やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?」小暮太一 まとめと感想

就活生に読ませたい


タイトルに惹かれて買いました。帯には「40年間ラットレース!」のコピー。
私個人としては正社員で日々の生活に困っているわけでもないし、いわゆる「独身貴族」ですが、それでも会社員として働く身としては気になりますよね。


内容は、まずマルクス資本論」をもとに資本主義の仕組みと私たちの給料の仕組みを解説し、では私たちはどのような働き方をするべきか、が後半で語られています。
特に前半の資本主義の仕組みの解説の部分は「噛んで含める」ような丁寧な解説で、非常に分かりやすかったです。
ちなみに、このエントリものすごく長いです。9,000字以上あります。前後編にすればよかった。時間のあるときに、もしくは何日かに分けて読んでください。






「使用価値」と「価値」
普段私たちはこの二つを意識して使い分けることはありませんが、「資本論」ではこの二つは明確に区分されています。
ではまず「使用価値」から。

「使用価値」とは、その商品の「有用性・有益性」のこと

「パンの使用価値」は「食べた人の空腹感を解消すること」であり、「洋服の使用価値」は「寒さやダメージから身を守り、ファッションとして他人の目を引くこと」です。
つまり、「使用価値」とは、私たちが普段使っている「価値」という意味です。混同しがちなので注意。


では「価値」とは。

「価値」とは、「それを作るのにどれくらい手間がかかったか」

つまり、多く手間がかかっていれば「価値が高い」になります。


次に、「商品の使用価値」と「商品の価値」について。
「商品の使用価値」は、「その商品を使って意味があるかどうか(有益かどうか、役に立つかどうか)」です。有益であればあるほど、役に立てば立つほど「商品の使用価値は高い」になります。


「商品の価値」は、「原材料の価値の積み上げ+加工する労働力」です。
ただし、この「加工する労働力」、つまり「手間」は、「社会一般的にかかる平均労力」です。つまり、わざと手間ひまかけても、それは「労働力の価値」には含まれません。あくまで「社会一般の平均」で決まるのです。


「値段」はいかにして決まるのか
一般的には「需要と供給の関係」で決まると言われていますが、そうではありません。商品の「値段」は、その商品の「価値」を基準に決まるのです。
もちろん需要と供給のの関係で値段は上下しますが、あくまで基準はその商品が持っている「価値」にあります。
本書では極端な例として、鉛筆とビルが挙げられています。たしかにどちらも「使用価値」はありますが、作る手間は当然ビルの方が大きいです。なので、ビルの「価値」は高く、「値段」も高くなるのです。
その次に、需要と供給の関係により値段は上下していくのです。


「労働力」という商品
私たちの給料の決まり方は

・必要経費方式
・利益分け前方式(成果報酬方式)

の2種類があります。
このうち、一部の外資系金融機関などを除けば、日本の会社のほとんどが「必要経費方式」を採用しています。この「必要経費」とは、「働いてエネルギー0の状態から、翌日も働けるようにエネルギー100の状態にまで回復させるために必要な経費」のことです。
労働力が商品であるということは、その「価値」は、「労働力を作るのに必要な原材料の積み重ね」になります。これがマルクスの言う「労働力の再生産」です。
具体的には食事を摂り、睡眠を取り、その他衣服や家や携帯電話など、いろいろなものが必要となります。それらの積み上げが「労働力の価値」であり、「必要経費」であり、私たちの「お給料」なのです。


労働力の値段
これも、他の商品と同じく「価値」が基準となっています。
頑張っている人は他の人より給料が若干高いのは、需要と供給の関係で会社にとって「需要」が多いので、給料が高いのです。ある人と比較して、会社に対して2倍の利益をもたらしている人が2倍の給料をもらっているわけではありません。
あくまで「価値」のプラスアルファとして上下しているのです。


医者と介護士の給料の差
どちらも「人が生きていくために必要な仕事」なのに医者の方が給料が高いのは、医者になるための知識や技術を身につけるのにたくさんの準備や時間が必要だからです。
「スキルの習得」も「価値」の合計には含まれるので、資格や技術を持っている方が給料は高くなるのです。「資格手当」もこの考え方で理解できます。


おじさんの給料が高い理由
「労働力の価値」は「明日も同じ仕事をするために必要な経費」なので、家族がいる場合、その経費は多く必要です。また、子どもが大きくなればなるほど教育費などで必要な生活費が増えていきます。なので、同じ仕事をしている若者よりもおじさんの給料は高いのです。


