やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

今年は面白かった『新春テレビ放談2019』

毎年楽しみにしている『新春テレビ放談』。例年はテリー伊藤とか去年のカンニング竹山のような「旧来のテレビ側の人間(=現状を分かっていない人)」が出ていてとてもノイズだったのですが、今回は皆さん素晴らしかったです。
そもそもこの番組はテレビ好きが見るわけで、その人たち(=自称視聴者代表)が思っていることを話してほしいのに、今の視聴者のことや現在のテレビ業界のことを分かっていない人が語ると「お前こそがオワコンなんだから引っ込めよ」と思ってしまうのです。
今回もカンニング竹山さんが出ていて、去年のような「業界忖度野郎」だったら嫌だなと思っていたのですが、とてもよかった。そしてSHOWROOMの前田さんは現在のテレビのことを知らないのではと思っていたのですが、芯を食う発言連発でとてもよかったです。司会の千原ジュニアも上辺の切り返しだけではなく、本質を突いた発言をしてくれていました。
では、いくつか書き起こします。


<今回の出演者>
●司会:千原ジュニア杉浦友紀NHKアナウンサー)
●ゲスト:カンニング竹山、貴島彩理(テレビ朝日)、佐久間宣行(テレビ東京)、ヒャダイン、前田裕二(SHOWROOM)、YOU
●ナレーション:くっきー


テレビドラマ編
私はテレビドラマを全く見ないので、あまりついて行けませんでした。それでも『おっさんずラブ』の熱は私のTwitterにも届いてきたし、視聴率と違う評価軸が必要だなというのには賛同します。
でも、視聴者のランキングを元に語るのではなく、好きなドラマや話題になったドラマについて語ってもらって、その指標としてランキング(好きな作品と視聴率と)を使うくらいでよいのでは。ランキングにトークが引っ張られすぎ。


おっさんずラブ』現象について。

(YOU)視聴率って、何なんすか。
(竹山)結局数字じゃないんじゃないかっていう。
(ヒャダ)ネットでの話題のなり方がすごかったですよ。
(前田)面白かったのが、二次創作っていうんですかね。みんながその絵を描いたりとかして拡散したのがすごいネットっぽいなと思ったんですけど。
(杉浦)どうしてこういった二次創作で盛り上がるんですかね。
(前田)単なるいち視聴者である状態と、半分運営側に回っている気持ちの視聴者では、そのドラマに関して話す分量というか起こすアクションの量が違うんだろうなと。ドラマが好きすぎて半分制作者の気分になっているというか。
(ジュニア)『おっさんずラブ』ラブすごいねんな。
(前田)何か、スナックっぽいなって思ったんですよ。例えば、ママが酔いつぶれたらカウンターの中に入ってお酒出す側に回ると、そのお客さんはずーっとそのスナックを愛してくれるじゃないですか。だから、単なるいち視聴者で終えちゃうとそのドラマが終わったらスーっと去っていっちゃうんですけど、運営側に一回連れてきてしまうとかなり長期間愛してくれるっていう構造なんだろうなと思います。
(YOU)分かりやすい。モテるわ。

面白い作品を作れば視聴者も熱を持って応援してくれる。
インスタグラムで番組の公式アカのフォロワー数を裏アカが抜いてしまったという話。

(ジュニア)画面からどうはみ出るかっていうことなんでしょうね。
(前田)ドラマを見ている時間以外もドラマのことを考えるフックというか仕掛けとしてはすごいなと思って。
(ジュニア)そういうことか。だから例えば「月9」って月曜日9時っていうとこのいかに火曜日水曜日木曜日に何やってるかっていう。
(ヒャダ)はみ出していくかっていうことですよね。

SNSの活用は広がりやファン作りにはマストですが、諸刃の剣でもあると。ヒャダインが『半分、青い。』の北川悦吏子さんの例を挙げて説明。


ここで「視聴率ってそこまで大事なのか?」というおなじみの流れ。

(佐久間)数字はほっといていいかというとそうでもないっていうか。テレビを見てる層って結構年齢が高い人たちが多いから、その人たちを置いていったビジネスはできないっていう、ここが難しいとこなんですよね。
(ジュニア)でもちょっと年齢層高めの人が見てはるんだからこういう感じでしょ?ってやった『黄昏流星群』が全然やったりね。やっぱり置きにいくとバレてしまうというか、ちゃんとフルスイングしてる方が残るという。


バラエティ編
『ゴッドタン』にはなぜクレームが来ないのか。

(佐久間)これがね、なぜか来ないんですよ。ただ、「下品」と「精神的な下品」はちょっと違うじゃないですか。誰かを傷つける下品さとバカがバカやっている下品さは違うから。そこの部分は特化しても、誰かを傷つける下品さにはいかないようにしてて。ネットはここすごく過敏だなと思って。

