やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「何者」 感想

えぐるなよ


映画『何者』を見てきました。
公式サイト↓
nanimono-movie.com
桐島、部活やめるってよ』の朝井リョウ原作。『桐島』は私の邦画No.1といっていいくらい大絶賛の作品なのですが、原作未読。この『何者』も未読。朝井先生ごめんなさい。
ese.hatenablog.com
↑「桐島」の感想はこちら。


以下、ネタバレあります。


『桐島』は高校時代の話で、当時を思い出しながら途中何度も死にそうになりながら見まして、今回の『何者』は就活の話なので今回はある程度距離感を保って見ることができるなと思っていたのですが、今回も途中何度も死にそうになりながら見ていました。
就活の内容自体はかなりリアルに描かれていたようなので、実際これから就活する人・就活中・就活終えたばかりの人が見たら死んでしまうのではなかろうか。
私が死にそうになったのは就活の内容の部分ではなく、拓人(佐藤健)の心の部分。
えぐるなよ。私の心のいろいろをえぐるなよ。私の自意識とか自尊心とか無駄なプライドとかを見透かすなよ。


本作では様々なキャラクターが登場し、自分と重なる部分に共感したり痛く思ったりすると思うのですが、私は完全に拓人(佐藤健)でした。状況を客観視し、いつも冷静。のように見えて実は上から目線でみんなを冷めた目で笑っている。そのくせ実際は何も行動せず。
痛い痛い。
特にクライマックスの里香(二階堂ふみ)とのシーン以降は、逃げ場がない。息ができない。『タクシードライバー』のトラヴィスのように「俺に言ってんのか」と言いそうになりました。
私はTwitterの裏アカウントは持っていませんし知り合いに見られても構わない内容しか呟いていませんが(それはTwitterをやる上の自分内ルールでもある)、思考・行動はかなり近いです。
俯瞰したって斜に構えたって、行動しなきゃ変わらない。寒く見えても、行動している奴の方が偉い。


本作は、就活のリアルを描きつつ、一種のミステリー仕掛けもあり、さらにホラーでもあるのです。
ミステリーとは、実は拓人(佐藤健)は就活浪人だったということ。そして裏アカの暴露に伴い、それまで友達と一緒に就活を頑張ってきた好青年は、周りをバカにしながら実はいちばん「お前そんな状況じゃねえだろ」という立場だったということが明かされます。
彼が就職浪人だったというトリック(というほどではないが)は、

・冒頭の光太郎(菅田将暉)の引退ライブで、拓人がすでにスーツ姿である。
・光太郎が就活を始める時「これから就活始めっから色々教えてくれよ拓人先輩」と話しかけているシーン
・サワ先輩(山田孝之)の部屋でエントリーシートを書いていると、サワ先輩から「お前書き慣れてんだろそんなもん」と言われるシーン
・里香(二階堂ふみ)と瑞月(有村架純)が留学帰り=1年留年している、隆良(岡田将生)が1年間休学をしていた事実
・瑞月と光太郎、拓人は1年生の時同じクラスだったクラコンのシーンがある

映画『何者』の感想と解説(※ネタバレあり)~就活を通して若者の自意識や承認要求を描いた傑作だった! - あいむあらいぶより引用しました。
などから推測することができます。確かに、分かりやすく散りばめてありますね。しかし、見ている私はそんな話だと思っていないのでまったく気づきませんでした。


そしてホラーの部分。これは後半の拓人(佐藤健)と里香(二階堂ふみ)の部分です。お互いのパソコン・スマホを覗くと友達の内定先の悪評を調べている検索履歴。これは気まずい!それを拓人が突っ込んだら、里香から裏アカを暴露される拓人。怖い怖い!
この場面、暗い照明の効果もあり、ホラーにしか見えませんでした。


