やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 感想

文法・方言・クセ、そして愛


クエンティン・タランティーノ監督最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を見ました。公式サイト↓
www.onceinhollywood.jp
私、タランティーノを全然通ってこなかったんです。これまで見たことあるのは『ヘイトフル・エイト』と『パルプ・フィクション』のみ。『ヘイトフル・エイト』は「無駄な会話ばかりで全然話始まらねーじゃねーか」と思いました。これがタランティーノ節だとも知らずに。『パルプ・フィクション』は面白かったです。会話の応酬に慣れてきたのか。
で、本作公開が近づくにつれ、なんだか世間(主に私のTwitterのTL)が騒がしい。これは見なきゃ。そのためにはタランティーノを一通り見ておかなきゃ。
というわけで、一通り見ました。
●『レザボア・ドッグス』…いきなりタランティーノ!会話と会話と会話。会話でキャラを描き、グルーヴを出す。時系列の入れ替えも含め、これの上位互換が『パルプ・フィクション』なんだな。
●『ジャッキー・ブラウン』…まさかタランティーノで『黄昏流星群』を見るとは。デ・ニーロの使い方はもったいないような気がしましたが、あれでいいの?
●『キル・ビル』…この当時のタランティーノ全部出し。映画愛と勢いがあれば、道理は引っ込む。
●『デス・プルーフ』…あえてのB級。前半が全部フリで、後半はひねりなしのド直球。煽り運転にはこうすればいい。
●『イングロリアス・バスターズ』…ランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツがMVP!何カ国語もしゃべれるという部分もすごいけど、それ以上に「自分の本心は見せず、相手の本心は見抜く」という底の知れないクレバーな感じが素晴らしかった。あと、メラニー・ロランが美人で可愛くて美しくてきれいで強くて素晴らしかった。
●『ジャンゴ 繋がれざる者』…こちらもクリストフ・ヴァルツ!ラストキレて死ぬなよー。サミュエル・L・ジャクソンのヒネた感じも、いつもと違ってよかったです。


慣れてくると、タランティーノ節が分かってくるし、そこがよくなる。それを知らずに見ると、とっつけないだろうなー。私の『ヘイトフル・エイト』のときのように。
普通の映画とは文法が違うのです。タランティーノ節という方言なのです。クセが強いのです。ラップを知らない人がラップを聴いて「メロディがない変な音楽だな」と思うようなものです。こういうジャンルなのです。ポップスの文法で作られていないのです。


さて、本作。
レオナルド・ディカプリオブラッド・ピットは過去タランティーノ作品に出ていますが、主役ではないし、そこまでいい扱い・いい演技だったと思っていません。その二人がダブル主役でさてどうなる。


愛だろ、愛!!!映画に対する、ハリウッドに対する愛だよ!!!


本作は「シャロン・テート殺人事件」を知っていないと話になりません。
theriver.jp
これを読んでください。そしてこれにまつわるこの作品関連の記事も読んでください。史実ですからネタバレにはなりません。この事件そのものと、1969年がどういう時代だったが分かっておくと、より味わい深くこの作品を楽しめます。
この作品は161分もありますが、3日間(ある2日と半年後の1日)を描くだけです。特に最初の2日間は、あまり物語の動きはありません。それでも、魅力的な登場人物たちが画面上で生きているだけでずっと見ていられます。


往年のスターであるリック(ディカプリオ)は諦めと悔しさと見えない未来でもがき苦しみ、彼のスタントマンであるクリフ(ブラピ)はどこか超然とした佇まいでリックを支える。そして夢と希望と未来しかない新しいスター候補シャロン・テートマーゴット・ロビー)。


物語が進まなくても、見ている私たちは「あの日」が来ることは知っているのです。だから、この日常が全部フリになっていることも分かっているのです。
クリフがスパーン映画牧場にやってきたあたりから、不穏な空気がまとわりついてきます。「古き良きハリウッド」が変わりつつある前夜。


(以下、ネタバレあります!)


そしてあの日、1969年8月9日。チャールズ・マンソンから命令を受けた若者たちが屋敷にやってくる。しかし侵入したのはシャロン・テートポランスキー夫妻の家ではなく、リックの家。鉢合わせたのはクリフ。
ここで圧倒的な力で返り討ちにするクリフと、火炎放射器をぶちかますリック。結構ひどい暴力描写でしたが、凄惨よりも痛快の方が勝っていました。アホには天誅
事件収束後、シャロン・テートの家に招かれるリック。ここでエンド!


そうか、これは「こうあってほしい過去の未来」なのか!史実と違うからこそ、史実の悲惨さとこれによって失われたアメリカの文化的おおらかさ(ヒッピーのルーズな共同体など)を知っておく必要があったのか。何も知らずに見たら単なる「めでたしめでたし」にしかならないもんな。
私、『ジャンゴ 繋がれざる者』を見た後にTwitterでこうつぶやきました。


そしたら、この作品もまんまこの感想なのね!俺が見たい歴史はこれだ!


いやー、素晴らしかったです。タランティーノ作品には固有名詞がたくさん出てくるし過去の名画からの引用・オマージュが多いのでひとつでも多く知っていればより楽しめますが、知らなくても問題ない。それよりも上に書いたような「タランティーノ節・タランティーノ文法」を知っておくことの方が大切。そしてシャロン・テート殺人事件(とその周辺情報)のことも。
チャールズ・マンソンの登場がとても少ないのは意外でしたが、タランティーノが描きたいのは彼の思想ではなくこの事件そのもの(とそれによるその後の歴史)なので、見終わった後は納得。


あと、161分はさすがに長いので、眠気と尿意の対策は必要です。


役者について
●ディカプリオ
彼は情けない役もできるのでよい。役者としての守備範囲が広い。
●ブラピ
今回は『セブン』『ファイト・クラブ』のときのような「ただ立っているだけでカッコいい」ブラピでした。55歳なのに脱いだらイイ身体!この「いるだけで見とれるオーラ」はスターの証ですが、ディカプリオのような情けない役はできないんだよな。それでもいい。「何もしなくてもずっと見ていられる」は誰にでもできることじゃない。
マーゴット・ロビー
ウキウキと輝きと未来しかない。彼女が輝けば輝くほど、後々起こるあの事件の凄惨さが際立つ。基本ずっと笑顔の彼女は、時折滝沢カレンに見えてしまいました。
●天才子役の女の子
天才子役を演じる天才子役。この歳でその聡明さと美しさは何だ。


ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド オリジナル・サウンドトラック

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド オリジナル・サウンドトラック