパンツくらいは出してほしかったなー。ゲスな要望ですが、カメラも遠慮して撮っている感じがしました。
同級生の辰也君(佐久本宝)は、全く知らない子で本当に沖縄の子という感じだったのですが、その自然の感じがいつのまにか存在感を増し、ラストで大爆発。やるじゃん!
泉(広瀬すず)のレイプの現場にいても声をあげることもできない自分のふがいなさ、自分が映画に誘わなければと自分を責めるしかできない(誰にも言えないから)辛さ、唯一信じることのできる田中(森山未來)の正体を知ってしまった悲しみ。こんな辛い立場はないぜ。
とはいえ、彼の責任は映画に誘ったことではなく、泡盛飲み過ぎたことだろ!そこ間違えるな!
で、田中(森山未來)。何と彼が犯人だったとはー。この作品は犯人探しがメインの話ではないですが、それでもまんまと騙されたよー。


しかし、正直彼の心や動機が分かりません。動機はかつての同僚が語っていましたが、あれは彼が勝手に言っていただけなので、そのまま信じることはできません。そして、それが真実だとしても信じられません。そんなに見下されたと思うのか。それで殺してしまうのか。
後半で突然暴れ出すのはどうしちゃったのでしょう。単に「頭おかしい奴」で片づけてしまいそうなのですが、そんな短絡的ではないですよね?でも私には分からない。彼が理解できない。分からないから怖いのか。どなたか教えてください。


ラスト、田中の落書き「知り合いの女がレイプされてた。ウケる」を消してあるのを見つけた泉は全てを理解します。田中は知っていた。辰也がそれを守ろうとして田中を刺した。この落書きも彼が消してくれた(じゃあ読めなくなるまで消せよと思いますが、それだと泉に伝わらないので物語上仕方ない)。
行き場のない感情を海に向かって叫ぶ泉。


というわけで、犯人は森山未來でしたー。分からなかったー。
オープニングから、何度も犯人の姿は映ります。これ、全部森山未來が演じています?場面によって3人が演じていますよね?背中の筋肉で綾野剛はないなと思い、身長から松ケンだなと確信したのに。エレベーターの防犯カメラとか麦茶を飲むのは誰が演じていたの?やられたわー。


いい作品でしたが、少し気になったところを。
この作品は「怒り」ですが、誰かを憎む怒りではなく、人を信じきれなかった自分への怒りがメインです。田中はそのまま謎の怒りですが。で、その感情を号泣・慟哭という形で表現するのですが、ちょっと大仰な感じがしました。号泣するのは「熱演している感」が出るのでいいけど、ちょっと直接的過ぎないか、とも思うのです。
慟哭の感情を、他の方法で表現できないものか。もしくはドアップでない映し方はできないものか。直接的な感情を真正面から受けると逆に醒めてしまうこともあるのです。


もうひとつ。ラストで田中が刺されるシーン。刺されてしばらくハサミがお腹に刺さったままだし、田中はしばらく歩いていました。この中途半端な生かしは何か意味があったのでしょうか。生きるなら逮捕されるまで生きていてほしいし、死ぬならその場で死んだ方がいいと思います。辰也が何度も刺すとか。
そして、このまだ生きている田中を下から煽るように撮り、役者の音声はカットして劇伴のBGMを上げる手法、ダサくないですか?この盛り上げが何も効果をもたらしていないと思うのです。


まとめ。
些細なツッコミはありますが、いい作品でした。やはりいい役者が揃うと話も盛り上がるし引き締まる。監督の演技指導のおかげもあるでしょう。いい作品でした。


あと、みんなのその後まとめ。
優馬はしばらくは悲しいでしょうが、また新たな出会いがあるでしょう。愛子は紆余曲折はありつつ、一応ハッピーエンド。しかし、泉はかわいそうしかないですよ。
本人はレイプされ、好意を持っていたお兄さんは殺人犯で、自分に好意を持ってくれていた同級生も殺人犯ですよ。こんなかわいそうな境遇ないよ。海にいくら叫んでも足りないよ。かわいそうすぎる。




「怒り」予告

怒り(上) (中公文庫)

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怒り(下) (中公文庫)

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「怒り」オリジナル・サウンドトラック

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