「利益」とは
「利益」は、「ものを仕入れて、販売する。その差額が利益」というイメージがありますが、これは正しくありません。
「100の価値の商品を95で仕入れ(買い叩いて)、それを105で売る(顧客を騙して)」というものではないのです。通常の取引であれば、価値が100のものは値段も100で取引されます。
そこに「利益」を発生させているのは、「労働」です。
労働者の給料は「明日も同じ仕事をするために必要な経費」なので、企業としてはたくさん働かせた方が同じ経費で多くの「剰余価値」を生み出すことになります。だから企業は労働者をより働かせようとし、「労働者は搾取されている」と言われるのです。


技術革新が生み出すジレンマ
技術革新により、少ない労働力で商品を生産することができると、その分剰余価値は増えます。しかし、すぐにその技術は周りも手にして、自分たちだけの特別なものではなくなります。

技術革新→生産性の向上→生産コストの減少→商品の価値の下落

となります。これは資本主義の構造としての問題なので常にどの部門でも起こり続けます。
するとどうなるか。

商品の価値の下落→労働力の価値の下落→必要労働時間の減少→企業のために働く時間が増える

商品の値段が下がっても、自分たちの給料も下がるので、恩恵が受けられないのです。そこでまた頑張って技術革新を行うのですが、また上記のサイクルに巻き込まれてしまいます。

熱帯雨林の樹木が、自分だけ多く陽の光を得ようと伸びても、周りも負けじと伸びてくる。その結果、全員が伸びても個々の受ける光の量は変わらない。それどころか、伸びたためにその幹の部分にエネルギーが余分に必要となります。

虚しい努力ですよね。
しかし、そうは言っても伸びるのをやめたら陽の光は自分には届かなくなる。まさしく「分かっちゃいるけどやめられない」のです。


ラットレース
資本主義経済は、お互いに努力・競争・切磋琢磨して、今までよりも良い商品(値段・使用価値・低いコスト)を生み出してきました。しかし構造的に、誰もがこのレースから降りることが許されないのです。まさしく「ラットレース」です。
そこで「金持ち父さん貧乏父さん」では「不動産投資や株式投資で不労所得を作れ」と結論づけていますが、一般の会社員にはなかなか難しく、現実的ではありません。
では、どうするべきなのか。


ここまでが資本主義経済の構造についての解説です。
だいぶ端折って書きましたが、これでもある程度は伝わると思います。
ではここから、私たちはどのような働き方をするべきなのか、について。


労働力にも、使用価値だけでなく、価値が不可欠
「労働力の使用価値」というのは、「こいつはたくさんの利益を上げた」と企業から「需要」を増やし、給料を増やすことです。それはいつもよりたくさん残業して成果を出したり、休日返上でノルマを達成したりすることです。
しかし前述のとおり、給料はまず「労働力の価値」で決まります。そこが基準となり、それにプラスアルファとして「使用価値」があるのです。であれば、「残業」や「休日返上」のような「毎日全力ジャンプ」のような働き方は、長い目で見ると効果的ではありません。
あくまで「労働力の価値」を上げることに重点を置くべきなのです。


売上よりも利益が大事
利益に関する方程式は

売上 - 費用 = 利益

です。
では、これを個人に当てはめると

売上 = 収入・昇進から得られる満足感
費用 = 肉体的・精神的労力やストレス

となります。
つまり、売上(=収入)が増えても、費用(=労力)がそれ以上であれば自己内利益はマイナスになってしまうのです。
例えば年収1,000万の仕事は、報酬は魅力的ですが、それを得るための時間やストレスも大きいことが想像できます。その結果がプラスなのかマイナスなのかで判断しなければいけません。
「自己内利益を増やす働き方」を選択すべきなのです。


損益分岐点は逃げていく
損益分岐点」とは、「売上と費用が一致した地点」です。それ以上売上が増えれば利益はプラスだし、それに届かなければマイナスです。
利益を増やすためには「売上を伸ばす」「費用を減らす」のどちらかで、絶えず企業はこの両方に取り組んでいます。しかし実際はこの二つは連動しており、例えば売上を増やすために広告を打てば、その分費用は増えます。その結果、広告費用分以上の売上が伸びなければ利益はマイナスになってしまうのです。
売上を増やすためには費用がかかり、その分売上をさらに伸ばさなければならない。まるでラットレースというよりは目の前にニンジンをぶら下げられた馬です。いくら走ってもニンジンはさらにその先へ逃げてゆく…。


人生の損益分岐点も逃げていく
「年収300万」の人が頑張って「年収500万」になっても、「こんなに苦労するんだったら600万もらわないと割が合わない」と思い、さらに努力する。そして「年収600万」になったときは「こんなに苦労するんだっから800万もらわないと…」と、損益分岐点はどんどん先へ逃げていきます。


