やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「バンテージ・ポイント」 感想

脚本・構成が、上手いなあ

スペイン・サラマンカの広場で開催されていたテロ撲滅の国際サミットにて、大勢の聴衆を前にスピーチをしようとした瞬間にアシュトン米大統領が何者かに狙撃される。
続けてどこか遠くから爆発音がし、混乱に陥る広場の中で、演説台の下に仕掛けられた爆弾が爆発する。
大統領狙撃の瞬間とその前後を、8人の視点から描き、少しずつ真実が明らかになっていく。
(ウィキペディアより抜粋)


登場人物の視点から見えるものが、それぞれいいところで次の視点へ移っていく。
3人目までくらいまでは「え、またここから」と思ってしまったのですが、それぞれの視点からまた少しずつ新しい事実や立場が見えてくるので、見ていて飽きない。
ブライアン・デ・パルマ監督の「スネーク・アイズ」のような感じ。
(こちらの映画もお勧めです!冒頭13分ノーカット撮影!)


それではネタバレしつつ、各視点を見ていきましょう。


①テレビ局の視点
敏腕ディレクターのシガニー・ウィーバーがいい感じ。強くて切れ者で怖い。でも仕事はできる。
まずは「テレビ」という視点から、事件の概要を伝える。


②SPトーマス・バーンズの視点
本作の主人公。
半年前に大統領狙撃から身を呈して守った経歴あり。今回が復帰後初の警護。仕事直前までホテルの部屋にいていいのか?と思いましたが、そこはツッコミどころにはなりませんでした。
バーンズを演じるデニス・クエイドの終始渋い顔が、仕事に真面目な感じを出していて良かったです。半年前の狙撃事件が何か関係あるのかと思っていましたが、直接は関係なし。細かいことを気にしすぎるようになったことかな?それと大統領が個人的に信頼している(=顔見知り)ということのためのようです。
警護中に揺れるカーテン、演説とは別の方向を撮影している聴衆、狙撃直後に飛び出してくる男。
全てが怪しい。
撮影していた市民から見せてもらった映像に映っていたのは…。そしてテレビ局の中継車で彼が見た映像は…。
ここで終わる!
え?彼は何で気付いたの?何が映っていたの?何を見たの?
うまい引きです。


③地元の刑事エンリケの視点
市長の護衛のために現場に訪れたエンリケ。
覆面警官なので銃を所持。そのため、金属探知機はOFFにしてもらい、会場入り。会場では彼女が見知らぬ男と何やら会話を。「ガード下で待つ」と言葉を交わして離れる二人。彼女は「あなただけを愛してる」というが…。
彼女にバッグを渡し、護衛するために最前列へ進むエンリケ。狙撃直後、市長を守ろうと飛び出す彼だが、そのスピードや判断力で逆にバーンズに疑われてしまう。
爆発の後、銃を手に逃走する彼。途中、救急車に乗る、救急隊員姿のベロニカとすれ違う彼。ここで彼は騙されたことに気付くのですが、映画を見ている私たちにはまだその真実は伝えられません。
警察からの追跡を必死に振り切り、ガード下へ辿り着く。そこで車を止め、「まさか俺が生きていると思わなかっただろう」。
ここで引き!
またしてもうまい引きです。
誰に向かって言っているの?現時点ではベロニカに見えるが?


④旅行者ハワード・ルイスの視点
家庭用ビデオカメラで撮影をしていたルイス。
途中、英語を喋る観光客と会話を交わす。またその途中、アナという娘と母親に出会う。彼は現在別居中の息子と同年代のアナに親愛の情を示す。そして事件の後、彼のカメラに映っていたものは…。
この辺からだんだん核心に迫ってきます。
まず、彼が別の方向を向いていたのは、バーンズがある方向を注意してたから。何だろうと思いカメラを向けると、バーンズが見たのと同じ揺れるカーテンの部屋。
次に、バーンズに見せた映像には女が演台の下へバッグを投げ入れるところ。これはエンリケもその瞬間を見ています(ここでエンリケは彼女の裏切りに気付く。そのため、この後彼は彼女を追って逃走するのです)。ここでバーンズもエンリケも爆発物の存在に気がつく。
爆発後、逃げるエンリケを追うルイス。ガード下でエンリケを見つけるが、彼は何者かに撃たれてしまう。そしてアナも見つけ、彼女の元へ駆け寄るルイス。
ここで引き!
バーンズが見た映像の内容と、エンリケの結末は分かりますが、エンリケは誰に撃たれたのかは不明のまま。
少しずつ謎が明らかになりますが、また新たな謎も増えてゆく…。


アメリカ合衆国大統領ヘンリー・アシュトンの視点
テロの準備と脅迫状の送付により、スピーチは替え玉に出席させ、ホテルへ戻る大統領。
そこで狙撃事件が起きるが、彼は報復をしないと決断する。テロとの戦いを終結させるためのサミットで報復活動を行うことこそがテロリストに屈すると思い、逆に世間が味方しているこの時こそがサミットを成功裏に締結できると考える。
しかし、このホテルでも爆発が!さらに部屋にもテロリストが乱入!次々に銃弾に倒れる側近たち。果たして大統領の運命は…?そしてこのテロリストは…?
ここで引き!
この部分では大統領の考えが出てきますが、これは映画制作側の意見なのかな?
他にもアメリカに対するデモもやっていたし、それの内容が「ドルを守るための戦いには賛同しない」というものだったし。


