やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

2017年はCreepy Nutsの年、か?

未来予想図は


Creepy Nutsの新作『助演男優賞』が出ました。いいタイトル!
前作『たりないふたり』はとてもよく、当時こういうエントリを書きました。↓
ese.hatenablog.com
フリースタイルダンジョン』での圧倒的な強さと、音源でも素晴らしいリリックとフロウ。これは2016年の台風の目になるぞ、と思っていたのですが、MCバトル界隈でしか風は起こりませんでした。もっと音楽番組に呼ばれると思ったのに。ヒゲでむさいから?太ってきたから?DJが童貞だから?くそう、日本語HIPHOPがメインストリームになるのはもう諦めました。


そんな世間をひっくり返すために、新作が届きました。
今作は5曲がひとつのストーリーになっているように構成されています。主役になれない主人公はドンキにもサブカルにもなれず、自分では何も行動しないくせにネットで上から目線、しかしそんなことをしても何もならず自分に絶望する。そして再び立ち上がる未来予想図へと。


分かります。理解します。曲それぞれはいい曲です。
しかし、何だか重く・暗い印象の残るミニアルバムでした。今回は5曲しかないのに3曲が重くゆったり目のトラックとリリックなので、ミニアルバム全体が重く・暗い印象になっています。
もしこれが10曲入りのアルバムであればまた違う印象だったかも。配置や割合は大事。
なので、このアルバムを以って「2017年はCreepy Nutsの年になる」とは言えません。


それでは、1曲ずつ感想を書きます。
1.助演男優賞
https://www.youtube.com/watch?v=Pia9RTHgGhYwww.youtube.com
オフィシャルのMVがなぜかアカウント停止されているので別の方がアップしているものを載せました。これもすぐ消えるかも。
2016年の芸能界の話題が詰め込まれているMVが素晴らしい。映像が面白すぎてリリックの内容が頭に入ってこない。
これはリード曲として素晴らしい。サビも2段構えだしMVでは簡単なサビの振りもある。ちゃんとポップやマスを考えて作られている!
個人的には「田岡が見逃した不安要素」
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と、「明るい未来?暗い未来? 俺が森山なら後者 モテキなんて来る訳ねぇじゃん 各駅停車 苦役列車 Let's Go」の部分が好きです。
スラムダンク』の田岡監督という人選!そして森山未來の名前と彼の主演作を使って自分の現状を表現。上手い。


2.どっち
ドン・キホーテにもヴィレッジヴァンガードにも俺たちの居場所は無かった だけどそれで良かった」パンチラインいただきました!
ヤンキー・体育会系とおしゃれサブカルのことをこんなに上手く言い当てる言葉があったとは。
これ、分かるわー。私はもちろんヤンキー・体育会系ではくサブカルクソ野郎ですが、かといってヴィレバンにもはまらない。これはヴィレバンが「おしゃれサブカル」だったからなのですね!ものすごく腑に落ちた。
ドンキの「LDH、泣き歌コンピ」、ヴィレバンの「Yogee New Wavesの100番煎じ」も上手い!安易とおしゃれのみのセレクト。


3.教祖誕生
ネットで有名人などを叩いているうちに祭り上げられて、いつしか「鏡に映ったそのツラは あの日俺が大嫌いだった神様気取りのソレでした」になってしまうというストーリー。
このストーリー自体は上手いしよいと思うのですが、ずーっとマイナスの言葉が続いて「ソレでした」の後がないので、何だか気分が落ちたままで終わってしまうのです。
ミニアルバム全体としてこの後の2曲につながっていくのだと思いますが、この曲単体だとちょっとツラい。


4.朝焼け
これも自分を責める曲。ツラいよー。


5.未来予想図
https://www.youtube.com/watch?v=GPB6BNVC04Uwww.youtube.com
フリースタイルダンジョン』ブームのその後を描いた曲。主人公はラストで「世間が愛想尽かしても(略)また一から肩肘張らず(略)その全てを書き起こそう」と決意するのですが、この上がる部分が少ない、というか遅い。
この曲単体でも「ブームが終わって落ち目」の部分から「でもやろう」までが長い。そして「やるぞ」の部分が弱いので、聴いている私は上がりきらないまま終わる印象です。
さらにこの曲はこのミニアルバム全体をひっくり返して力強く肯定する役目もあるのですが、そこまで描けていない感じがしました。


このミニアルバム全体の重い印象は、上に書いたようにテンポがゆっくり目だから、というのが理由の一つだと思っていますが、もうひとつは「R-指定のリリックがリアルすぎるから」というのもあると思います。
その通りなんだもん、えぐるなよ、ポップに聴けないよ、と思ってしまうのです。前作の『中学12年生』『たりないふたり』はまだ「イケてないあるある」で笑えましたが、今回はリアルでシリアスだから笑えない。
しかし、ということは、今後R-指定がポジティブで前向きなリリックを書いた場合は、これまた刺さるリリックになると確信しています。もちろんそのときは『夢は必ず叶うから』なんていうクソダサい表現でないことも分かっています。


R-指定は、というかCreepy Nutsの二人は「たりないふたり」なので、どこにも属せない居場所のなさやルサンチマンの捌け口がこういう「心の闇」として曲に出てくるのだと思っています。そして彼らは自分たちでもそれを自覚しており、それを自分たちの武器だと理解してこのラップシーン、音楽シーンをサヴァイブしていくつもりだと思うのですが、たぶん自分たちで思っている以上に彼らの心の闇は深く、つい無意識でペンが奥深くまで進んでしまうのではないでしょうか。
でも、それでいいと思っています。オードリー若林さんだって南海キャンディーズ山里さんだってそういう人でしたが、現在は社会的にも芸能界的にも慣れと安定により、バランスがよくなった気がします。若林さんのエッセイを読んでもそう思います。でもやっぱり根底は「たりないふたり」。
なので、彼らもこのままでいいのです。そのうちいいバランスになると思っています。それまではこの危うさも含めて愛してあげましょう。


それにしても、ラップブームの真っただ中でCreepy Nutsとしても重要なこの時期にこんなヘビーでシリアスな曲多めのミニアルバムでいいのか。売る側としては間違っている。もっとポップでイケイケなアルバムの方が売る側としては正しい。
でもこういう曲を作らなければいけない、こういう気持ちがこぼれ出てしまう彼らは信頼できます。10年後も彼らの音楽を聴き続けている予感がする。私が10年後ライブに行ける体力があるかは分からん。


10年後、Creepy Nutsの時代になっているかも。そんな未来予想図。


ついでにいらん心配するけど、Creepy Nutsはこういう自省ものの曲が多いのですが、まだ持ち曲が少ない現在、ライブでの曲の置き所が難しそう。これは今度ライブで確認してきます。


それでは、過去2枚に入っていない彼らの曲を貼っておしまいにします。
www.youtube.com
↑こういうテーマの曲にこの映像はヤバい!ルサンチマンが溢れ出す。また『桐島』見たくなっちゃう。
https://www.youtube.com/watch?v=ge0PyOPXzrYwww.youtube.com
↑これも『未来予想図』的なテーマの曲ですが、こっちの方がグッとくる。ライブだから?


助演男優賞

助演男優賞

セカンドオピニオン

セカンドオピニオン

R-指定のソロアルバムも全体的にはシリアスなトーンです。