やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『アウトレイジ 最終章』 感想

最終章(物理的に)


アウトレイジ 最終章』を見ました。公式サイト↓
outrage-movie.jp
私はヤクザ映画を全く見たことがないので他の作品と比べることはできませんが、『アウトレイジ』シリーズは面白い。詩集のような乾いた情緒が多い北野武作品において、このシリーズはエンタメ作品と割り切って作っている感じがします。


北野監督は数学が好きなので、構図もカット割りもスッパリ切ったり割ったりしているのがいい。あいつがこうしたらこっちはこうなるからそしたらこうして、という因果応報や裏切りの流れを作るのも上手い。
そしてこのシリーズの魅力は「エグい殺し方」にもあります。菜箸を耳に挿したり(「刺す」よりこっちの漢字の方が適切でしょう)歯医者の道具で口の中をめちゃめちゃにしたり首に縄を結わえて車で引っ張ったりバッティングセンターのボールを死ぬまで顔で受け続けたり。あーひどい。でも「うわーひどい」と思いながらちょっと笑いながら見ている自分がいる。多分北野映画の乾いた表現にあまり生々しい感じを受けないからでしょう。


さて、最終章。個人的にはイマイチでした。理由をいくつか挙げます。
①登場人物のヨボヨボ感
たけしさんを始めとして前作から出ている重鎮たちが皆さん高齢化して、おじいちゃんです。さらに西田敏行さんと塩見三省さんは大病を患ったので、見た目も弱々しくなっています。
なので、迫力がない。
西田さんは狡猾な演技でヨボヨボ感を「得体のしれない怖さ」に見せていましたが、塩見さんはもう体力がない感じがありあり。皆さんに立ったり動いたりさせない工夫が随所にあって見ていて泣けてきました。老人介護ヤクザ。
これは、たけしさんにもいえます。たけしさんは第1作目から活舌が悪くて迫力がなかったですが、これが回を追うごとにさらにひどくなっている。見た目も太ってしまい歩き方も年寄りっぽくなり、迫力がない。おじいちゃん。


②関西弁は関西人に
ピエール瀧、お前はダメだ。他の作品だとあんなに怖いのに、この作品では全編コント。なぜこんなに関西弁をしゃべれない人に関西弁でラストまで登場させるのか。オープニングで殺せよ。もしくは静岡出身の設定にしろよ。
あと、花田(ピエール瀧)の殺され方もダメ。爆発で顔がボーンとなるところを映してほしい。そこはチープな人形でもいい(そういう黒沢清的な表現方法をするとこの映画の基準がぶれちゃうか)ので、無様な姿を見せて欲しかったです。
ついでにいうと、花田の性癖ってそんなド変態じゃないですよね?単なるSMドM野郎なだけ。ここはその道の専門家に教えを請い、とても笑えないドM野郎な性癖を披露してほしかったです。そこで凄む花田。その落差が笑いになるのです。


③コマ不足
過去2作で重要な役どころがどんどん死んでいったので、残りにはカスしかいない。
大杉漣さんは「元証券マンの娘婿ヤクザ」という立ち位置なので怖くないのは仕方ないのですが、名高達郎さんや光石研さんは小物過ぎ。名高さんが山王会の会長なんて力不足も甚だしい。三浦友和さんの足元にも及ばない。
俳優たちの迫力不足でヤクザの怖さが全く足りません。


④殺し方がつまらない
上に書いたようにこのシリーズは「面白いエグい殺し方」も楽しみの一つなのですが、今作では大杉漣の生き埋め→車で轢くくらいしかない。あとは銃で撃つばかり。つまらん。


もちろん面白いところもあります。オープニングの花田(ピエール瀧)と大友(ビートたけし)の最初の出会い。「舐めてんのか!」「舐めてなんていねーよ!」ギャグボールぶら下げて何凄んでいるの?大友にも「十分楽しんだみたいじゃねーか」と言われています。ヤクザのメンチの切り合いがコントになっていている!
あと、ファーストカットで軽トラの後ろ姿を映して「あれ?車のナンバーが何か違うな」と思わせてそのままカメラがハングル語の看板をさりげなくフレームインさせることによりここが韓国ということを伝える構図。上手い。
そしてタイトル文字は毎回お馴染みの車を上から映したショットに文字を被せる。おお、アウトレイジだ!


でもやっぱり物足りないのよねー。マシンガンで撃ちまくるなんてもう何でもありじゃん。裏切りとか工作とか作戦とか関係ないじゃん。


ラスト、大友が自殺してエンド。ラストカットで大友が死んだ様子を映していましたが、これいる?「確実に死んだからもう次はないよ」という宣言なのかな?
北野監督はインタビューで「いくらでも続けられるけどきりがないので終わらせた」と言っていましたが、そうでもありますがそれ以前に大友がおじいちゃん過ぎてもう続けられないでしょう、物理的に。


このシリーズのファンとしてはきちんとお話を畳んでくれてよかったですが、作品単体の評価としてはここに書いたように厳しいものがあります。うーん、残念。


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