人は慣れる生き物。でも現実は変わらない
年収が上がったとしても、それに慣れてしまえばその満足感や幸福感は薄らいでいきます。そしてまた上を目指すのですが、そこでも「慣れ」てしまいます。
しかし、その上の場所で慣れてしまい、満足感は以前と同じに戻っても、その収入を得るための激務やストレスは以前とは違います。
つまり上の式で言えば

収入・昇進から得られる満足感-肉体的・精神的労力やストレス=自己内利益

ですので、完全にマイナスになってしまいます。かといって、激務やストレスの少ない以前の場所に戻っても以前と同じ満足感は得られません。


さて、このジレンマから抜け出すためにはどうしたらよいのか。
ここから核心の部分。「自己内利益の増やし方」です。


自己内利益の増やし方は、前述の式で言うと、

満足感を変えずに、必要経費を下げる
必要経費を変えずに、満足感を上げる

のどちらかです。


必要経費を下げる方法
私たちの給料は、「明日も同じ仕事をするために必要な経費」として会社から支払われています。そしてその「必要経費」は、「世間一般の平均相場」です。
つまり、自分だけが世間相場よりも必要経費を下げることができれば、結果として「自己内利益」を増やすことができるのです。


業務を効率化して「時間的労力」を少なくしても、会社からは別の業務を言い渡され、結局時間的労力を減らすことは難しいです。また、効率化やノウハウはすぐに世間一般に広がり、「当たり前」になってしまいます。
なので、より重要なのは「精神的苦痛」の方です。
もし自分の仕事が他の人よりも精神的苦痛が少なければ、「より少ない経費で回復することができる」のです。ノウハウは一般化しても、気持ちの優位性は他人に伝わるものではありません。

世間相場よりもストレスを感じない仕事を選ぶ

これが「満足度を変えずに必要経費を下げる方法」なのです。


「得意な仕事」「好きな仕事」ということではない
「得意な仕事」であれば人よりも成果を残せるので、労働力の「使用価値」は高くなります。その結果会社からも重宝され、高い評価も受けるでしょう。しかし、それは自分の必要経費を下げることにはつながりません。会社にとって優秀な人材であっても、自分が幸せになれるわけではないのです。
「好きな仕事」といっても、嫌なことが全く無いわけではありません。「仕事を楽しもう」といっても、好きな趣味を楽しんでいるのと同じ感覚のはずはないのです。
「仕事を楽しむ」というのは、「仕事に興味を持つ」ということなのです。
仕事で「like」や「happy」というのはありえません。ですが、「interest」という「面白い」「興味がある」はありえます。
「楽しい仕事」というのは「嫌なことが無い仕事」ではありません。どうやって「楽しく」感じたり捉えたりするかは私たち次第なのです。


満足感を上げる方法
「満足感を上げる」とは、昇給・昇進することです。他の人よりも昇給・昇進するためには、他の人よりも高くジャンプして、高い所へ手が届くようになることです。
しかし、毎回全力ジャンプを続ける(=「使用価値」を上げる)のは、それを回復するための経費がより多く必要となります。これでは満足感が増えても必要経費も増え、自己内利益は一向に増えません。それどころか差し引きではマイナスになってしまう場合もあります。
ところで、給料は、労働力の「価値」がベースとなって決まります。
なので、その「価値」を上げれば給料は増えます。そして、その上がった「価値」を土台にすれば、以前より少ないジャンプで同じところまで手が届きます。少ないジャンプ、つまり少ない経費で同じ結果を出すことができるのです。また、以前と同じジャンプで、より高いところまで手が届くようになります。つまり、満足感を上げられるということです。
その「価値を上げる」というのは、知識や経験、スキルや資格など、その人が「積み上げてきたもの」も反映されます。それが「土台」となって、給料は決まってきます。

まず「積み上げ」によって土台を作り、その土台の上でジャンプする


「土台を作る」とはどういうことか
例えば、「1日立っているだけで1万円」。これは簡単でおいしい仕事ですね。しかし、これは何の積み上げにもならない。これは労働力を「消費」しているのです。
それに対し、「社長のカバン持ちで1日2,000円」。これは重要顧客に失礼があってはいけないので服装も立ち振る舞いも大事になってきます。労力やストレスがかかる仕事です。しかし、そこで人脈を築けたり、高レベルのビジネスの現場に立ち会うことができるという経験は、必ず将来の糧になります。これが労働力を「投資」するということです。

労働力を「消費」するのではなく「投資」する


目先のキャッシュに惑わされるな
「時給は低いが将来の土台を作れる仕事」と、「時給は高いが、将来何も残らない仕事」のどちらを選ぶべきか。ついつい目先の時給や残業代に手を伸ばしてしまいがちです。
しかし

