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映画『15時17分、パリ行き』 感想

映画ってなんだろうな


映画『15時17分、パリ行き』を見ました。公式サイト↓
wwws.warnerbros.co.jp
クリント・イーストウッド監督作品ですが、私、イーストウッド監督の作品はそんなにファンではありません。なのでそんなに期待せずに見に行きました。


で、感想は「面白かったけど、変な映画。というか、映画ってなんだろうな」というものです。
以下、ネタバレありますが、この作品は実話ベースの作品なので、ネタバレ関係ないので気にせず読んでください。


本作の一番の話題は「本人役を本人が演じている」という点です。本人が本人として出演することはこれまでもありましたが、それでも脇役・チョイ役です。それがハリウッド大作の主役ですよ。演技、できるの?
できていました。私は英語が全く分からないのでセリフ回しの出来不出来は分からないですが、できていたように感じました。英語ネイティブの人が見たらどうなのかな?
出来不出来よりも、よく引き受けるよなーと思います。「いやいや、できないですよ!」「恥ずかしい!」というのが普通の感覚なのに。さすがアメリカ人、なのかな?アレクは若干照れがあったように感じましたが。
なぜ本人に演じさせたかというと、イーストウッド監督のインタビューを見ると「面倒くさかったから」が本音のようですね。本人にインタビューしてそれを脚本に起こして俳優に伝えて彼らも役作りしてという手順を考えたら「本人がやればいいじゃん」と考えるのもまあ納得。とはいえ、それで実際彼らが演技できるのかとかを考えたら普通はしないわけで、その手順は「面倒くさい」と考えるべきものではないわけで。それをやっちゃうイーストウッド監督、クレイジーだぜ。


この映画は「テロを防いだ3人の若者」の話で、その攻防の時間なんて一瞬しかないわけで、それでどうやって2時間持たせる(実際の上映時間は94分とタイト!)かというと、彼らの少年時代からこの旅の話で8割使うという内容でした。まあ、そりゃそうなるよな。
で、その「テロを防いだその瞬間のこと」と関係ない時間がほとんどの映画なのですが、いざテロの場面になると、これまでの物語が全て意味を持ってくるという上手い作りでした!「伏線」というほど大げさなものではありませんが、これまでの場面は全て「フリ」だったのです!


もちろん映画に関係している部分だけを抜き出してエピソードを紡いでいるのは分かりますが、それでも「思い通りにいかなくても、人生には無駄なことなんてない」と思いました。腐らずに、今やるべきことをやるべきだ。
そしてもうひとつ、「スペンサー、GO!」で自分は飛び出せるか。あの声は、アレクの声だったのでしょうか。それともスペンサーの心の声だったのでしょうか。どちらにせよ、「あのとき」、自分だったら動けるか。まあ絶対に動けませんが、それ以前にちゃんと逃げる・隠れるという行動を取れるか、もし負傷者がいたときに手を差し伸べられるか、そういう部分すら怪しいです。
映画の中でも描かれていますが、あのとき奇跡的にテロリストの銃が不発になり、それで悲劇を未然に防ぐことができました。そんな奇跡的な偶然があったとしても、あのとき彼らが行動しなかったら次の発砲で悲劇は起きていたはずなので、動いた彼らは本当に偉い。その後の救護活動も、一刻を争う状況の中で行動した彼らは本当に偉い。


原作になったノンフィクション本ではテロリストの背景も書かれているそうですが(未読です)、本作では一切描かれません。そこで「彼にも彼なりの正義があるのだ」という最近流行りの多様性・多面性を出しちゃうと物語がぶれちゃうもんね。いい決断だと思います。
その後の勲章授与式ではもう一人表彰されているおじさんがいるので、その人のことはもう少し描いてもいいのになーと思いますが。


で、このフランスのオランド大統領(当時)の勲章授与式ですが、実際の映像とこの映画用に撮影した映像が混ざっているのです。そう、本人だから実際の映像を使っても映っているのは本人なのです!本人起用がここで活きてきた!
ただし実際のニュース映像だけではアングルが同じで映画として持たないので、別アングルを映画用に撮っていて、そこではオランド大統領の後ろ姿など、ニュース映像との齟齬がないようなアングルを使っていました。上手い。


実話を描いて、それを本人に演じさせて、事件そのものでない「半生と日常」が映画のほとんど。これって果たして映画なのか。『アンビリーバボー』『世界まる見え』の再現映像と何が違うのか。私にはこれに対する明確な回答を持たない。上にも書きましたが、面白かったけど変な映画でした。映画って何なのか。何があれば映画なのか。


15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)