やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

スピッツの「魔法のメロディ」の秘密に少し迫る

迫ったり分かったりしてもできるわけではなく…


スピッツは好きですが、そこまで熱心なファンではありません。最初に知ったのは『君が思い出になる前に』あたりかな。アルバムだと『空の飛び方』ですね。買ったアルバムもあるしレンタルで済ませたアルバムもありますが、ほぼすべてのアルバムは聴いていると思います。そんな中途半端なファン歴です。


今年、スピッツは結成30周年を迎え、コンプリートシングルコレクションという3枚組のベストアルバムが発売になりました。これも購入でなくレンタルで済ませてしまったのですが、これが当たり前だけどめちゃめちゃいいのです。
マサムネさんのメロディがいいなんてことは「夏は暑いよね」「雪は冷たいよね」みたいな「この世の真実」なわけですが、これがアルバム3枚45曲もあると「このアルバムを聴き続ければ大学にも合格できる」「ダイエットに成功」「運命の人に巡り合える」なんてことすら起きそうなクオリティなわけです。
そんなスピッツの曲の良さは私みたいなもんがいくら語ろうといくら書こうとほんの一端しか解明できないわけですが、それでも書く。だって魔法にかかっちゃったんだもん。


ちなみにスピッツについては過去に↓のような楽曲分析のエントリを書いたことがあります。
ese.hatenablog.com
ここでほとんど書いてあるし思っていることは何も変わっていないので、今回はこれ以外の部分、具体的にはコード進行とそれに付随する要素に絞って書きます。


マサムネさんの書く曲は、コードが単純です。『チェリー』なんてコード5個しかありません。それもC・G・Am・Em・Fの王道コードのみ。こんなの、ギター始めて1週間で弾けます。しかし、1週間経っても1年経ってもこの曲は書けません。これが才能です。
私の考える「いいメロディ」とは、「メロディがこう来てほしいところにちょうどよく来る」感じです。しかしそれはありきたりだとベタになるしもちろん外れすぎると「いいメロディ」になりません。そういう「予想を裏切り期待に応える」グッドメロディをマサムネさんは30年も生み出し続けているのですよ。これが才能です。
下手な喩えですが「セックスが上手いメロディ」な感じ。相手が求めているところに的確にヒットさせる。それもありきたりやマンネリでなく、いつでも新しいのにいつでもど真ん中な感じ。自分にこんな性感帯があったのか、と開発される感じ。


マサムネさんのメロディは鍵盤で音符を辿り易いメロディです。つまり歌詞と音符の数が一致していることが多いメロディです。
ここにはヒップホップの影響がありません。最近の世間の曲はどれもヒップホップを経由した曲が多く、それは時代的に当然のことなのですが、マサムネさんメロディにはそれがない。
ヒップホップを経由した音楽というのはメロディよりもリズムを優先した音楽で、少ない音節にたくさんの言葉を詰めこみます。そのおかげでリズムが強化されトラックやビートに合うメロディになるのですが、メロディよりリズムが優先されているのでキャッチーさに欠けます。
これだけ古今東西あらゆるメロディが出尽くした現在、普通のコード進行でキャッチーなメロディなんてもう存在していないのです。だから違うアプローチでメロディに補助輪を付けて少しでもメロディに力を持たせようとしているわけですが、そもそものメロディに力が足りないのだから、いくら上げ底してもたかが知れています。
しかし、マサムネさんは王道のコード進行でまだこの世に存在していなかったど真ん中のメロディを書くのです。この展開、このメロディの動き、何で誰も思いつかなかったのか!これが才能です。


もうひとつ、マサムネさんの歌詞はメロディの抑揚と日本語の抑揚が一致しています。これにより、いいメロディがよりすんなり耳に心に入ってくるのです。わざと普通の日本語とは違う音節・イントネーションのメロディを当てることにより引っ掛かりを生むという手法もありますが、マサムネさんはそれよりもすんなりと歌詞とメロディが沁み込む歌詞の書き方をしています。
(歌詞の内容やその解釈についてはきりがないし今回のエントリの主題と外れるので割愛します)


こうした、日本語の抑揚とメロディの一致に加えて、コードの一致も大きいです。
●例1『楓』は(カポ1で)キーはCですが、サビはEmから入ります。この切ないマイナーコードで歌詞は「さよなら~」なので曲調と歌詞が一致して、聴いている側はより切なく感じるのです。
●例2『春の歌』はキーAでサビの「春の歌」の部分はD→Eと展開します(「うーたー」の部分)。これでちょっと前のめりな感じがして、春の「新しいことに一歩踏み出すぞ」という曲の印象と一致するのです。
※コード進行は、基本的に「キーのコードがゴール」が原則です。いろいろなコード進行を経てキーのコードに戻ると、聞いている側は「一件落着」と感じるのです。そしてそのコード進行ですが、キーがAの場合はD→E→Aと戻るといちばん収まりがいいです。これが王道のコード進行。それを、サビ頭でいきなりD→Eとやるとつんのめっている感じがするのです。
●例3『ロビンソン』はキーはAですが、サビはDから始まってF#mで終わります。サビのどこにもAは出てこないので上記の「一件落着」感はありません。で、サビ終わりの歌詞は「ルララ宇宙の風に乗る」です。つまり、宇宙の風に乗っちゃうので着地せず飛んでいくので、このコード進行でいいんです。


このように、マサムネメロディは単にキャッチーなだけでなく、歌詞やコードまであらゆるものがその曲に合うようにできているから、よりいい曲に聴こえるのです。
と分析したところで自分がこのようなメロディを書けるわけはなく、やはり天賦の才が必要なんですよねー。


ちなみに上記の過去エントリは2013年に書いたもので、その中で「秦くんはあと20年後に国民的ヒット曲を出すんじゃないかと思っています」なんて書きましたが、20年後どころか翌2014年に『ひまわりの約束』書きましたね。秦君ごめんなさい。


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