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映画『ダンケルク』 感想

映画の新しい形


映画『ダンケルク』を見ました。公式サイト↓
wwws.warnerbros.co.jp
私は、戦争映画を見ません。戦争の陰惨な雰囲気が苦手だし(ホラー映画見るくせに!)、歴史の知識が全くないからです。そんな私がこの映画を見ようと思ったのは、クリストファー・ノーラン監督作品だからです。
メメント』『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』のノーランですよ!どんなテーマであってもノーランなら大丈夫だろうという盤石な期待感を持って映画館に行きました。


そしたら、何か違う。
この日私は仕事終わりで車を走らせ(私の最寄りの映画館まで車で1時間半かかるのだ!)劇場に行ったので、眠い&トイレ行きたいという映画を見るには最悪のコンディションだったのを差し引いても、何か違う。


私のノーラン作品のイメージは「そんなに難しくない話を難しそうに哲学的っぽく語るけど分かりやすく見せる映画」です。『メメント』は「記憶が30分しかもたない男の真実探し」だし、『ダークナイト』は「正義が悪を叩くから悪が栄えるのでは?」だし、『インセプション』は「夢の中なら何でもできる、のか?」だし、『インターステラー』は「マジなハードSFで語る家族愛」だし。
それが、この作品ではそういう難しいテーマ語りはなし。「戦争って個人視点で見ると何が何だか分からないけど超怖いよね」という「体験映画」でした。


そもそも、「ダンケルク」は地名なのですが、私はそれすら知りませんでした。そしてここで「ダンケルクの戦い」と言われる撤退戦が行われたことも知りませんでした。
しかし、この映画ではその辺はほぼ何も伝えてくれません。「あなたたち包囲したよ」というビラを見せられるだけ。セリフもほとんどないので登場人物がどんな人なのか、どんな考えや背景を持っているのかも分かりません。
そして、この作品は「飛行士の1時間」「船長の1日」「兵士の1週間」という違った時系列を並行して描くので、それも分かりにくくしています。
事前知識のない人がこの作品だけを見てどれだけ理解できたでしょうか。


事前知識としていくつか紹介しておきます。
miyearnzzlabo.com
nlab.itmedia.co.jp


上にも書きましたが、この映画は「体験」です。海岸にいるところを銃撃される。生きるか死ぬかは運次第。やっと船に乗ったと思ったらまた銃撃されて沈没。隣の船に移ろうとしたらそこは重油の海でさらに炎に包まれる。戦争って嫌だなー。
ここに物語はありません。私は、映画とは「物語」があってそれを演技や演出で見せるものだと思っていたのですが、この作品はそうではない。ただ戦争という「個人ではどうにもならないとてつもなく嫌な出来事」を体験させられるだけです。
この「嫌な出来事」をさらに後押しするのがハンス・ジマーの音楽です。終始ずっと聞こえるチクタクチクタクという音や音階が上がりそうで上がっていない「無限音階」を使ったBGMなどがイライラや不安感を増す効果をもたらしています。


飛行士が敵機を撃墜しても、船長が民間船で兵士を救っても、海岸から数万人のイギリス兵を脱出させても、彼らが英雄として称えられる結末はありません。そういう物語を紡ぐ作品ではないのです。あくまで戦争の一場面を切り取り、それを観客に体験させているだけ。だけ、というのは言い過ぎか。


なので、見終わっても「結局、何だったの?」「何が言いたいの?」「何を見せられたの?」という感想を持つのも仕方ないです。私もそうだったもの。
この作品はIMAXで見るように撮影されています。そのため、その他の一般の劇場で見ると上下が切られた状態での上映なのです。何だそりゃ、ひどい。でも、この上下に大きいIMAXで見たら没入感は一般の劇場と段違い(らしい。私の地元にIMAXなんてねーよ!)なので、この「体験」はよりリアルな臨場感をもたらすことでしょう。私は体験できないけどな!


ノーラン監督はIMAXやフィルムにこだわる人ですが、「CGを使わない」というこだわりも持っています。これまでのアクション・SF映画ですらほとんどが実写。さすがに『インセプション』はCG多めですが。実際に建物や乗り物や街を作り、壊す。ノーラン監督は山崎貴監督との対談で「実際作ってもそんなに高くないよ」と言っていました。そんなこと言えるのはあなたか石油王だけです。


で、この作品もノーCGなのですが、何しろ第二次世界大戦のお話なので、その当時の飛行機を作品に出そうと思っても飛行機がない。奇跡的に実機があったのでそれを使って撮影していますが、その当時の飛行機が飛べる状態で残っていることなんてほぼないので、数が足りない。なので、劇中も飛行機がほとんど登場しません。見えないところからの銃撃か、1対1の銃撃戦か。
同様に、船も少ない。後半で民間船が兵士を救いに来た場面で船がいくつか映るのですが、少ない。ここは海を埋め尽くすほどの船が登場した方が絵的にも迫力があるしカタルシスもあるし感動もする。しかし実写なので少ない船しか登場しない。
そして、エキストラにもCGを使わないので、何だか人が少ない。数十万人の撤退戦なのに、人がまばら。何と画面の奥にいるピントが合わない遠くの兵士たちは「描き割り」なんだそうです!すごいのかすごくないのかよく分からない話。何だか本末転倒のような気がしますが…。


当時の飛行機や船を使うこと、CGを使わないこと。監督のこれらのこだわりによって、余計ウソっぽく見えてしまうのは果たして成功なのでしょうか。
CGはあくまで手段のはず。実物のセットやロケの方がいいならそうすればいいしCGでないと表現できない映像なら使えばいい。こだわりがこじらせになるのは違うと思うのですが。


というわけで、ノーラン好きの私ですが、はまりませんでした。評論家的な見方をすれば評価すべき作品なのでしょうが、やはり私は物語を求めます。でも、次回作があれば必ず見に行きます。まだノーラン監督への期待と信頼は揺らいでいません。


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DUNKIRK

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