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映画「クリーピー 偽りの隣人」 感想

ワールドに引き込め


映画『クリーピー 偽りの隣人』を見ました。公式サイト↓
creepy.asmik-ace.co.jp
(以下、ネタバレあります)


ネットで評判を見ると、賛否両論ですね。「ありえない・辻褄が合わない」「警察無能すぎ」など。確かにその通りです。でも、私は面白いと感じました。


私は黒沢清監督作品をほとんど見ていないのですが、それでもこの監督の記名性は分かります。光と影、明るさと暗さ、そよぐ風、じっとりと舐め回す長回しのカメラ。黒沢清だなー。
なので、そういう「黒沢清ワールド」の中で楽しんだので、リアリティの部分は気にならなかったです。いや、もちろん気にはなりましたが、この作品においてリアリティの追及は重要視しなくていいと思うのです。


私は、映画は「キャラクターが大事」「動機・行動原理が大事」だと思っています。その登場人物は生きているか、その人は本当にそんなセリフを言うのか、そんな行動をするのか。
で、本作の香川照之。生きている!いてほしくないけど、いる!わざとオーバーアクト気味に演じているのでしょうが、「何だかよくわからない気持ち悪さ」「絶妙な会話のできなさ」が画面の向こうから滲み出していました。
なので、ありえない展開もあまり気にならなかったのです。この人、この作品の中にいるから。


香川照之は「どうせ演技すごいんでしょ」と思っていたらやはり十分すごくて、彼に隠れてしまうのですが、実は竹内結子がとてもよかったです。
夫(西島秀俊)に隠れて電話をしていたことを問い詰められたときのキレた言い方、徐々にダウナーになっていく様、愛犬を殺されそうになっても抵抗できない様(顔を伏せて耳をふさぐだけ。直接的に香川照之の行動を止めることはしない)、そしてラストの号泣・慟哭。素晴らしかったです。


その分、西島秀俊は物足りなかったなー。日常から非日常へと変わっていく様子があまり表現できていなかったように思いました。刑事であり教授であるくせに結局お前がいちばん分かっていない、という役回りなのでこれでいいのかな。


あと、この夫婦は「実は最初から破たんしていた」ということなのですが、その辺をもっとほのめかしてほしかったです。ちょっとした祖語とかすれ違いとか。
ついでに言うと、セリフがぎこちない。セリフっぽいセリフだなーと思うところがいくつかありました。先日『紙の月』を見たのですが、これは原作が女性作家なので、気づく細かさやそれを表現するセリフの言葉遣いなどが「上手いなー。さすが作家、さすが女性」と思ったので、余計気になりました。


警察無能すぎ問題は、もう少し何とかしてもらいたかったです。取り調べ中に簡単に逃がしすぎ。容疑者の家に単身乗り込みすぎ。
この辺をもう少しリアリティのある展開にしてくれれば、世間の評価も違ったと思うので、残念。


この作品は原作があって、私は未読なのですが、もともとは北九州で起きた監禁事件が元ネタのようです。
北九州監禁殺人事件 - Wikipedia
matome.naver.jp
概要を読むだけで震える。というか、怖すぎて最後まで読めない。人間はこんな非道いことができるのか。そして人間の心はこんなに簡単に壊れるのか。あー、怖い。


であれば、「打たれるとダウナーになり香川照之に従うようになる薬」なんかに頼らず、マインドコントロールで周りの人間を破壊・篭絡してほしかったです。そうであってこそ「香川照之怖い」になるので。
また、同じように娘に母親を銃で殺す場面も、香川照之本人に撃たせるのではなく、娘に説得だけで撃たせるべき。自分では何もしてないけど凶悪なことをやっている、という怪物なのだから。


フィクションは「ウソ」なので、それを「ホント」だと納得させる説得力が必要です。そのための設定であったりディテールであったりセリフであったり演技であったりするわけですが、それがこの作品では「黒沢清ワールド」という異世界に招くことで実現していました。
お話はほころびがいくつもありますが、役者の皆さんの好演・怪演により説得力を持たせ、ほころびや辻褄を感じさせない出来でした。
そして何より、黒沢清ワールドに引きずり込めば何が起きてもアリに思えてしまう黒沢力というかブランド力のすごさを再確認。賛否両論があるように特大ヒットする作品ではありませんが、ファンは満足の一本でした。


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消された一家―北九州・連続監禁殺人事件

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