やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「ヒミズ」 感想

青春「が」爆発だ


愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」ときて、ようやくここまでたどり着きました。
原作は読んでいますがエピソードはうろ覚えです。
原作と違う部分も結構ありましたが、「マンガの映画化」ではなく「園子温の新作」として見ていたので気になりませんでした。


東日本大震災を受けて脚本を変えたそうですが、あまり奏功していないように感じました。まだ震災から時間が経っていないので客観視できていないのでは。それは作る側も見る私も。


主演の二人はさすがに賞を獲得するだけあって素晴らしい。演技ではなく、青春が爆発している感じ。二階堂さんはちょっと「朗読している感」があるときもありましたが。


その二階堂さん演じる茶沢さんは原作とだいぶキャラクターが違います。原作ではもう少し冷静なお姉さんなイメージでしたが、映画では情熱あふれまくり。
でもこの方が二階堂さんに合っているし、その情熱が絶望に飲み込まれそうな住田を救ってくれたのだと思います。
それよりも、茶沢さんの家庭環境がひどすぎ。原作では茶沢さんの背景は描かれなかったので、こういう背景があった方が住田に惹かれる理由も分かってよいのですが、それでもひどすぎ。わが子を自殺させるために首吊り台を自作する親がどこにいる。
いくら毎回「親のせい」「家庭のせい」でおなじみの園子温でも、さすがにやりすぎでは。見ようによっちゃ、住田の家庭よりひどいよ。あくまで茶沢さんは「一般人」の立場から「普通でなくなってしまった」住田へ手を差し伸べるべきでは。


主人公である住田は「普通」を目指しているのに、親のせいで「普通」には生きられなくなってしまいます。その点は原作と同じですが、映画では被災者たちが住田の周りにいて、常に「住田さん住田さん」と感謝と関心を向けてくれます。そのため、住田の悩みや孤独感は「自分で不幸を選択している俺カッケー」という中二病的な感じも途中しました。
こんなに自分のことを心配してくれる人たちがいるんだから、もっと甘えたり頼ったり愚痴をこぼしてもいいのに。


途中、窪塚洋介が出てきますが、やっぱり彼は素晴らしいですね。
夜野(住田のボートハウスにホームレスしている元社長のおじさん)以外本編の登場人物と関係がないので、ここだけ別の映画みたい。
主役の染谷将太君とのからみもないですが、もしあったら主役を食っちゃいそう。


住田の母親が出ていき、家の机には「がんばってね!」の書き置きが。何て薄っぺらい「がんばって!」でしょう。
そしてラストでの「住田がんばれ」。ここはとても良かった。書き置きの「がんばってね!」との落差というか対比。言葉の重みが違う。
生きる希望を失いかけていた住田を励ます二階堂さんからの「住田がんばれ」。そしてその自分を奮い立たせるための住田自身による「住田がんばれ」。これが絶望に覆い尽くされそうになった若者二人を未来へ突き動かすわずかなエネルギーになっているのです。
が、ラストでこの二人が走っていく場面が震災の風景に変わっていきます。
つまり、「被災者がんばれ」になっているのです。こんな安直であざといやり方は園監督らしくないし、実際の被災者が見たらあまり良い気がしないのでは。
今までの園監督作品と違い、ベクトルが希望に向かうラストは良いのですが、「震災」という余計なファクターがこの映画の印象を邪魔しているように感じました。
インタビューで監督は「希望に負けた」と言っていたので、震災がなければ原作と同じ救いようのないラストになっていたのでしょうか。私は、震災とからめるのは上手くいっていないと思いますが、希望に向かうラストは良いと思っています。ですので、余計この映画の判断に困る。
でもトータルとしては良い映画だったと思っています。監督の作家性とメジャー感のバランスが上手くとれている感じ。


その他思ったこと。
■園ファミリー出すぎ。無理やり出さなくてもよかったのでは。もし震災がなければ吹越満たちは単なるホームレスとして描かれていたのかな。

■ボート屋の客で来ていた異常者がいかにも「古谷実のマンガに出てきそうな顔」過ぎて笑った。

■二階堂さん、ナイスおっぱいですな。今後何かの映画で勢いで脱いでくれないかな。

園子温監督の他の映画についての感想はこちら
映画「恋の罪」 感想 - やりやすいことから少しずつ
映画「冷たい熱帯魚」 感想 - やりやすいことから少しずつ
映画「愛のむきだし」 感想 - やりやすいことから少しずつ


映画『ヒミズ』予告編

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