拓人は、ずっと逃げていました。
大学時代に喧嘩別れした演劇仲間(烏丸ギンジ:役者不明)が評判は散々でも頑張っている姿を「何もできていないのに頑張っている感ばかり出しやがって」と嘲笑する拓人。就活から逃げて自分のやりたいことだけをやろうとしている隆良(岡田将生)をこのギンジと重ね合わせてサワ先輩(山田孝之)に愚痴る拓人。しかしサワ先輩は「似てない」とバッサリ。評価は散々でも何かを表現し続けるギンジと、口だけで何も行動しない隆良の差ですね。
さらに後半でサワ先輩は「どちらかというとお前(拓人)の方がギンジに似てるよ」と言います。これは、大学時代は自分のやりたいこと(演劇)に一生懸命打ち込んでいた拓人を評しての言葉だと思います。お前だって自ら行動して生み出してきたじゃないかと。


周りを冷めた目で上から目線でバカにしてきた拓人は、実はいちばん何もしてこなかった奴、何者でもない奴だったのです。それを見透かされ、痛いところを突かれ、心をへし折られた拓人は、バイト先の瑞月(有村架純)に会いに行きます。瑞月は拓人の裏アカを見ながらも、「拓人君の演劇好きだったよ」と言ってくれるのです。天使か!
この肯定で拓人は救われ、その後の就活に挑んでいくというラスト。


その後拓人がめでたく内定を獲得できたかは分かりません。この映画ではそのスタートラインに立ったところまでしか描かれていません。分かりやすくカタルシスのあるラストシーンではありませんが、このラストでよいと思っています。


役者陣は、みんな素晴らしい。
佐藤健
主役なのに、常に第三者。自分の強い意志が見えません。オーラを消す演技が素晴らしい。
今作では、彼の目線の演技がとてもよかったです。「そんなこと言うなよ」とか、セリフで言っていなくても目で語っている!
有村架純
イメージ通りの有村架純でした。途中大学入学直後の飲み会のシーンがあるのですが、ここでのちょいダサいおぼこい衣装・髪型がとてもよかった。そしてだんだんきれいになっていく。スタイリストの伊賀大介さん、ナイス仕事!
二階堂ふみ
彼女はいつもの「強い」「小悪魔」といった役ではなく、意識高い優等生役でした。それでもやっぱり上手い。そしてラストでやっぱり強い・怖い!
あと、やっぱりナイスバディ。
菅田将暉
今一番日本映画に出ている彼(次はリリー・フランキーか?)。やっぱり上手い。ナチュラル。そりゃ引っ張りだこになるわ。劇中で歌っていた歌も上手かった。何でもできるな。
岡田将生
バラエティ番組で見る彼は「バカだなぁ」と思ってしまうのですが、今作では「意識高いオシャレさん」がバッチリはまっていました。バカじゃなかった!ごめんよ。
山田孝之
今さら彼に何を言えるだろう。何でもできる。同時期にウシジマ君も公開しているのに、全然違って全部はまり役。今回は「いろいろ分かっている先輩」というおいしい役どころ。もちろん上手い。


途中、演劇のシーンが何度も出てきて、これがみんな寒いのです。これは烏丸ギンジの劇団の評判が散々なのであえてそういう作りにしているのだと思うのですが、ふと「実は普段私が見にいっている演劇もこうやって俯瞰で見ると寒く見えるのか?」と不安になる出来でした(逆説的にこの演出を褒めている)。
なので、この作品を見て「演劇寒い」と思った人は、これは「そういう演出」ですので、ぜひ実際の演劇を見に行ってください。生の演劇はとても素晴らしいものですから。


ひとつ分からなかったのは、「メールアドレスからアカウントを調べる」という部分。そんなことできるのですか?私は電話番号とLINEは紐付いていますが、Twitterやこのブログは実生活のメールやFacebookとは別ものです。本当に調べることができるのですか?


この作品は就活の話でもTwitterの話でもなく、自意識と承認欲求の話。大人だって学生時代に周りの奴らを心の中で見下してバカにしていたことがあるでしょう。それが周りの人にバレていたことを知った恐怖!穴があったら入りたい!消えたい!世代に関わらずえぐられる思いがあるはず。もうとっくにふさいでいたはずの心の穴を開けないで!
そして、就活は大人になるための儀式。モラトリアムの季節は終わりだ。そこに気づけた人から大人(社会人)になっていく。


君の名は。』を見て感動した大学生にこれを見せて「こっちが現実だ」と恐怖に陥れたい。



『何者』予告編

何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)

何様

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