やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

変な人は面白い。『サワコの朝』磯田道史の回

面白かったので記録


だいぶ前の放送ですが、『サワコの朝』に磯田道史さんが出ていて、とても面白かったので一部書き起こしします。
私は磯田さんのことは全然知らない(何となく名前は見たことあるな、のレベル)のですが、この人面白いですね。学者は何か一つのことを専門に調べるのが仕事で、それをするにはやはりどこかタガが外れていないとできない。その一般人との飛距離が面白さを生む。そして学者なのでそれを言葉にする力もある。なので発言がいちいち面白い。

小学生のとき、自分の家の近所が遺跡なんで、土器を拾えるわけですよ。自分は9歳なのにこの土器は2000年っていうのがすごいじゃないですか。
で、ここで出たんだからこの土で作れるはずだって思って、大工さんから廃材をもらってきて焼くんだけど、上手く焼けないんですよ、生焼けで。
それで図書館に行きまして、焼き物の本を読んだら、釉薬(ゆうやく)ってものがあって、表面の赤さは土に含まれている鉄分だと書いてあるわけですよ。それでピーンときて、錆のある鉄板をこすって泥に混ぜてそれを土の表面に塗りたくって焼いてみたら、きれいに赤くなるんですよ。

これだけで、すごい。土器の「2000年前」にロマンを感じること、それを自分で再現しようと思うこと、上手くいかなくて諦めるのではなく、自ら調べること、そしてその秘密を発見し、成功させること。
すごい。これ、9歳ですよ。


で、本当にすごいのはここから。

そのときに思ったんですよ。自分じゃ思いつかない、でも書いてあるからできた。ここで文字のすごさを思ったんですよ。
土器は1万年やり続けたのに、文字を覚えたら1日でこの技術が手に入った。人間が1万年かかって到達したものが、文字があることによって1日でできる。
これで、図書館の中の文字の情報を読み尽くしたらすごいことができるぞって味を占めて、本が好きになったんですよ。

9歳でこんなこと思いますか?文字のすごさに気づくこと、だから読み尽くすぞと思うこと、そして実際にのめり込むこと。


その結果、中学生で古文書を読むようになったそうです。

あるときおばあちゃんが、うちには先祖がつけた記録があると。でもミミズがのたくったような文字で読めないと。見たら確かに読めなくて、それで古本屋に行ったら古文書解読用の辞書を売ってたんですよ。500円だから買って帰って、それからしばらく学校の勉強はやめようと思って。


そこから学校の教育について。学校の勉強は短期記憶だからダメだと。

人間って不思議なことに因果関係が分かると腑に落ちるというところがあって、歴史はある種因果関係の研究なんですよ。なぜこうなっているのか、なぜ自分はここにいるのか。その「なぜ」が分かると非常に面白いわけです。


後半は実際に古文書を持参して解説。

(サワコ)今、忍者の研究をしているんですか?なぜ?
だって、忍者は隠れるじゃないですか。隠れたままにしてやるかと。秘密にやっている忍者の実態を暴いてやろうと。忍者だって記録を残すので、それをあれ(解読)すれば忍者の実際が分かるだろうと。

そして実際にどのようなことが書いてあるかを解説。

でもね、悔しいこともあるんですよ。ここにね、僕のいちばん嫌な言葉「口伝」って書いてあるんですよ。ここまでやってきたのにこの口伝とは何か~って腹立つんですよ。

こんな悔しがり方をする人、いる?

(サワコ)こういう古文書を読んで、「うわ、面白い」って思うことってどういうところですか?
それは、この情報は今のところ世界中で僕しか知らないからですよ。僕が本に書いたり外でしゃべらねば僕しか知らない情報で、それをひとつずつ得ていくっていうのは楽しいですよね。

こんな楽しみ方をする人、いる?

