やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『孤狼の血』 感想

映画じゃけえ、何をしてもええんじ


映画『孤狼の血』を見てきました。公式サイト↓
www.korou.jp
私は過去の『仁義なき戦い』などの一連のヤクザ映画を全く見たことないのでオマージュやリスペクトは全然分からないのですが、オープニングの「荒波に東映」の出し方とか新聞の輪転機とナレーションで状況説明するところなどはそうなんだろうなーと思いながら見ていました。
そんな私がこの作品を見たのは白石和彌監督作品だから。『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』の監督です。個人的には『サニー/32』だけめちゃくちゃ駄作ですが、それ以外は全部面白かったです。白石監督だったら見に行かなければならない。
過去作エントリ置いておきます。
ese.hatenablog.com
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で、本作はというと、


面白かった!!


(以下、ネタバレあります)
映画は、見たい人がお金を出して見にくる場所です。子供も含めた不特定多数が目にするテレビとは条件が違います。車を運転するのにシートベルトはしなくていいし、不道徳や倫理に反することもしていいのです。それが物語上必要であれば。
さらにこの作品は+R15なので、さらに踏み込んだ映像表現も可能です。


実際、映像はなかなかグロい。オープニングの養豚場での拷問シーン。豚の脱糞映像は、マジの脱糞ですよね。そしてその糞を食わせ、さらに草刈りバサミで指をちょん切る。
はい、この映画はこういう映画です、耐えられない人はここで退場してね、と監督からラインを突きつけられるようなオープニングでした。
その後も無理におっぱい出さなくていいのに出す、無理に映さなくていいのに死体のグロい部分を映す、無理に映さなくていいのにチンコを映す、と+R15をフルに活用したシーンが目白押しです。「チンコはドアップにして輪郭を出さなければ映してOK」なのね。


あと、この作品は昭和63年の設定なので、映像もその時代にしなければならない。オフィスにエアコンはなく扇風機が回り、パソコンなんてもちろんなく黒電話。パソコンないから何でも手書きだし、出てくる車はフェンダーミラーの車ばかり。街中の看板や映る小道具に至るまで、きちんと「この時代」になっていました。特にビールがプルタブ方式だったのに感動しました。
『ソロモンの偽証』はもっと前の時代なのに500mlのペットボトルや『スマブラ』ののぼりなどが映っていましたからね。コストの問題もあるでしょうが、こういうのは意識とかこだわりの問題ですから。


本作の主役は役所広司。『渇き。』でも狂った刑事を演じていましたが、こちらの方が筋は通っている狂暴っぷり。とはいえ、捜査のためには何でもやっちゃう男です。わざと喧嘩を吹っ掛けて公務執行妨害等をチラつかせて証言を引き出したり、取り調べでは「暴力」では追い付かない「拷問」で自白させたり、逆に女性が相手ならフェラチオさせたり、証拠の録画テープを入手するために建物に放火したり。目的のためなら手段は選ばない。だって自分は警察だから、何をしてもええんじゃ。


その相棒に松坂桃李。「狂暴ベテラン刑事とインテリ新人刑事」というお馴染みの構図ですが、これも徐々に重層化し変化していきます。
こういう「この状況を何も知らない人」を配置すると、観客と同じ目線でいろいろ分かっていくので物語としては正しいし分かりやすい設定です。


ヤクザのフロント企業の社員が行方不明になり、これに暴力団が関わっているのではないかという疑惑。組同士の対立が激化し、いよいよ本格的抗争になろうかというところで何とか3日の猶予をもらう大上(役所広司)。時間がない、正規の手続きを踏んでいる時間はない。
同時に、日岡松坂桃李)は県警本部から大上の過去を調べろという指令を受けていた。だから広島大学卒のエリートがこんなマル暴に配属されたのだ。大上は14年前にヤクザを殺しているのではないか。
この、ヤクザ抗争のエスカレートとそれを止めるためのムチャな捜査パートと、大上の過去を探る日岡の動き(彼の心情の動きと、彼の密命がバレるのではというハラハラ)が並行して進むのですが、テンポいいし分かりやすいので混乱はしません。ヤクザの組やその構成員がややこしいところはあるけど。


大上と日岡が本音ギリギリ(言えない部分はあるから完全な本音にはならない)で語り合う場面、結構長いワンカットでした。ここ、普通の会話シーンなので普通にカット割って撮影してもいいのに、ひたすらカメラが張り付く。これにより緊張感が増す!
そして大上は消え、後日水死体として発見されます。日岡はショックを受けながら自分の部屋に戻ると、大上を追った秘密メモに大上の添削が入っていました!大上は日岡が自分を疑っていることを知っていたのです。
さらにクラブのママ(真木よう子)から大上のスクラップブックを受け取ります。そこには警察内部の不正などが詳細に記録されていました。これを持っているから大上は自由に行動でき、だからこそ警察はそれを入手しようと日岡を送り込んだのです。


大上の真意を知った日岡暴力団に情報を流し抗争を起こさせ、双方をお縄にかけます。大上の仇をこういう形で取る日岡
ラスト、大上の墓参りで桃子(阿部純子)の前で大上のタバコを吸う日岡。この作品は「継承」の物語でもあったのです。


そう、日岡の成長というか変化というか覚醒というか、そこが素晴らしかったです。当初真っ当な正義感を持った彼は、見ている私たちと同じ倫理観を持っています。それが徐々に変わっていき、ラストでは大上の遺志を受け継ぐ存在になっていく。それは見ている私たちの気持ちの変化でもあります。
松坂桃李の黒目がちな目がいい。普通に、当たり前に真っすぐ物事を見ている彼の目が、大上の死後養豚場のシーンでは感情を感じさせない目になっている。怖い!
この映画にはグロいシーンはいくつも出てきますが、この場面はジワジワと怖くないですか?脳震盪を起こして気を失った相手に馬乗りになり、殴り続ける。殴られた相手は泡を吹き血を吐いているのに殴るのを止めない。怖い!


暴力団の抗争と警察の駆け引き、そして刑事の背後と過去に関するミステリが上手く交わった傑作でした。それを傑作たらしめたのは白石監督の遠慮なき描写です。
そして続編が決定しましたが、役所広司なしで大丈夫?登場人物だいぶ死んじゃったけど大丈夫?続編では松坂桃李がギラギラになっているのかな? 


では最後に主役二人以外のキャストの感想を。
真木よう子
よかったけど、彼女じゃなきゃ、というほどでもなかったかな。痩せすぎるとおっぱいが変になる(入れ乳だったら)ので注意。
中村倫也
鉄砲玉になる若手組員。メインキャスト以外では彼がいちばんよかった!彼は『愚行録』でも全然違う顔でしたが、今回もまた違う顔。『日本で一番悪い奴ら』にも出ていたのか。全然気付かなかったな。
さらに今朝ドラではさわやかな若手イケメン。いやー、彼はいいぞ。この朝ドラで世間に見つかってしまう予感。
中村獅童
あの風体でヤクザ役じゃないなんて!今回はほとんど出てきませんが、強い印象を残す役でした。
ピエール瀧
アウトレイジ最終章』では下手くそな関西弁でしたが、広島弁だとあまり気にならなかったな。
MEGUMI
いちばん最初に出てくる女性ですが、このときはMEGUMIだとは気づきませんでした。でもエンドロールで名前を見たときに「あの女か!」とピンときました。そんなに美人じゃないけどエロい身体、というMEGUMIにぴったりな役でしたな。取調室から出てきたときに乱れた口紅を拭う仕草で何があったかを分からせる、上手い演出でした。


孤狼の血 (角川文庫)

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