⑥テロリスト ハビエルの視点
エンリケの彼女ベロニカと話していたのは、元特殊部隊出身のハビエル。
彼は弟を人質に取られ、テロに参加させられていた。「ガード下」というのは、任務遂行後に落ち合う場所だったのです。浮気相手じゃなかったのね。
弟を救うため、任務を遂行していく彼。ホテルの大統領を襲ったのも彼でした。
ここで引き!
謎の男の背景が明らかになり、ホテルの大統領を襲った実行犯も彼と分かる。
さて、この背後の黒幕は…?


⑦バーンズの同僚 テイラーの視点
バーンズの同僚で、新米ながらバーンズの復職を推薦した人物。しかし彼は、テロリストの一味だったのです。バーンズにウソの情報を送り、自分は警官に変装してハビエルを迎えに行く。しかしそこでバーンズに見つかり…。
だいぶ前半でバーンズがテレビ局の中継車で何かに気づくシーンがあるのですが、それは、電話で会話しているテイラーが、警官の格好で自分と会話している姿を中継車の画面で見たというもの。
これで前半の謎を解き、テイラーがテロリストであるという秘密を暴き、テイラー視点の場面に移る。上手い。
そしてここからのカーチェイスが素晴らしい。スペインの街中を無茶して走る走る!
映像的には誰も轢かれたり死んだりしていないのがいいですね。


⑧テロリスト首謀者スワレスの視点
ルイスと話をしていたあの男こそが、この事件の黒幕・首謀者でした。
ルイスに近づいたのも、撮影をしていた彼を邪魔に感じたからか?
携帯電話で扇風機をON。揺れるカーテンを演出。狙撃する銃も同じ電話から遠隔操作でズキュン。演台の爆発も、当然このスーパー携帯電話でドカン。ホテルの爆発は抱え込んだ一味のホテルマンに自爆テロをさせる。爆発後は救急隊員に扮して拉致した大統領を確保。
あまりに出来過ぎです。
しかし、こういう映画は悪役が上手くないと意味がないので、ここは目をつぶろう。
同じように、ベロニカもテロリストのお仲間でした(それは彼女がバッグを投げるシーンで明らかになっていますが)。
ただ、彼が大統領を拉致して何をしようと思ったのか、その背景には何があるのか、テロの目的などはまったく描かれていませんでした。そこがこの映画の唯一といってもいい不満です。


⑨そしてラスト
テイラーとバーンズのカーチェイスの後、何とかバーンズを撒いたテイラーは、約束のガード下へ到着する。しかし、そこで待っていたのはエンリケだった。
ハビエルは、彼が弟を拉致している犯人だと思い、発砲。そのままエンリケは死亡。
クラッシュした車から何とか脱出したバーンズ。テイラーを追って走ります。テイラーは逃げようと再度車を発進させる。ハビエルが車に乗ろうとしがみつくが、テイラーはそのハビエルを撃ち殺す。バーンズが撃った銃弾がテイラーの肩に当たり、コントロールを失った車は路肩へ突っ込む。
車からテイラーを引きずり出すが、結局目的などは言わずにテイラー死亡。


その頃、大統領を乗せた車は、昏睡から覚めた大統領が車内で反撃。そのため車は前方不注意になり、ふと前を見ると母を探す少女アナが。
ここまで散々ひどいことをしてきたテロリストですが、少女は轢いてはいけません。急ハンドルを切ると、そのまま車は横転。ルイスが間一髪でアナを救出。
テロリストはバーンズがやっつけて、無事大統領救出。
ここで大統領とバーンズが顔見知りであった意味が出てきます。
後日、大統領の経過が順調であること、首脳会談が上手くいったことなどがテレビニュースで伝えられます。
めでたしめでたし。
つまり、テロから世界を救ったのはアナだったのね。


最後に少しだけ不満を。
最後の後日談はニュースで伝えられるので、そこはシガニー・ウィーバーに仕切って欲しいし、それを中継するのは最初に出てきた彼女であってほしい。
これでこそ大団円じゃない?どうでしょうか。


各視点を書くうちに、ストーリー全部書いちゃった。
でも、こうやって書くことでストーリーの辻褄などがより鮮明に分かり、よりこの映画の緻密さを感じることが出来ました。
最初に見た時はエンリケの立ち位置がよく分からなかったのですが、爆発物を運び込むために利用されたという役目なのですね。この辺の伏線がさらりと描かれているので、その場面を見ているときには分からない。シーンが進んで謎が明らかになっていくにつれて、「アレはあのためだったのか」とわかるようになっています。


結論。
非常に上手く出来た、良い映画でした。
満足。

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