    キャッシュ 土台作り 合計
仕事A   4     5   9
仕事B   6     1   7

トータルではAの方がリターンは大きくなります。また、これは土台を作っているので、今後のジャンプも楽にできるようになります。

長期的な資産を作る仕事を選ぶ


いよいよ結論の部分。
私たちはどういう「働き方」を選択すべきか。


「新しい」は「すぐ古くなる」
携帯電話ショップの店員は、日々発売される新機種についての性能や他機種との違いを顧客に説明できなければいけません。しかし、5年後にはその知識は不要になってしまいます。
接客の技術やノウハウは積み上げは可能ですが、それは携帯電話ショップでなくてもできます。だとしたら、意識的に、より多くの価値を積み上げることができる仕事を選ぶべき。

過去からの「積み上げ」ができる仕事(職種)を選ぶ


「古い」は「もう古くならない」
IT業界など、活気があって華やかな業界は、非常に技術革新のスピードが速いです。今日身につけた技術は来年には使い物になっていないかもしれません。
逆に鉄鋼業界などは長い間に身につけた知識や技術を長い期間活用することができ、長い間「資産」として活かせるのです。
時流に乗って大きく成長することもできるので、前者を選択することは間違いではありませんが、「自己内利益」を増やそうと考えるなら、後者を選ぶのも選択肢の一つです。

変化のスピードが遅い業界・職種をあえて選ぶ


「賞味期限が長い知識・経験」を身に付けよう
例えば会計の知識であったり、営業力であったり。
ただし、賞味期限が長い知識・経験であっても、「身につけるのが大変で時間がかかるもの」であることが重要です。「英検3級」レベルの資格では、他の人でも簡単に身につけられるからです。
そして、その知識や経験は「使用価値」がなければいけません。いくら資格を持っていてもその仕事に活かせない(=利益を出せない)のでは、会社はあなたを評価しません。

賞味期限が長く、身につけるのが大変で、高い使用価値のある知識・経験をコツコツと積み上げる


PLで考えるかBSで考えるか
PLとは「損益計算書」のことで、「売上」「費用」「利益」を示した表です。
これだと「いくら稼いだか」の「利益」の部分は見えますが、「どうやって稼いだか」は見えません。

10億円の不動産を持っている企業が、テナント収入(不労所得)で1,000万円稼いだ
何も資産を持っていない企業が、社員の頑張り(飛び込み営業)で1,000万円稼いだ

の2つが区別されないのです。これだと、以下の場合は

1年間死ぬ気で頑張って、今後10年間、毎年100万円の収入を生み出す資産を作り上げた
1年間死ぬ気で頑張って、1,000万円稼いだ

後者を選んでしまう場合があります。目先の1,000万円に目を奪われてしまうからです。


そこで、「BS思考」で考えてみるべきです。
BSとは「貸借対照表(バランスシート)」のことであり、「資産」「負債」「資本」が示されている表です。
これだと、「何によって利益が生み出されているのか」が分かります。
そして上記の例では、迷わず「今後10年間、毎年100万円の収入を生み出す資産を作り上げた」を選ばなくてはいけません。
前者は資産を作り、その後はその資産を使って収入を生み出しています。後者は、その瞬間的なエネルギーで稼いだお金です。これは次には何も残りません。また瞬間的なエネルギーが必要になります。

PLだけでなく、BSも考えて働く


まとめ

資産を作る仕事を、今日はどれだけやったか

ひとは、1年でできることを過大評価し、10年でできることを過小評価する


以上です。
いくら端折ってまとめても、さすがに長いな!
この本は、最初はゆっくりじっくり説明が始まり、ラストになると金言が矢継ぎ早に登場して、ページをめくる手が早くなります。まるでよくできたミステリー小説のよう。


著者はあとがきでも書いていますが、資本主義の仕組みの中で働く以上、転職や独立をしても根本的な解決にはならない。私たち労働者の「働き方」を変えるべきなのだ、と。
そこで

■「自己内利益」を考える
■自分の労働力の「価値」を積み上げていく(資産という土台を作る)
■精神的な苦痛が小さい仕事を選ぶ

ということを伝えようとしています。


私はビジネス書も少しは読みますが、「こういう仕事のやり方で」といったノウハウ本にはほとんど興味がありません。
「株式投資」「不動産投資」などにも興味がありません(お金を右から左に動かして儲けるというやり方に賛同できないのです)。
でもこの本は自分にはできないスキル・ノウハウ本ではなく、ギャンブル性の高い儲け話でもなく、自分の生き方・考え方に即した「働き方」についての本なので、とても心に落ちてきました。
日々の作業に忙殺されることなく、日々資産を作る仕事を少しでも積み上げていきたいと思いました。

僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか? (星海社新書)

僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか? (星海社新書)