やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「黒子のバスケ」脅迫事件の被告人意見陳述を読んで感じたこと。「命名」と「無敵の人」

なので、万引きは窃盗、暴走族は珍走団と呼んで欲しいのです


人気マンガ「黒子のバスケ」にまつわる出版物やイベントに対する嫌がらせ・脅迫事件の被告が書いた冒頭意見陳述の全文が公開され、ネットでは話題になっています。

「黒子のバスケ」脅迫事件の被告人意見陳述全文公開1(篠田博之) - 個人 - Yahoo!ニュース
「黒子のバスケ」脅迫事件の被告人意見陳述全文公開2(篠田博之) - 個人 - Yahoo!ニュース

話題になっているのは、被告の書いた文章が上手い、というものです。


確かに、文章は上手いです。一部漢字の校正が入っただけで、被告の書いた原文ママだそうです。しかも手書き。文章力も、構成も、語彙や単語の選択も、上手い。
ただ、肝心の内容といえば、こいつは自己中心的な甘ちゃんで、状況の原因を周りに求める責任転嫁野郎でしかないのですが。


文章全体の印象はこんなもんなのですが、この文章を読んで感じたことが二つあるので、今回はそれを書きます。

命名

被告の書いた文章の中で「社会的安楽死」「人生格差犯罪」など、キャッチーなフレーズがいくつかありました。
私は、「その状況や出来事に名前をつけることで、その状況や出来事が本当にあることとして社会に認知される」と思っています。
援助交際は、その言葉が生まれるまでは単なる売春だったのに、この言葉が生まれてからは売春より一段軽いニュアンスとなり、「エンコー」になってさらにカジュアルになりました。
ニートも、この言葉が社会的に認知されてから、その存在が認知されたように思います。急にニートが増えたわけじゃないのに。
命名とはその対象に名前をつけることですが、名前が与えられたから命が与えられる、とも言えるでしょう。
(マンガ「MONSTER」でも同じようなテーマが描かれていましたね)


得体のしれない「空気」や「感じ」に名前がつくことにより、可視化され、安心できるようになるのです。
被告の命名したこれらの言葉が今後ニュースなどで広まり、その名称や概念が一般化していくと、社会的安楽死や人生格差犯罪という事象・出来事が肯定されたり批判のレベルが下がっていくような気がします。

無敵の人

この文章の中のキャッチーなフレーズのひとつに「無敵の人」がありました。

自分のように人間関係も社会的地位もなく、失うものが何もないから罪を犯すことに心理的抵抗のない人間を「無敵の人」とネットスラングでは表現します。

この言葉、ネット界隈では一般的な言葉として流通しているのでしょうか。私は初めて目にしました。
今後さらなる社会格差の拡大が進む中で、このような「無敵な人」は増えていくでしょう。それはテロや社会正義とは違い、妬みと足の引っ張りでしかなく、プラスの目的がないものです。
私は「他人を下げても自分は上がらない」と思っているのですが、そうはいってもそんなことをする人が現実にいるんだから困ったもんです。
他人を下げても自分は上がらない - やりやすいことから少しずつ
「無敵の人」が起こす事件を防ぐために、格差社会縮小均衡を目指すべきなのでしょうか。私は、持てる人がさらに自分に有利なシステムを作っていくので格差社会の拡大は望みませんが、頑張った人が報われる社会はなくすべきではないとも思っています。
トリクルダウンが起きないことは日本以上の格差社会であるアメリカを見れば明らかだし、格差の問題は経済の規制緩和や自由化ではなく、政治の「分配」の問題だと思っています。


ちょっと話が逸れた。
今後の社会秩序を守るために格差を縮小すべきか。政府はそのように動くでしょうか。動かないでしょう。散発する事件の影響と、世界の中で経済大国として立ち回ることを考えれば、当然後者に傾くはず。迷う要素なんてない。
では、何をするのか。ジャンクフードとイオンとケータイゲームといった目の前の小さな快楽を与えてごまかしていくのかな。


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