やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『リメンバー・ミー』 感想

3回ひねり、見事着地


ピクサー最新作『リメンバー・ミー』を見てきました。公式サイト↓
www.disney.co.jp
私はアニメに疎いので、ディズニーとピクサーの歴史も分からないしどの作品がどっちなのかも分かりません。『インサイド・ヘッド』はピクサーで『ズートピア』はディズニーなのか。難しい。


面白かったです。
(以下、ネタバレあります)
予告編だと「自分のご先祖様が音楽のために家族を捨てたため、主人公ミゲルの家では音楽が禁止されている。しかしあるきっかけで死者の国に迷い込んだミゲルは元の世界に戻るために奮闘する」という風に見えます。確かにその通りなのですが、見ていくと「そうだけどそうじゃない」展開になっていくのです。


まず、顔写真がちぎられたミゲルの祖先は国の大スターであるエルネスト・デラクルスだということで物語は進み、途中まで彼に会うために行動するのが物語のエンジンになっています。ようやくデラクルスに出会い、彼から夢に向かって進むこと、チャンスは自分で掴み取ることの大切さを教えられます。うむ、その通り。夢は自分で掴むものだ。


しかし、実は彼の大ヒット曲は相棒ヘクターの曲であり、彼がツアーを辞めたいというのでデラクルスはヘクターを毒殺したのです。なんてこった。チャンスを掴み取るってそういうことなのか!
そして、ミゲルのご先祖様はデラクルスではなくヘクターだったのです!そのヘクターがツアーを辞めたがったのは家族に会いたいから。そう、ご先祖様は音楽のために家族を捨てたのではなかったのです。またひねってきた!
リメンバー・ミー』という曲名も、家族を想う曲であり、忘れられない限りその人は死なないというダブルミーニングにもなっているのです。
予告編で何となく見えていたストーリーは、全部フリだったのです。上手く騙された!


「死者の日」という日本のお盆のようなお祭りが舞台で、それがいろいろ上手く機能しています。まず、オレンジを基調としたカラフルなビジュアル、そして翌日の日の出までに戻らないといけないというタイムリミット設定、亡くなった人のことを忘れてしまうと死者の国でも死んでしまう(「第2の死」と表現していました)危機感の設定。


ただ、いくら過去に何かがあったとしても、ひ孫のその先にまでルールを押し付けるのはどうよ、と思ってしまいました。毒親かよ。まあ、これもフリだろうとは思っていましたが、それにしても厳しい。ギターを壊すなんてやりすぎだぜおばあちゃん。
で、ラストはひいおばあさんのママ・ココに『リメンバー・ミー』を聞かせてママ・ココがヘクターのことを思い出して大団円。なのですが、あれだけ執拗に音楽に反対していたエレナおばあちゃんはこのときは止めないのかよ。そしてあっさり音楽を認める。うーむ、転向が軽い。


脚本はやっぱり上手い。ミゲル一家がこうなった状況設定をオープニングで簡単にまとめて、物語が始まるとある出来事が次の行動理由につながっていく。
音楽は禁止されているけど音楽をしたいミゲル。今日は「死者の日」で音楽コンテストがあることを知り、デラクルスの「チャンスは掴み取れ」の発言に意を決して音楽コンテストに出ようとするミゲル。しかし家族に見つかりそうになり隠れた拍子に写真立てを壊してしまう。家族の強硬な反対に遭いギターを壊され、コンテストに出られない。背に腹は代えられないミゲルはデラクルスの記念館からギターを拝借しようとする。そこで死者の国へ。
死者の国でミゲルの先祖がトラブっている原因はミゲルが写真立てを壊してしまったから。そこで元の世界に戻してもらおうとするが「音楽をしない」という条件をつけられたため、デラクルスに頼むことにして、彼に会いに行く。
上手いなー。犬(ダンテ)はどうして生きているのに死者の国に来れたのか。これも前半で動物の精霊の説明が自然に組み込まれており、後半にダンテも精霊だったのか!と解決します。さらにラストでは死者の国で大活躍した大きなヒョウの精霊がダンテと一緒にいる猫として登場。これも大きな影を見せるだけで分からせる上手い演出。


死者の国のカラフルな色使い、ヒョウの精霊の蛍光色のビジュアル、ガイコツ独特の動きなど視覚的な楽しさもたくさんあり、子供も飽きずに楽しめたと思います。
あと、これを見た子供たちは「おばあちゃん!」と思うはずで、一緒に見にきた親も「おばあちゃん!」と思うはず。そしたら見終わった後、その家族の話になると思うのです。どの人にも祖先はいるので、誰にも当てはまる究極のあるあるです。親だとまだ距離が近くていろいろな葛藤や愛憎がある場合もありますが、おばあちゃんやひいおばあちゃんまでいくとその辺の意識は薄くなり、純粋に懐かしがることができそう。
でも、「家族って素晴らしい」「家族は大事」という「正しい主張」に乗れない人もいるだろうな。


本編と直接関係ないところで考えたのは、「チャンスは自分で掴むとは」「売れるとは」ということ。
デラクルスはヘクターを毒殺したのでさすがにそれはやりすぎですが、チャンスは自分で掴むのだ、という言葉自体は間違っていない。そして、ヘクターは素晴らしい作曲家でしたが、彼ではその名曲たちを世の中に広げることはできなかったでしょう。デラクルスだからできたこと。
これは、ヘクターの歌が上手くないのもありますが、やはりデラクルスのスター性のおかげ。売れるってそういうこと。
ちなみに、このヘクターの「歌の上手くなさ」まで考えて藤木直人がキャスティングされたのでしょうか?もしそうなら素晴らしい人選だし失礼な人選だ。作品だけ考えたらヘクターは歌も上手い方がデラクルスの悪さに拍車がかかるので、やっぱり上手い人をキャスティングした方がよかったのかも?


面白かったです。子供も大人も(レイヤーの違いはあれど)面白いと思わせる作品を作り続けるディズニー・ピクサーはすげえなー。


リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック

リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック