本当の童貞は読んではいけない
MJとは、誰の略称でしょう。一般的にはマイケル・ジャクソンですが、サブカル村ではみうらじゅんのことを指します。みうらじゅんさんはマンガ、小説、エッセイ、コラム、いやげもの、仏像、シンガーソングライター、エロ写真スクラップ収集家など様々な趣味や肩書きを持つ人ですが、そんな彼が書いた学術書、道徳の教科書です。
もう、冒頭からすばらしい。いきなり引用します。
本書では中高生を対象に、「正しい保健体育」を学んでいただくわけですが、まず授業に入る前に、ここでは「義務教育」と「性教育」の関係について理解しておきましょう。
もともと男子は、金玉に支配されるようにできています。
金玉というのが本体で、その着ぐるみの中に全部入っているのが、人間の男なのです。
いつの間にか進化した人間は、その「金玉の着ぐるみ」からはみ出した部分が大きくなってしまいました。しかし、はみ出したとはいえ、その大本にあるのが金玉であることには変わりありません。
ですので、そのはみ出した部分を「義務教育」で埋めて、金玉に支配されないようにしているのです。義務教育とは「支配からの卒業」なのです。
義務教育をきちんと受けるということ、それは金玉人間にならないためにどれだけ無駄なことを知っているか、という意味でもあります。本当は「やりてーぜ」「入れてーぜ」の二大テーゼがあれば人間の男は事足りるはずですが、そういう「本当のこと」だけを言わないために、義務教育を受けるものなのです。
きりがないのでこの辺で止めておきますが、もう真理だらけ。そう、男は金玉の着ぐるみなのです。そしてその金玉に支配されないために義務教育があるのです。正しい。全ての段落に真理が散りばめられています。
その次のページも「『恥ずかしい』というセンス」という小見出しで、また真理を開陳しています。
なぜわき毛と同じものなのにわざわざ「陰毛」と呼ぶか、「陰唇」「陰核」という呼称があるか、分かるでしょうか。それは「陰」という字が「恥ずかしい」からなのです。そのものずばり「恥骨」「恥垢」と呼ぶのも、そこは恥ずかしいんだぞということを教えているわけです。
(略)
「ずるむけ」「ちんぽ」といった言葉を本当はそのまま使ってもいいはずなのに、わざわざ「亀頭部」「海綿体」といった言い方をするのも、「しっくりこないように」するためです。どうしてそういう言葉が生まれたかというと、そういう言葉はまず、医学の分野で使われていることを考えると分かります。つまり「医者が勃たないため」なのです。
女性の患者を相手にする婦人科の医者だってムラムラすることもあります。「医者はそんなこと思わない」というのは嘘です。そのとき「はい、おまんこ開いて~」と言うと勃ってしまうので、わざと「子宮内に」という硬い言い方をしたり、ドイツ語を使ったりして、気持ちを散らしているわけです。
(略)
ちなみに「恥ずかしいからこそいい」とそれを逆手にとって快感にしている人たちのことを「変態」と呼びます。
ここでも真理が書かれていますね。
その後もオナニー、包茎、スカイフィッシュ、SとM、女性とは、壮年期、高齢化社会などについてありがたいお話が満載です。これは男子は全員読むべき「義務教育読本」なのです。
本書では言及されていませんが、みうらじゅんさんは「童貞力」についても多くの言説を残しています。「童貞力」とは、童貞期間の方が想像力が磨かれるので、ある程度は童貞でいた方がいいぞ、という意味です。
しかし、これはあくまで「非童貞」からの言葉なんです。「あの頃童貞だったから今の自分がある」という具合に。この「童貞力」に騙されて、童貞諸君が「これでいいのだ」になってしまうのは非常に危険です。「童貞力」という言葉は童貞諸君への免罪符ではないのだよ。
個人的には、高校までに童貞を卒業した奴はもう「やりちん」側の人間で、社会人になってもまだ童貞なのはその後のいばらの道を予想させます。ということで、童貞卒業は大学時代に済ませておくことをお勧めします。
本書は、学校では教えてくれない真理がたくさん書かれています。読むと「なるほど」「そうだよな」「その通り」の連続なのに、読み終わると全て忘れているという効果もあります。いいのか悪いのか。
真理しか書いていないのに、他人に勧めづらいという不思議な本でもあります。
ちなみに、こういうサブカル本はそれを客観的に笑いながら読めればいいのですが、そこにどっぷりはまってしまうと現実社会に戻って来れなくなる危険性がありますので、ある程度の距離感を保てる年齢、もしくは社会的一般性(コミュニケーション能力があるなど)を得てから読むようにしましょう。
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