やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

名コピーライター、あいみょん

昨年、『君はロックを聴かない』であいみょんを知り、アルバム『青春のエキサイトメント』を聴いたらとてもよく、その後インディーズ時代のアルバム2枚も聴いたら、こちらもとてもいい。この子は本物だ。安心し、確信しました。
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このエントリで「彼女は歌詞が評価されるがメロディメーカーとして素晴らしい」と書きましたが、やはり歌詞も素晴らしいのです。そこで、今回は彼女の歌詞に焦点を当てて書きます。『青春のエキサイトメント』の曲は前回のエントリを読んでください。

可愛くなる努力は医者に頼っちゃったけど
『○○ちゃん』

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これは彼氏が欲しい女の子が主人公の曲ですが、サビのこのフレーズの破壊力!これだけで自分で努力しないだらしない女の子像が思い浮かびます。
しかも「頼っちゃったけど」という言い方の軽さで余計何も考えていない女の子像が強化されます。
具体的なことを言っていないけど、想像させる歌詞。これが「表現」です。

ゆさゆさうとうと走っている
まだあれから1時間とたってない
狭くて身動きもとれないから
目を閉じて明日を夢にみたんだ
『夜行バス』

地元兵庫から東京まで上京するときの曲です。この曲は全体で「東京に行くこと、親元から離れること、夢のために頑張ること」の不安と決意が描かれているので一部を抜き出すのは難しい。全体で味わってください。
抜き出したこの部分は2番のAメロです。1番で片道8時間のバスに乗っていることが描かれ、2番ではその少し後の状況です。長旅だから眠りたいけどバスは狭いし未来は不安だしなかなか眠れない。物理的に狭いということもあるでしょうが、今の精神的な状況も表しているのではないか。で、不安を打ち消すために目を閉じて未来を夢見る。

現実逃避を繰り返す日々は
思えば楽だった 最高の友達でした

強くはなりたい
でも弱くもありたい
『19歳になりたくない』

これは18歳最後の日の心境を歌った曲です。大人になるということは現実を生きるということ。学生時代のはしゃいでいた毎日は楽しかったけどそれはやはり現実逃避で、これからは自分で嫌な現実から目をそらさず対峙していかなければならない。
そして後半の「強くはありたい/でも弱くもありたい」という歌詞。現実と闘うために強くなりたいけど、今までの感性・感情のままの弱さも持っていたい。この未来と現在の対比、上手い!

ドンキにたかる若者集団
『泥だんごの天才いたよね』

この曲は高校生特有の「うちらイケてる!」という集団最強心理を上手く描いているのですが、その中でもこのフレーズが最高。
「たかる」です。凡人だったら「集まる」とか「たむろする」という書き方をしますが、「たかる」ですよ。夜のライトに集まる蛾や羽アリ扱いですよ。これ、「正解!」じゃないですか。上手いなー。

揺れるたびのオトナになり
揺れるたびにオンナになる
『おっぱい』

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そもそもタイトルで勝ち!なのですが、歌詞もいい。エロスにならないおっぱいの話。この「揺れるたびに」は文字通り「おっぱいが揺れる」のと「少女と大人の女性の間で揺れる」の両方を表していますよね。

私に彼氏ができない理由は
極度の人見知りと
好きな人に気づかない鈍感さかな?
そうかな
『私に彼氏ができない理由』

これは自分に彼氏ができない理由をあれこれ述べている曲なのですが、ラストの「そうかな」で「実際はそんな理由じゃなくて、お前が自ら行動しないからだよ!」と突きつけるのです。この一言で逃げと甘えを糾弾!

浮気はしたさ
数えきれないほどお前を泣かせた
痛かったろう 心傷ついて
『ほろ酔い』

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これはダメ男な元カレが飲み屋でクダ巻いている曲です。そもそもへべれけなのに「ほろ酔い」なんて言っている時点でお前はダメだ!
で、ここの部分ですが、この曲は男の一人称独白の曲なので、「心傷ついて」って変だなと最初思いました。だって傷ついたのは彼女の方なんだから、「傷つけて」だろうと。
しかし私は気づいてしまいました。こいつは、自分が彼女を傷つけたという意識がないのです。自分が「傷つけた」のではなく、彼女が勝手に「傷ついた」と思っているのです。こいつは本物のクソ野郎だ!こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーッ!
これ、あいみょんは意識的なのでしょうか。それだったら本当にすごい。この言い回しひとつでこの男のクズっぷりが10倍になります。

あいつの全てを知り尽くし
尻に敷いてしまいたいわ
良い子のふりしたマトリョーシカ
ふたつめの顔見せましょうか
マトリョーシカ

ここでは韻踏みの話を。「知り尽くし」「尻に敷いてしまいたいわ」「マトリョーシカ」で意識的に「し」を多用しています。厳密にいえば韻踏みではないですが、同じ音を多用することで歌詞とメロディとリズムを強調する効果があります。

いってきますのキス
おかえりなさいのハグ
おやすみなさいのキス
まだ眠たくないのセックス
『ふたりの世界』

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この曲、オープニングではラブラブカップルのありがちな日常を描いていたのに、4行目でいきなりセックス!こういうぶっこみがリスナーの耳を惹きつけるのです。コピーライターとして優秀。
実際カップルの日常にはセックスはつきものですが、普通のポップスの歌詞では描かれないですよね。そこを書くあいみょんは非凡だ。

タイムカードはこんなに真っ黒に埋まってんのに
今日もポケットの中は紙くず銅メダル
『風のささやき』

無力感と焦燥にかられる若い男の子を描いた曲。ピックアップしたこの部分は、毎日アルバイトで頑張っているのにお給料はそんなにもらえない悲哀を表しています。本来ならあるべきお札と硬貨ではなく、紙くずとメダル(しかも金ではなく銅!)しか自分にはないのだ。メダルだからゲーセンかパチスロかな、と思ったのですが、銅メダルとなると違うのかな?ここの解釈は分からないです。


『青春のエキサイトメント』に収録してある他の曲については前回のエントリ読んでください。
いくつか紹介しましたが、どうですか、すごいでしょ。私の勝手な解釈なので本人の思いは違うのかもしれませんが、受け取り方は自由だ。
そして、前回のエントリから何度も書きますが、彼女は「歌詞の人」ではありません。名曲を作るメロディメーカーでもあります。今年ブレイクしちゃうから早めに知っておいて「俺、昔から目をつけていたんだよねー」と自慢しちゃいましょう。


tamago

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憎まれっ子世に憚る

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