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映画『真実』 感想

記憶は当てにならない


是枝裕和監督最新作『真実』を見てきました。公式サイト↓
gaga.ne.jp
是枝作品は好きなのですが、分かりやすいオチがないものも多く、「面白かったのに面白かった感がない」という感想の作品も結構あります。「面白かったのに言語化できない」というか。
で、本作。フランス映画で家族をテーマにした作品。むむむ、これはまた明快さのない作品か?と思ってあまりハードルは上げずに見に行ったのですが、面白かったです。


本作は「家族」がテーマですが、そもそも是枝作品はそういう作品ばかり。血が繋がっていれば家族なのか?一緒に暮らせば家族なのか?家族は仲良くあるべき?
本作は大御所女優の自伝に書かれた内容が、事実と違うと母に詰め寄る娘。女優という職業を全うしてきた大御所女優と、実際の家庭では愛されなかった娘の関係やいかに。果たして「真実」とは?


(以下、ネタバレあります)


カトリーヌ・ドヌーブジュリエット・ビノシュ。彼女たちの作品はまったく見たことないのですが、お二人が世界的な名優であることはさすがの私も知っています。
プライベートのカトリーヌ・ドヌーブも、本作のファビエンヌと重なる部分があるのでしょうか。Wikipediaを見たら、ファビエンヌってドヌーブの本名のミドルネームなんですね!じゃあもう完全に当て書きだな。


ファーストシーンは葉の落ちる庭。季節は晩秋。
冒頭、インタビューを受けるファビエンヌ。ここでもう彼女のキャラが丸わかりです。不遜でずけずけとものを言う大御所女優。
そして自伝を読んでその内容が事実と違うと詰め寄る娘に対して「事実なんて興味ないわ。私は女優だもの」と返す母。とりつく島なし。


リュミールがいちばん許せなかったのが、ファビエンヌの妹(ですか?劇中で明示されていましたっけ?)であるサラの描写がいっさいなかったこと。サラはファビエンヌ以上に未来を嘱望された女優であり、リュミールをかわいがってくれた女性だったのですが、若くして事故死。そんな彼女をファビエンヌの歴史から抹消していることにリュミールは怒るのです。


一方、ファビエンヌだっていつまでも大御所女優のままではいられない。「サラの再来」と言われているマノンに対し興味と危機感を持ち、彼女の出演する映画に出るファビエンヌ。しかし、なかなかセリフは言えず、上手く演技もできない。焦りと苦悩を抱きながら撮影に挑むファビエンヌ


数十年ファビエンヌに仕えてきたマネージャーのリュックは、自伝に一切名前がなかったことに腹を立て、屋敷を出て行きます。そのおかげで母の撮影現場に同行することになったリュミールは、女優としての母の仕事ぶりを見て、怒りだけではない、様々な思いを抱くようになります。


話をしていくうちに、そんなことあったっけと記憶の齟齬に気づくリュミール。出て行ったリュックを戻すべくファビエンヌのために脚本を書くリュミール。それらをすべて分かった上で謝罪と申し出を受け入れるリュック。孫から女優が夢と聞かされて気分のよくなるファビエンヌ。それはリュミールの考えた母へのかわいいウソなのだが、もちろんファビエンヌはそんなこと分かっている。


事実って何だろうね。真実って、事実とは違うのかな。
物語終盤、「この家ってこんなに電車の音聞こえたかしら」と言うリュミールに対し「葉が落ちると聞こえるようになるのよ」と答えるファビエンヌ。そう、時間がたてば見えてくる景色も聞こえてくる音も変わってくる。あの頃の記憶も、今とは違ってくる。そもそも、あの頃の記憶はそのときの思い込みかもしれない。記憶は当てにならない。


物語は、分かりやすく「和解」とはなりません。しかし、母娘はお互いに「理解」するようになります。
いい着地だと思います。人生、そんな急に激変しません。徐々に歩調が合っていく程度の変化です。それを、明確なセリフやシーンで描かず、その周辺で分からせる是枝脚本、素晴らしい。まるであだち充のよう。


ラストでマノンにサラの服をプレゼントするところは、ファビエンヌがサラを認め、受け入れたことを描くシーンです。冒頭で自分のDNAを受け継いだのは誰か、とインタビューされていましたが、その質問に対する回答でもあります。
また、母娘が抱き合う場面、ここはようやく二人が認め合った感動的な場面ですが、その直後に演技プランを思いつくファビエンヌを入れることにより、やっぱり女優を優先しちゃう彼女の女優魂を見せつける場面でもあります。上手い。
劇中で撮影している映画も母と娘の話なので、ここでも物語の二人とリンクしてくる。母が思うことと娘が思うことはイコールではない。歳を重ねて老境に達したファビエンヌが娘の視点で演じることにより、双方の思いを感じる・考えるのです。


本作はフランス映画として作られていますが、日本でもできるじゃんと思ってしまいます。でも、どっちでもできるなら世界基準で公開できるこちらを選びますよね。
また、母娘の葛藤が徐々に解きほぐされていく脚本はさすが是枝作品と思いましたが、女性が書いたらまた違ったんだろうなー、とも思いました。女性目線や女性心理だと、たぶんもっとレイヤーは何層にも重なっているんだろうな。


もっと地味で分かりにくい、カタルシスのない作品かと思っていましたが、面白かったです。地味は地味だけど。


是枝裕和監督の過去作品感想↓
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