やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

瀧本哲史『ミライの授業』 感想

いつだってミライは新しい


『ミライの授業』を読みました。これは14歳を想定読者として書かれています。なので難しい漢字にはルビが振られており、文章はとても噛み砕かれ分かりやすい表現になっています。
そして肝心の内容は、子供にも大人にも刺さる超良書でした!


昔は改札には駅員がいて切符1枚1枚にハサミを入れていた。洗濯機のない時代は洗濯の上手い人・下手な人がいた。その国でしか作れない技術というものがあったが、今ではどこで作っても同じものができるのだから、労働力が安い国にその仕事を請け負ってもらう。そして、最も労働力の安い人とは、ロボットである。

世界全体を巻き込んだ「安い人が選ばれる時代」
人間さえも必要としない「ロボットに仕事を奪われる時代」

これが現代。ここからの未来は、不幸なのか絶望なのか。そこで著者は言う。

未来には、ひとつだけいいところがある。
それは、「未来は、つくることができる」という点だ。
誰が未来をつくるのか?
きみたちだ。

という導入部を経て、本書は始まっていく。


ぼくたちは、なぜ学ぶのか。何を学んでいるのか。

みなさんが学んでいるものの正体、それは「魔法」です。

どういうことか。現代は、車が走っているし飛行機は飛んでいる。夜でも明るいしテレビなんてものもある。江戸時代の人から見たら「魔法」ですよね。でもそれはいきなり生み出された魔法ではなく、多くの人が積み重ねてきた「技術」の結果です。

みなさんは、学校という場所で「魔法の基礎」を学んでいる。
学校は、未来と希望の工場である。

上手いこと言うなあ!
そしてここから、20人の「世界を変えた変革者」を紹介していきます。知っている人でも知らないエピソードがあり、知らない人でもそんな重大なことを成し遂げた人だったのか!と驚く内容の数々。


現代は「課題解決」ではなく「課題発見」の時代。だってやるべきことはコンピュータやロボットがやってくれるもの。私たち人間がやるべきことは「何が問題なのか」を発見する力。
世界初の量産型大衆自動車を製造したヘンリー・フォードは「もし人々に何が欲しいか尋ねたなら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」という言葉を残しています。
馬車の時代、もっと速く遠くまで移動したいと考えたとき、普通の人は「もっと速い馬を」と考えるところ、フォードは全く別の道を探っていました。
そして自動車が生まれるのですが、フォードが偉大なのはその自動車を大量生産するシステムを作ったところにあります。いわゆるベルトコンベア方式です。「急いで作る」「頑張って作る」ではなく、速く大量に作るにはどうしたらよいか。物量や精神論ではなく、仕組みを考え出す。


ナイチンゲールも有名ですね。イメージとしては戦場で活躍した看護師、くらいですよね。では、彼女は実際に何をして歴史に名を残す人物になったのか。
彼女は、戦場で人が亡くなるのは撃たれて死ぬのではなく、劣悪な環境での感染症によって死ぬということに気が付きました。そこで政府に戦地の衛生状態を改善するように訴えるのですが、当時女性の看護師の言うことに耳を貸す政治家はいません。そこで彼女は何をしたか。
数学や統計学を用いて客観的な事実を国に提出し、改善に結び付けました。彼女が歴史に名を残したのは「天使のような笑顔」ではなく、「統計学者としての実力」のためだったのです。


コペルニクスといえば「地動説」を唱えた人です。今では当たり前の「地球は太陽の周りを回っている」というこの事実ですが、私たちも知識として知っているだけで、体感ではそんなことを感じることは全くできません。だって毎日太陽は東から昇り西に沈んでいく。太陽が地球の周りを回っていることは「普通の常識」です。
その思い込みから脱し、事実を観察し、現実を見る。できそうで、なかなかできないことです。
コペルニクスの「天体の回転について」が出版されたのが1543年、ケプラーが地動説を立証したのが1609年(その間66年!)、「それでも地球は回っている」のガリレオ裁判が1633年、アポロ11号の月面着陸は1969年。そして、ローマ教皇庁カトリック教会が正式に地動説を認めたのは1992年です。コペルニクスから何と449年経ってからなのです!
これほどまでに大人の「思い込みを捨てること」「前例から脱却すること」は難しいのです。やはり、未来は若者にしかつくれないのです。


この他にもたくさんの変革者が紹介されていきます。この世界を変えた人たちは、みな「新人」です。これまで誰もやったことがない、それどころか思いつきすらしなかったことを思いつき、実行してきた。「新しい人」だけが世界を変えるのです。
コペルニクスの地動説もニュートン幾何学ダーウィンの進化論も、その主張が世に出てすぐ認められたわけではありません。半世紀以上かかって世の中に認められていきました。
なぜか。前時代の人たちは自分の常識・固定観念を捨てることができないからです。世の中を変えるのは「世代交代」、つまり新しい人が世に出て、ようやく新しい考え方が世の中に受け入れられていくのです。「パラダイム・シフト」です。「ムー」的なオカルトの意味ではなく、新しい人が新しい時代を作っていくのだ、ということです。


ハリーポッターと賢者の石」は、児童書の一般的な分量4万語をはるかに超える9万語以上の大作でした。そんな長編児童書はなかなかないし、売れない。そもそも、児童書自体が売れない。J・K・ローリングは12社に持ち込みましたが、全て断られました。常識的な大人の判断です。
しかし、ブルームズベリー社の社長の娘(8歳)が「パパ、これは他のどんな本よりも面白いよ」と言ってくれたおかげで、この本は世に出ることができ、その結果、シリーズ累計4億5000万部を突破する大ベストセラーになりました。
著者も最初の読者も「新人」だったのです。


本書は、ラストに紹介する変革者として読者である「きみ」を挙げている。そう、未来を変えるのは、未来をつくるのは「きみ」であり「ぼく」なのだ。
私はとうに14歳は超えていますが、伊能忠敬が測量の旅に出たのは50歳を超えてから、緒方貞子が国連の難民高等弁務官になったのは63歳のときです。いつだって始めるのに遅いなんてことはない。だって、これからの人生で今がいちばん若いのだから。
そして、新しい才能は「古い世代が分からないからこそ新しい」のです。だからこそ、新しい才能の出現には理解はできなくても否定はしてはいけない。いつだってミライは新しい。


いやマジで、全世代読むべき本です。14歳はもちろん、老害世代にも読んでもらいたい1冊です。


ミライの授業

ミライの授業