だから、本を書くときは少し寂しい気もしますね。自分だけが知っている状態なんだけど、まあしょうがないな~、分けてやるかって感じ。


日本の識字率が高い理由。

まず、勤勉かつ独立自営の農民たち、それと兵農分離をしたから城下町に武士がいるわけですよ。その間のやり取りは書類でやるっていうこと。
それと「恥の文化」があって、字が読めないと恥だと。これ、悪いところでもありいいところでもあるんですよ、日本人の。人並みにっていう。
あと、直系家族制度っていう長男に全部継がせる制度を採っていまして、長男と親が長期間ずっと同居するから当然親子がすごい交流して技術を教え込もうとするし、家意識が強いから家を盛んにするためには子供に教育投資をやりますから。
(サワコ)そうか、お家の恥にならないように、という意味の教育なんですね。


今の子育てについて

僕もどれがいいかと思いますけど、やっぱり、「親と子がよく会話する」が最初でしょうね、教育の場合は。
それと、面白いと思うのは、やっぱり発見の喜びであることが多いから。例えば、うちの子供が大相撲に興味を持ったから、すぐに通信販売で大相撲の名鑑を買ってくるんですよ。そうすると、これ見ますよね。で、一層面白がって得意の決まり手がどうだとか言い始めるから。
興味を持ったときに、子供が直接その本を入手するのは難しいから、子供がそっちの方へ行きそうになったなと思ったときに少し先回りしてあげるっていうのはいいんじゃないかなって思うんですよね。


人間は何を学習し、何を身につければいいのか。

まあ、発想かな。よくコミュニケーションって言われるけど、面白いことをした方がいいんじゃないですかね。
官僚制度って、基本的には明治には「強い国」を作るためにやったんですね。それでその後は技術とかで豊かになるために「上手い国」、上手く車を作れるとか。だけど、21世紀の人工知能の時代っていうのは目標を決めなきゃいけないから、おそらく観光だとか消費のこととか情報生産とかそんなことを考えると、「面白い国」じゃないといけないので、面白い発想、発想がいい人を育てなきゃいけないので、隣の人と同じことを考えるのではない面白い発想で、なおかつ世界にとかみんなに面白いと思われるっていう。
だからそこをどう教育で生み出すかっていうのはいちばん難しいと思う。でもこれからやんなきゃいけないことだろうと思いますよね。
だって古文書だって人工知能が読みますよ、絶対。歴史学者より正確に解読したら大学の教授なんかは何で生きていけばいいのかって。失業しちゃいますよ。

では、AIでできないことは何か。

例えば将棋盤があったとして、それをひっくり返したら裏に凹みがあるからそこにお皿を置いて4本出た将棋盤の脚の上にろうそくを灯してパスタを食べたら面白いだろう、なんてことは絶対に考えないですよね。

発想がいい!


今年は自然災害が多かった。歴史学者から見て何が足りなかったか。

やっぱり「反実仮想力」だと僕はよく言っていて。「もし何々ならば」と考えるという習慣が必要だろうと、変化の時代は。
(サワコ)先にまず考える。
そうですそうです。仮想をしてみる。
(サワコ)考えたくないっていう意見も…。
ありますあります。日本人、考えたくないことは起きないことって蓋をする。もう幾度となくそれで失敗をしてます。考えたくないことを「縁起でもない」とか言って言葉にしない。
やっぱり自然の災害とかも、受け止める気持ちっていうのはある意味素晴らしいとは思うんですけど、それと対策はまた別であって。起きる前に予測して手を打つって必要なことだと思うんですよね。


今後どういう研究をしたいか。

「歴史の救急車」ってことを考えていて。なんか緊急事態が起きるじゃないですか、高潮とか津波とか。で、この問題を考えなきゃいけないってときに過去の歴史を紐解くレファレンス(参照)として救急車のように駆け出していくっていう。


面白かった。変な人はたくさんいるけど、それが知的好奇心からの面白さと、それを自分の言葉で語れる語彙力の両方を持っているから面白い。大学教授や研究者ってこういう人たちばかりでしょうけど、それを「周りに伝える」つもりも能力もない人が多い(自分の専門に没頭するだけ)から、磯田さんのような人材は貴重ですね。


私は歴史にあまり興味がないのでどの本も読んだことがありません。

日本史の探偵手帳 (文春文庫)

日本史の探偵手帳 (文春文庫)

日本人の叡智 (新潮新書)

日本人の叡智 (新潮新書)