やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「悪人」 感想

役者が物語を凌駕した!


映画「悪人」を見ました。
公開時にあまり惹かれなかったのは、妻夫木君が悪人役というところ。彼は根っからの善人顔なので、悪役ははまりません。「黄金を抱いて翔べ」はどうしても悪く見えなかったし、「渇き。」のやる気ない感じは良かったけど、多分もっとはまる役者がいたと思います。
それが、今作ではとても良かった!
口下手で自分の気持ちを表現できない祐一。顔は悪くないけど、イケてる感じがしない。地方に埋もれている若者という感じが上手く出ていました。


この物語は、役者さんたちがみんな素晴らしいのです。
深津絵里さん。相変わらず美しい。すっぴん顔が美しい。美人役でないのに美しい。ただ、正直この作品の役どころとしては美しすぎます。もう少しイケてない方が、この「地方で特に出会いもない一OL」の感じが出たと思うのですが、それは興行だもんな。美しさイマイチの女優じゃお客集められないもんな。
満島ひかりさん。いる!こいつ、いる!本人は全くそのつもりはないのに周りはイラッとする感じ。自分が可愛いことを分かっていて振る舞う感じ。自分の自己評価と周りの評価が一致していない感じ。とはいえ、峠で車を下ろされたり殺されたりするほどの悪人ではありません。
岡田将生さん。彼はこういう薄っぺらい役が似合うな!本人が薄っぺらいから(偏見です)。
江本明さん&樹木希林さん。言うことなし。上手過ぎる。娘を殺された父親はこうなるだろうし、こんなおばあちゃんは全国に100万人います。
宮崎美子さん。お母さん役では余貴美子さんと2大巨頭ですが、今作では祐一(妻夫木君)の母親として余貴美子さんが出ていました。余さんは育児放棄の母親役ですが、どちらも上手い。
松尾スズキさん。胡散臭い役は上手いなあ。


と、役者さんはみんな素晴らしいです。しかし、肝心のお話がイマイチ乗り切れませんでした。
私は原作を読んでいないので、原作を読んでいると理解できる部分もあるのでしょうが、映画を見た限りでは、いくつか納得できない部分がありました。


まず、祐一(妻夫木聡)が佳乃(満島ひかり)を殺す場面。
確かに佳乃はひどいです。祐一がカッとなってしまうのも分かります。しかし、殺すかな。ここではっきりと自らの意思で殺してしまうと、その後の物語がずっと「とはいえ、お前殺人犯じゃん」と思ってしまうので、祐一に肩入れできません。
祐一が佳乃の首を絞めて、それから逃げた佳乃がはずみでガードレールを越えてしまい、転落死するというのはどうでしょうか。殺意はあったし、祐一が首絞めなんかするからガードレールを越える「事故」が起こってしまうのですが、最終的な原因は「事故」であれば、まだ祐一に同情できると思うのですが。


次に、祐一と光代(深津絵里)の関係。そんなにすぐに恋に落ちるかな。しかも最初はヤリ棄てのような関係だったのに。
最初のホテルの場面で、いくら光代もその気だったとはいえ、シャワーも浴びずに前戯もせずにゴムも付けずにやるかな。初対面ですよ。光代もヤリマンではないし。
その後、あんなに深い絆というか同志のような関係になるのが早すぎると思うのですが。強引に誘われたのが嬉しかったり、殺人犯という非日常なシチュエーションが二人を燃え上がらせたのでしょうか。吊橋理論のような。
それでも早すぎない?原作だともうちょっと深く詳しくじっくりと描いていたのかな。
その後逃亡する二人ですが、その間は二人のことしか頭にないのかな。自分の家族のこととか考えないのかな。目の前のセックスで頭いっぱいなのかな。特にこの作品は被害者・加害者の肉親の描写が多いので、余計にそこが抜けているのが不思議です。


佳男(江本明)はとても良かったのですが、佳男が復讐すべきは増尾岡田将生)ではなく、祐一でしょ。犯人が捕まらない時点ではそこしか憎しみを向ける相手がいないのでしょうがないですが、真の相手が分かった後でもそっちばかりに憎悪を向けると、「そっちじゃないよ」と思ってしまいます。
そして、祐一が逮捕された後で対面する場面などがあるかと思ったらそれもなし。お父さんの怒りは着地・鎮火できたのでしょうか?決着していないと思うのですが。
房江(樹木希林)の場面で松尾スズキ悪徳商法のエピソードがあるのですが、これ、いる?本筋に何も関係ないですよ。


といろいろ文句つけましたが、一番大きいのは「結局、殺してるじゃん」という部分。これがあるといくら家庭環境や「愛」なんかがあっても同情できない。その人の死に関係はあるけど直接殺してはいない、という「逃げ」「救い」の部分がないと、見ている私は応援できません。
ここさえクリアできていれば、「『悪人』と一括りにされても、いろいろ事情があるんだよ。悪いのはそいつだけじゃないし、犯人以外は善人というわけじゃないんだよ」という気持ちで見れるのになあ。


というわけで、物語はいろいろ不満なところはありましたが、役者は素晴らしい。それだけで見ていられます。灯台以降は停滞するけど。



映画 『悪人』 予告編 プロモ映像 - YouTube

悪人 (特典DVD付2枚組) [Blu-ray]

悪人 (特典DVD付2枚組) [Blu-ray]

悪人 スタンダード・エディション [DVD]

悪人 スタンダード・エディション [DVD]

悪人 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]

悪人 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]