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RHYMESTER『ダンサブル』 感想(楽曲編その1)

バトン


1か月近く前、RHYMESTERのNEWアルバム『ダンサブル』の全体感想のエントリを書きまして、ようやくアルバム収録曲についてそれぞれ書いていきます。
全体感想はこちら↓
ese.hatenablog.com


さて、ちょっと1曲目について書き出してみたら、まあ長い長い。なので、このアルバムについては数曲ごとのエントリとして書くことにしました。読みにくくなるかと思いますが、一度に書くには時間も気力も足りないので、小出しで書きますがご了承ください。


1.スタイル・ウォーズ
「スタイル・ウォーズ」とはヒップホップ用語のひとつで「様々なスタイルでの闘い」のことです。そのままだ。
例えば速いラップが得意なMC、ゆっくりなフロウでグルーヴを生み出すのが得意なMC、韻が固いMC、韻にこだわらないMC、様々なラッパーがいます。どれが正しいというわけではありません。様々なスタイルでサヴァイブしていく、勝ちあがっていくのがヒップホップの魅力のひとつです。
この違うスタイル同士の闘いが「スタイル・ウォーズ」なわけです。


前作『Bitter, Sweet & Beautiful』のエンディング曲『マイクロフォン』のDさんの「オレはこうしたがオマエならどうする?『ヤツらがどうしたオレらならこうする!』」のリリック、宇多丸さんの「花咲けスタイルとスタイルのウォーズ」のリリックはまさに「スタイル・ウォーズ」のことです。
で、この曲でも「オレ曰く 花咲けスタイルとスタイルのウォーズ」という宇多丸さんのリリックがあり、Dさんは前作『フットステップス・イン・ザ・ダーク』で「バトン」という単語を『マイクロフォン』で「鉄の棒」という表現でリンクさせていて、さらにこの曲では「このバトンのボタン押せば」という形で続いています。
前作が1曲目からラストに至って再び円環構造のように「マイク=バトン」という表現でリンクしており、さらに今作の1曲目にも続いているのは、ヒップホップの引用文化を上手く使った表現方法ですな。


この曲を初めて聴いたのは「人間交差点フェス2016」、つまり1年半も前です。それ以降他のライブでも毎回聴いており、リリックの詳細は分からないながらも「カッコいい曲だな」というのは分かっていました。
そして今年の「人間交差点フェス2017」でも披露してくれたとき、宇多丸さんは「1年前にも披露したけど、アルバムバージョンでは生のホーンを入れたりしてブラッシュアップしているから」と言い訳のような説明をしていて、そのときは「アルバムがなかなかできないから言い訳がましいな」と思ったのですが、確かにアルバムではホーンが入っていてそれがカッコいい!以前のバージョンよりいい!宇多丸さん、待った甲斐がありましたよ!


宇多丸さんは最近大人になり文化人になりだいぶ丸くなったように思っていましたが「黙ったままじゃカスがのさばるから ペンとかマイク持って『まだまだ斬る』」なんてまだ歌うのね。
ちなみに「まだまだ斬る」はKダブシャインと一緒にやった『物騒な発想(まだ斬る!)』から来ていますね。
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2.Future Is Born feat.mabanua
この曲ができて宇多丸さんは「このアルバム勝った!」と言ったそうです。私も同感です。
ヒップホップ黎明期のシンプルなトラックに聴こえますが実は音もリズムもメロディもすごく最先端のオシャレな音作り。素晴らしい。ブルーノ・マーズのような「ノスタルジーに引きずられない現代性」に感じました。


宇多丸さんのヴァースはまさしくヒップホップが生まれたその瞬間を歌っています。上手い!きちんと説明しつつ「これから歴史が始まる!」というワクワクもあり、もちろん韻踏みまくり。完璧じゃないですか!


Dさんのヴァースは出だしの「上にも下にも何者にも媚びぬとこがイカしてた ドレミファにもソラシドにも媚びぬとこがイカしてた」のフロウが超カッコいい!
リリックは宇多丸さんの「ヒップホップが生まれた瞬間」から続いて「それが日本に伝わった後」を描いています。この分担も上手いなー。


フック(サビ)では「今日のぼくらが明日の創造主かもね 今もどこかで奇跡が進行中かもね」というリリック。ここ、「かもね」なのね。
確かにそうかもしれませんが、もっと自信持って「Co'mon now」とかでいいんじゃないでしょうか。俺たちが創造主で俺たちが奇跡を起こしているんだぞ!と。それがヒップホップのセルフボーストでしょ。まあ、この慎重な立場がRHYMESTERらしいのですが。


この曲はサビやヴァースよりブリッジの部分に苦労して、そこができたからこそ「このアルバム勝った!」になったそうですが、確かにブリッジの部分が強いですね。ライブでも盛り上がること間違いなし。
ここの部分はヒップホップの定型句を日本語訳したもので、オールドスクールな感じとそれが日本に伝わったことが両方混じったリリックですね。
でも、「さあ、空に手を上げて バカみたいにブンブン振れ」の部分、ライブで手を左右に振るのに少し抵抗があります。もちろんライブでは手を上げちゃいますが、まだ少し抗う心がある。J-POPではよくある風景ですが、個人的には寒いんだよなー。
あと、ここの「上げて/振れ」の母音エを語尾上げで伸ばすフロウも寒い。DOTAMAやKENTHE390もそういうフロウをよくやりますが、苦手。
この辺はあくまで個人的な感覚の話です。


この曲はアルバムのリード曲に相応しい名曲だと思いますが、ひとつだけどうしても気に入らないところがあります。Dさんヴァースの「ただしオマエらのRootsはあくまでオレだとは言っ・て・お・き・たい ぜ!」の部分。
こういうの、自分で言うのはダサいです。「俺がNo.1」と言うのは大事ですが、「お前のそれ、俺が元祖だから」と自分で言っちゃうのはサムくない?Mummy-DRHYMESTERが日本語ヒップホップのレジェンドだなんてことは誰もが認めることで誰も異論はありませんが、それは周りが言うことで自分が言うことではないですよ。過去の栄光自慢、過去の苦労自慢は老害の始まり。
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今日はここまで。2曲だけで3,000字も書いてしまった。このペースで書いていくといつ終わるんだろ。今後はもう少しコンパクトに書くようにします。続きはいつになるか分かりませんが、なるたけ早く書くようにします。


Bitter,Sweet&Beautiful

Bitter,Sweet&Beautiful