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桑田佳祐『がらくた』 感想(全体編)

高値安定の大変さ


桑田佳祐のソロアルバム『がらくた』が出ました。ソロアルバムとしては6年ぶりですが、その間にサザンオールスターズとしての活動があり、その後もシングルやタイアップ曲をいくつも出しているので「休まずにずーっと活動しているな」というのが私の実感です。


今回のアルバムタイトルは『がらくた』ですが、これはもちろん桑田さん流の自虐であり謙遜なわけで、もちろん名曲ぞろいですがアルバムとしての統一感はない。「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現もあまりにベタなので、『がらくた』で上手く表現されていると思います。
前作は『MUSICMAN』なんて大上段に構えたタイトルでジャケットも静謐で格調高く、歌詞も含めた曲調もシリアスな印象がありました。桑田さんの「ふとした病」はレコーディング終盤に発覚したので、病気のせいでこういうアルバムになったわけではありませんが、聴いている私たちはどうしてもその事実を踏まえながら聴くので、必要以上にシリアスに受け止めてしまうアルバムでした。
とはいえ、桑田さん自身が「自分の音楽人生の集大成のつもりで作った」というこのアルバムが名盤であり当時の到達点だったことは間違いありません。


このアルバムに統一感がないのは、第一にリズムが統一されていないからです。打ち込みもあるし生ドラムもある。先行シングルはみんな打ち込みリズムマシンだったのでアルバム通してこの形でいくのかなと思っていましたが、生ドラムもあり、結果的にバラエティに富んだというか取っ散らかったというか、散漫な印象になったのは否めません。まあ、『がらくた』だからそれでいいのだ。
また、曲調もバラバラです。ロックンロールから青春歌謡からキラキラポップスからディズニーサウンドまで。そしてそれに合わせて声も歌い方も違っています。そりゃこれだけ手札があったらまとまらないわ。


でも、でーも、その『がらくた』に集められたバラエティに富んだ曲たちは、どれも名曲なのです。イントロダクションやインタールードなし15曲68分超のボリュームで、どれも名曲なのです。じゃあ文句ねえだろ。はい、すみません。ぐうの音も出ない名曲ぞろいのアルバムでした。
『葡萄』のエントリのときにも書きましたが、桑田佳祐はもう上り詰めた大御所なわけです。今さら冒険なんて必要ないのです。「桑田印」の曲を出せばファンは満足するのです。それなのに、まだ打席に立ってフルスイングしてフェンスを越えないと満足しないのです。素振りを続け、打席にも立つのです。で、実際ホームランを打つんだもんな。あぶさんの「62歳まで現役」はマンガだから可能な偉業ですが、それも超えて今後も打席に立つんでしょ。敬意しかないぜホント。


このアルバムの前にはシングルが3枚出ており、タイトル曲を含めるとそれだけで12曲あります。そこからアルバムに入る一軍を選んでさらにブルペンで温めていた秘蔵っ子も出す感じ。『MUSICMAN』の頃に比べると筆が軽く、たくさん曲を書いてそこから上位選抜を選んでいる感じ。
MUSICMAN』でひとつの到達点に達したのでそこからはフットワークが軽くなったのかな?サザン『葡萄』のときも似たようなことを感じました。


もうひとつこのアルバムで感じたこと。
「リズムへのアプローチが新しい」。桑田佳祐が日本のロック・ポップスの歌詞の乗せ方に対する発明をしたのは今さら言うまでもありませんし今作でもその技はますます冴えわたっているわけですが、今作は歌詞の乗せ方だけでなくメロディのリズムに対するアプローチが新しいと感じる曲がいくつかありました。『大河の一滴』のサビ「逢わ/せて/咲か/せて/夢よもう一度」と細かく区切るメロディ。最新のUSラップのフロウみたい。また『オアシスと果樹園』のBメロ「熱い風が吹いていた」の小節をまたぐメロディなど。
まったく、いつまで進化する気だ!


さて、ここから1曲ずつ感想を書いていこうと思ったのですが、既に1,800字書いてしまったので、ここで一旦切ります。次回、それぞれの曲について感想を書きます。


がらくた (通常盤)

がらくた (通常盤)