やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

剥いて剥いて剥いて、残ったのは「ポップ」だった~スガシカオ「THE LAST」

「変な曲だけどポップ」という意味


スガシカオの6年ぶりのアルバム「THE LAST」が発売になりました。何年も前から「50歳までに自分の集大成となるアルバムを作る」と宣言していたスガさんがようやく出してくれたアルバム。これが、まさに有言実行となるアルバムでした!


今回のアルバムが発売される前、プロデューサーが小林武史だと知りました。なるほど、スガさんのドロッとしたファンク・ソウルを小林さんのポップ手腕によって聴きやすいように装飾して「変な曲だけどポップ」に仕上げるのだな、と思っていました。
しかし発売前のインタビューを読むと

(小林さんに)「J-POPはやるな」と言われましたね。
「青春の甘酸っぱい感じとか、誰かの背中を押すとか、そういう曲は全部いらないから」と。

スガシカオ「THE LAST」特集 (3/6) - 音楽ナタリー Power Push
そうなのか!ポップスの達人からJ-POPはやるなとのお達し。
でも、そうだとすると、ちょっと不安。尖り過ぎてポップでないのは、コアなファンは嬉しいかもしれませんが、メジャーに復帰して集大成として世に出すのはちょっと違うんじゃないかと。
そう思っていました。


しかし、聴いてみたら、これがいい!いいアルバムでした!
歌詞もサウンドも、確かにJ-POPじゃない。尖った言葉と、へんてこりんなアレンジ。

合ってないものの上で合ってない歌を歌うのがいいじゃないかっていう発想で「あなたひとりだけ幸せになることは許されないのよ」を作ったんですよ。
あの曲って、テンポがBPM98だとしたらベースはBPM140くらいなんですね。そもそもリズムが合ってないんです。だから、聴いていても、ずーっとズレている。だけど、何百小節かに一回だけ、合ってないんだけどめちゃくちゃ格好いいトラックが出るんですよ。それをひたすら待つんです。何百小節ずーっと聴いて「ここだ!」っていうのをバーンと切り取って、そこをベーシックに曲を作っていく。そういうやり方を発見した。でもそのためには他の楽器も全部ズラさないといけない。というのも、何かが合っていると、無意識にそこに合わせちゃうので。歌もズレてなきゃだめだし、ギターもズレてなきゃダメだし、音程もズレてなきゃダメだし…っていう風に作っていくと、最終的に気持ちいいものになるんですよ。それがアルバムの随所にある。

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君は何を言っているんだ。
でも、確かにこのへんてこりんなアレンジがグルーヴを生み出しているのです。


そして私が一番驚いたのは、これだけ「尖った、変な、J-POPではない」アルバムなのに、ポップなのです。芸能界のヒットチャートとは全く別物ですが、ポップスになっているのです。
これは、「メロディがポップだから」です。
あれだけ「J-POPでないもの」を生み出そうとして、結果出てきたメロディはポップ。これがスガシカオの芯なのです。上に書いた「変な曲だけどポップ」は、言葉は同じですが、意味は聴く前と真逆です。変なアレンジ・音像にしても、結果ポップが出てくる。スガシカオを剥いて剥いて剥いたその先には、ポップがあったのです。
小林さんはここまで分かっていてスガさんを千尋の谷に突き落としたのでしょうか。技術としてのポップやヒット曲を奪われたスガさんが剥き出しのポップを携えてこの新曲の数々を作ってくることを。
コバタケ、すげえ。


ただ、最初に聴いたときに少し引っかかったのは、「言葉が強すぎる」こと。スガさんの武器はもちろん歌詞ですが、その比重が大きすぎるのではないか、と思ったのです。
歌詞はリズム・メロディ・ハーモニー(コード)と並んで音楽を構成する重要な要素の一つです。あとは歌唱力やアレンジなど。
でも、歌詞が強すぎて、リズムやメロディの邪魔になっている部分があるように聞こえました。そこはその母音・子音だとリズムの邪魔だな、とかメロディがスムーズに流れないな、とか。
しかし、何度も聴いていたら気にならなくなりました。単なる慣れなのか。


これは本稿の主旨とは外れますが、私はスガさんのアルバムは1stからずっと買って聴いていますが、「PARADE」がとても良く、その後の「FUNKAHOLiC」「FUNKASTiC」にはあまりはまらなかったクチです。そしたら、今回のアルバムのインタビューを読むと同じことを言っている。

それまでは自分のルーツのマニアックな音楽とポップなものをどう融合させるかを頑張ってやってきたんですけど、『PARADE』が結構売れたので、一回そこで区切っちゃったんですよね。(略)そこからファンクをルーツにしたものを作ってみようということで『FUNKAHOLiC』と『FUNKASTiC』を作ったりしたんですけど、その時には道を完全に見失っていたんです。

ファンクとポップの融合は「PARADE」で一旦完成したと。その後進むべき道が見つからず、とりあえずファンクをテーマに出してみたけど、本人としてもしっくりこなかったと。
本人と同じ印象を持っていたことにちょっと誇らしい気持ちになりました。


さあ、最高傑作ですよ。スガシカオファンならもちろん大満足の一枚。それ以外の人も必ず引っかかるフックのあるアルバムです。しかしそのフック(釣り針)はとても鋭く、毒も塗ってある。はまる人ははまりますが、針と毒のせいで受け付けない人もいると思います。でも、「アストライド」「真夜中の虹」など、間口の広い曲もあるので、何とかこのアルバムの中に入ってきてほしい。入ってしまえば針と毒の中にポップがあるから。



スガ シカオ - 「真夜中の虹」 MUSIC VIDEO

スガ シカオ - アストライド (Short ver.)

THE LAST

THE LAST

ちなみに初回限定盤は「THE BEST」という、このアルバムまでに作ったけどアルバムには入らなかった曲を集めたアルバムが付いてきます。こちらもいいのでぜひ限定盤を買ってください!


スガさんエントリ↓
ese.hatenablog.com
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