やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

ザ・カセットテープ・ミュージック「そのとき歴史が動いた!激動の平成史!」

BSの濃さ、良さ


『関ジャム』という番組は、音楽の歌詞・メロディといった音楽の表層的な部分だけでなく、コードやリズムといった深い部分まで切り込み、分かりやすく解説をしてくれるとても素晴らしい番組です。マジで、この番組のおかげで日本人の音楽リテラシーはだいぶ向上するのではないかと思っています。
それでもやっぱりテレビなので「分かりやすさ」が最優先で、「それは前提としてその先の話を」みたいなことはやってくれない。いいんです。地上波でジャニーズなんですから。このままで十分素晴らしい番組です。


音楽のもっと深い話をしたい。それはどれだけ売れたという数字の話ではなく、誰がカッコいい・可愛いという芸能の話でもなく、このコードが持つ意味やこのメロディの動きによる効果など、もっとニッチだけどツボに刺さる話です。
そんなのは地上波では無理ですが、BSならできる。BSトゥエルビの『ザ・カセットテープ・ミュージック』です。
www.twellv.co.jp


この番組は毎回とても面白い。もっと世に広めたいが、BSだ。そして、この番組を面白いと思ってくれる人口は、たぶん少ない。仕方ない。ある程度の音楽知識がないと楽しめない番組だから。
しかし、先日放送したこの回は日本中に広まってしかるべき内容なので、私が書く。私が書いたところで日本中に広まらないのですが、書く。


今回は「平成を振り返る」というテーマで、平成音楽史の重要な音楽を取り上げるという構成です。
①『うれしい!たのしい!大好き!』DREAMS COME TRUE(平成元年/1989年)

(マキタ)ユーミンは、高い思想性とか教養度の高い文芸性とか特別な経験値から来るもの、つまり地方の人間にとってはとっつきにくい世界観とかも提示しちゃってたと思うんですよ。だから出てくる単語やアイテムみたいなものもすごくオシャレだったり、ちょっと見上げる存在、そういう憧れが我々のモチベーションにもなってたと思うんですけど、ドリカムはそういうものとは真逆のものにしていっているんですよ。もっと身近にあるものだし、みんながマネできてみんなが共有できるっていうこと。
ユニクロって高品質で安いじゃないですか。ユニクロとドリカムって相性いいと思うんですよ。
(スージー)上から啓蒙するっていうよりは、「うれしい!たのしい!大好き!」うわー、平成!って感じしましたわ、当時。
(マキタ)当時の偽らざる心境としては、「うるせえよ」と思って。
(マキタ)元気パワーみたいな、大きい感動でひとまとめにする感じで言うと、僕は「感動一揆」って呼んでるんでますけど、「感動よありがとう」みたいな流れ。で、ユニクロ着て9%の焼酎飲んで渋谷の街で騒ぐみたいな。ユーミン聴いて渋谷で乱痴気騒ぎしないでしょ。これぞ平成的なものが始まったな、って感じですよ。

ここでの名言。「ユーミンは公家」「ドリカムはユニクロ」。
私もドリカムはブラックミュージックの匂いや吉田美和さんの素晴らしい歌唱力がありつつも「平たい感じ(=みんなに届く感じ)」というイメージがありました。「みんな」とは音楽リテラシーのない一般人という意味です。だから大きく売れた。


②『CROSS ROADMr.Children(平成5年/1993年)

(マキタ)この曲に平成のJ-POPのフォーミュラ(形式)が詰まっているような気がするんです。
(マキタ)この曲は、最初にキーボードが出てきて、その後シンセのストリングス。既にバンドメンバーより多くの人が出てきちゃってる。その後コーラスとかも入ってきて、これだけの人数を要して作る上げる豪華なサウンド。これがもうJ-POPのひとつのひな形になってるんですよ。
(マキタ)メロディでいうと、サビのキーはDなんですが、その後CメロではGM7になる。メロディは変わらないけどコードは変わって、Cメロをぐわーっと盛り上げてるんですよ。で、その後に3連符が出てくるんですよ(「音も立てずに」の「ずに」からの部分)。さらにこの後、もっとエモいとこあるから。この食ってるところ!(「それぞれに抱きしめて新たなる道を行くOh yes oh yes」の後半、リズムを食っている(=半拍もしくは1拍早くリズムを入れるところ)があります)そして遅れてダーン!さらにラストの食いまくるところ(ラストの「Oh yes」の連打の部分)。
この音のインフレ感。メロディ終わった後に鐘まで鳴ってるしマーチドラムみたいな人まで登場してる。

ここでの名言。「ミスチル千代の富士」「小林武史は建築デザイナー」。
ミスチルといえば世間的にいえば『innocent world』でしょうが、私はこちらが最初の大きな衝撃。その当時は単なる「いい曲」でしたが、きちんと分析するとこんな大仰な豪勢なアレンジだったんですね。


③『月の爆撃機ブルーハーツ(平成5年/1993年)

