やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

世の中全てに白黒つけたら世界はモノクロの世界

のりしろとか余白は必要


先日、地元でお祭りがあり、いろいろお手伝いをしていました。
お祭りなので露店商の方がたくさん来ます。もちろんいかついし強面ですが、実際喋るとそんなに怖くないです。向こうだって地元とトラブルを起こしたら来年以降来れなくなるし、露店商の親方に怒られるので、ムダなトラブルは起こしたくないのです。


露店商が出店する場所は事前に「ここは駐車場出入り口だから出しちゃダメ」「消火栓の前は空けなきゃダメ」「横断歩道・交差点付近はダメ」など、露店商の親方や地域の区長さん達と区域を周って区分けをします。
しかし、お祭り当日になるとそこをはみ出す露店商もちらほらいます。その際はその露店商やその親方に話をして調整をします。もちろん事前に決めたことなのでルールは守ってもらいたいのですが、露店商としてもより良い場所で商売をしたいので、両者すり合わせにより、「じゃあ、ここまでだったら出してもいいよ」という着地点を見つけます。双方の歩み寄り。
「ルール」を振りかざしてトラブルになるのは避けたいし、でも住民の迷惑になったらいけない。「お祭りを楽しく安全に開催するには」というのがゴールなので、そこに着地するために少しルールに触る部分が出てくる場合もあります。そして、露店商の人にもこちらの言い分を聞いてもらい、お互いの妥協点を見つけるのです。
住民にも「お祭りだから」「2日間だけだから」で少し不自由をかける部分も出てきます。その際もゴールは「お祭りを楽しく安全に」です。みんなが歩み寄って、いいお祭りを開催しようとしてくれるのです。


ところで、露店商の出すお好み焼きとかたこ焼きって、美味しいですか?値段に見合ったお味ですか?普通の料理屋さんであのレベルが出てきたらみんな食べないと思うのです。でも、お祭りだから買っちゃいますよね。あの雰囲気とかあの味なども含めて「お祭りのあの感じ」だと思います。


で、今回のお祭りで隣町の人(同じ市内ですが旧町では隣町)が空き店舗を使って商売をしていました。ビール・ジュース・お好み焼き・たこ焼きなど、露店商が出す品目をだいぶ安い値段で提供していました。
普段からここで同じような商売をしているのであれば問題ないですが、この人は普段は飲食とは全く違う商売をしてます。このお祭りのときだけ商売をしようということです。
「無料休憩所」という大きな表示の下に飲食のメニューと価格も大きく表示してあります。これは目立つ。


案の定、露店商から「あんなんじゃうちらの商売あがったりだから何とかしてくれ」と声がありました。もちろん違法なことをしているわけではないので、商売を辞めさせるわけにはいきません。露店商としてもそこまでは求めておらず、「無料休憩所」はいいし、商売するのもいい。ただ、店外に大きく競合商品の価格を出すのはやめてくれ、という要望でした。
確かに、私としてもその辺が落としどころだと思います。


上司とともにそのお店に向かい、店主に露店商の要望を伝えますが、店主は「何が問題ですか。何か法律や条例に違反していますか。資本主義でしょ」と全く取り合ってくれません。
確かに。店主の言っていることは正しいです。何も違反していません。私たちも露店商の手先ではないので、露店商の言い分のみを呑むわけにもいきません。
ただ、このままではお祭りが楽しく安全に開催されない恐れがあります。そのために、店主に少しだけでも歩み寄ってもらうように「お願い」するのです。私たちにできるのはそれだけ。


しかし、店主は一歩も引きません。まあ、こうなることは当然分かっていてこんな挑発的なことをする人ですから、そりゃすんなり応じるわけないですよね。
「私だって市民のためにやっているんですよ」「お祭りを盛り上げようと思って」と店主は繰り返しますが、それって市民のためじゃなくて商売のためだろ、と思ってしまいます。言えないけど。
市民のためなら、トラブルの火種を作らない方がよっぽど市民のためですよ。


「お祭りを楽しく安全に開催するためにも、ご協力していただけませんか」と言っても「もし何かあったらすぐ営業妨害で警察呼びますから」と取り合ってくれません。
もうー、本当に露店商からの嫌がらせがあったら警察呼んでチンピラ逮捕したって、壊されたり汚されたりしたら自分も困るでしょ。露店商が嫌がらせするかも、とは言えないけど。
そして本当に警察沙汰のトラブルがあったら市民の皆さんも不安がってお祭りに来てくれなくなります。祭り全体を考えたら大きなマイナスです。


話し合いは膠着状態で全く進みません。お店の外には強面の露店商が何人もいて、様子を窺っています。
そこで、上司の一人が「このままだとお店もオープンできないじゃないですか。露店商の人たちだって商売しちゃいけないと言っているわけじゃないんですよ。だから、表示の部分だけ取ってもらえればお店もできるし、すぐにオープンできますよ」と柔らかく言っても頷いてくれません。
もはや、店主も意固地になっていて折れることができないようです。


そうこうしているうちに私は自分の持ち場の仕事の時間になり、その場を離れなければならなくなりました。
しばらくして上司たちが戻ってきて、「結局、露店商の親方と店主が直接話をして、表示部分を外すということで決着した」と教えてくれました。


長く書きましたが、今回のことで私が感じたのは以下のことです。
店主は何も悪いことはしていません。法律も条令も犯していません。露店商もこの商売を辞めさせる権利はありません。私たちもそんな権限はありません。
なので、ルールのみを見れば店主の言うとおりですが、それではお祭りは上手くいきません。なので、双方「歩み寄り」をしましょうよ、ということです。
今回の場合で言えば、お祭りの時を狙ってわざわざ仮設店舗をオープンさせるんだから、そういう時はお祭り全体のやり方に合わせてほしいと思うのです。


普段お店でも権利や決まりを振りかざして自分の主張を通そうとする人がいますが、何も間違っていないけど、何か嫌な感じを受けることがあります。
それは、「ルール」には則っているけど、「マナー」「モラル」「常識」がずれているからです。これらは「ルール」の中にあるものなので、それ自体からは外れても、ルールは守っている場合があります。
また、今回の露店商とのトラブルの例でいえば、「コスパに見合わない商売を許容する」「露店商の商売を邪魔しない」といった「お祭りのときの常識」は、ルールをはみ出しています。「常識」がルールの外にあるのです。
正論で言えば店主の言い分の方が正しいです。


でも。
でも、「お祭りを楽しく安全に」という全体目標を達成するためには、少しはみ出した部分がある場合があっても、全体としては目標を達成できるのなら、それくらいは許容範囲なんじゃないかな。これくらいの「余白」はあってもいいと思うのですが、いかがでしょうか。
もちろん、臨時食品営業許可を申請しているとか、道路占有許可の枠外には出店しないといった「外してはいけないルール」はもちろん厳守しての話ですが。


あまり杓子定規に「ルールの中なら何してもいい」「ルールから外れたら全てダメ」という白黒二元論にこだわるのはあまりいいことではないと思います。
「全体功利」を念頭に、少しの余白やのりしろは残して運用していくのが「現実の社会」だと思うのです。
「グレーゾーン」は悪い意味ばかりじゃないよ。


グレイゾーン

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