(マキタ)ブルーハーツは95年(平成7年)に解散するんですけど、バンドの解散を予見してるんですよ。このバンドもうそろそろ危ないよって言っているように僕には思えます。
(マキタ)世の中が90年代になって『愛は勝つ』とかから始まって、だんだん優しさとか感動とかそういう方向に行こうとしている、J-POPの歌詞の方向もそっちに流れ始めているときに、その象徴としてブルーハーツってあったと思うんです。
CD業界も金遣いが荒くなって、このままいけば経済バンドとしてすごいバンドになったかもしれない。でもそういうところには乗らないよって思っているヒロトさんがこの曲からは感じられるし、さっき感動一揆って言いましたけど、「やさしさ一揆」に背を向けているような気がして。
ロックが産業化されてCDも普及してCDバブルが起こってくるわけですけど、それは経済の話で、ロックの原初体験とか初期衝動みたいなピュアなものをちゃんと維持するためにバンドなんて解散してもいいんだよ、みたいなことさえも既に予見しているかのように言っているのが味わい深かった。
(スージー)やさしさ一揆、あと頑張ろう一揆、やればできるよ一揆ね。一見すごい怖そうないかつい人たちが「やればできるよ」ってめっちゃかわいいこと歌ってるんですよ。はー、一揆続いとるなーって思いますね。

ヒロトマーシーは結局ずーっとぶれずにハイロウズからクロマニヨンズまで続けているんだからすごいよな。


④『俺たちに明日はあるSMAP(平成7年/1995年)

(マキタ)この曲は歌謡曲感もありながらソウル感とDJのミックス感とかも融合された、しかもカラオケで歌えるレベルで、トータルのバランスが良くできあがったカッコいい曲だと思います。
(スージー)ジャニーズの音楽は、そのときそのときのダンスミュージックのイノベーションを歌謡曲に取り込もうとしていたから、この曲もジャニーズの音楽史ではシームレスでつながっているんですよ。

確かにこの時代のSMAPはカッコいい。でも、歌が下手なのでちゃんと聴いてないんですよねー。ごめんなさい。


ここからスージー鈴木選曲。
⑤『LOVEマシーンモーニング娘。(平成11年/1999年)

(スージーつんく♂さんの書いたこの曲の歌詞って、本当に日本の世紀末の女の子の心情をストレートに書いたというね、あの当時のガングロでチョベリグな女の子の日々の会話とかそういうものが全部この曲に乗ってるなって。
(マキタ)そうかー。つんく♂さんの歌詞がこの当時の風俗を切り取った感じになってるってことですね。
(スージー)アイドル音楽というのは、良質なポップスの復権だと思うんです。ロックとかニューミュージックの連中の音楽がどんどん難しくなっていくときに引き戻す効果がアイドルの音楽にはあって、おニャン子クラブの『じゃあね』とかAKB48の『ヘビーローテーション』とか、極上のポップスが出てくるのがいい。

ここでの名言。「つんく♂は平成音楽史清少納言」「清少納言は現代のナンシー関
この時代、SMAPもそうですけど、私は洋楽にハマっていた時期なのでアイドルや日本のポップスをナナメに見ていた時期です。世間で売れているものはダセえと。そんな考え方がダサいんですけどね。


⑥『天体観測』BUMP OF CHICKEN(平成13年/2001年)

(スージー)もう21世紀になってくると、ロックバンドっていうのがポップスシーンのワンオブゼムになってくるわけですよ。特にギターロックなんていうのはフェスとかじゃでかいツラしてますけど、音楽の売上の中では非常に一部になってくるわけですよね。
(スージー)もっともシンプルなスタイルのギターロック。これは俳句みたいなもんですよ。五七五。平成音楽シーンの松尾芭蕉BUMP OF CHICKENだと思うんですよ。松尾芭蕉バンプ与謝蕪村アジカン小林一茶レミオロメン

私、この頃までのバンプは好きだったのですが、RADWIMPSが出てきたら乗り換えちゃった。ソングライターとしての腕は両方素晴らしいのですが、バンドメンバーの演奏技術の差がありすぎる。


⑦『長い夢』YUKI(平成17年/2005年)

(スージー)確定的ではないんですけど、一説にはこの曲はこの直前にお亡くなりになった息子のことを想って書いたと言われております。(曲を聴きながら確認)実際のところは分かりませんけど、歌詞を「こういう世界かな」と想像して聴くのはリスナーの特権でもあります。

ここでの名言。「平成の与謝野晶子
YUKIちゃんはもちろん好きなのですが、個人的にはジュディマリ時代の方が好き。YO-KINGの嫁でもある。プライベートのことは何も分かりませんが、私の理想の夫婦。


⑧『道』宇多田ヒカル平成28年/2016年)

(スージー)欧米の文化を身体で十分に理解・咀嚼し、日本オリジナルなものに仕立てた、夏目漱石ですよ。
(スージー)宇多田オリジナルなメロディがここで完成している。サビのメロディが「ド・レ・ミ」だけなんですよ。J-POPっていうのはメロディの起伏がおなかいっぱいにするもので、さっきのミスチルの音の幅と比べると、宇多田ヒカルの作るメロディは世界のここだけにしかない独自性と言うか、宇多田ヒカルここまで来たんだ!っていうね。

ここでの名言。「平成の夏目漱石


いやー、面白かった。個人的にはaikoが出てこないのが不満でしたが、この分量ではもちろん語りきれるものではないので仕方ない。続編に期待しよう。続編あるか分からないけど。


カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区

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