これもさっき話の出た「運営側」に通じるものがあると思っています。長年のファンだからある一言だけで判断しないで文脈を読み取る。リテラシー、大事。



『世界の果てまでイッテQ』問題について

(佐久間)番組の出自が「海外の文化を紹介する」っていう番組だから、確かにない祭りだった場合ははまずいと思うんですよね。ただ、例えば昔『電波少年』で有吉さんがちょっと飛行機に乗ってたとか、あの頃って危険地域に飛行機乗ってたら言ってみたらやらせみたいなとこだけど、そこはみんな「でも企画面白いからいいじゃない」っていう空気があったけど、その時代よりさらにちょっと厳しくなったなっていう空気は感じます。
(ジュニア)すごいですよね、この皆さんの正義感
(ヒャダ)でも今回に関してネットの感想を見てたら結構みんな許していて。
(前田)視聴者が本質的に求めているものが何かっていうことが今回の件で僕分かった気がしてて。いつも『イッテQ』がなぜ人気なのかって話のときに、やっぱり震災以降テレビがウソついてるって思ってるからリアリティのある番組が人気なんじゃないですかねって言ってたんですけど、たぶん視聴者が『イッテQ』に求めてたのってリアリティじゃなかったんだなと。どちらかというと「頑張っている人を応援する」のが本質なのかもしれないって思いました。もちろんリアルの方がいいんですけど、それが一番の優先順位じゃなかった。


テレビとは。

(竹山)今の世代になってくると、もともと「間違いを言わないもの」っていうスタートで見てるから、そこで小さな間違いが起こっただけでも、もう「とんでもないこと言ってる」みたいな感覚が強いと思うんですよね。

だから別の場所(NetflixとかAmazonとか)に行かざるを得ない場合もある。だからといってテレビがもう一度「ウソも本当もある夢の箱」には戻らない。

(佐久間)そこのリテラシーが今の視聴者にはあんまりないんですよね。全部「本当かウソか」で見ちゃう。


テレビへの不満
リアルタイムで見なきゃいけないのが不満、番組の都合に合わせなきゃいけないのが不満。

(杉浦)テレビ局に入る新人の子でもテレビ持ってない人いますよ、びっくりします。
(ジュニア)テレビ出てる人間でもいますからね。まあ、すぐ消えていきますけど。

そりゃそうだ。サッカー選手でボール持ってない人がいるか。野球選手でバット持ってない人がいるか。自分の仕事に愛と情熱がない人が続くわけがない。

(佐久間)そのアンケートの不満を総合すると、テレビはつまんないんじゃなくて不便ってことですよね。ってことは、これ、何とかしないといけないなって話ですよね。
(ヒャダ)インフラの問題ですよね。
(前田)YouTubeとかの体験に慣れすぎているから、「何で最初から再生できないの?」ってそっち側(ネット側・ユーザー側)の常識で語るようになってしまってるっていうのがあると思っているから、中身を作る力をこっちのハードに持ってくれば、もう1回爆発が起こせると思っています。


見逃し配信(TVerなど)について。

(佐久間)ドラマにおいては見逃し配信がキャッチアップ、追いつくことにプラスになっていることはもうたぶん立証されていて。ただ、バラエティの人は未だに視聴率を下げるもんだって思っている人もいるから、バラエティはたぶん全部がTVerには出ていないんじゃないですか。そこはたぶんまだ分かれてると思いますね、主義が。
でも、どう考えても、じき全部見逃し配信に出して、かつインターネットで同時に放送、要はテレビで見るものと同じものがTVerでも同時に見れるみたいなことが起きないと、不便なまま離れる若い人が増えるだけな気がしますね。
(ジュニア)あと、地方でやってるのがTVerで見れたら、ゆうたら全国ネットじゃないですか。そういう意味ではね、ものすごいいいですよね。
(佐久間)そう思います。今年『相席食堂』がすごい面白いって話を聞くじゃないですか。でもそれ、全部TVerに出てるからなんですよ。関西ローカルなのにあれだけ話題になるってことは、見逃し配信の可能性は全然あるなと思いますけどね。


似たような番組が多いという意見について。

(YOU)局同士でミーティングせいや!って思うんですけど。医者医者医者、クイズクイズクイズとか。分かんないけど、何かないですかね。
(貴島)若いプロデューサー同士とかで話してると、あんまり局の垣根とか今言ってる場合じゃないんじゃないか、みたいな話はよくあって。局を超えたコラボってのも結構流行ってて、例えば『おっさんずラブ』も『アンナチュラル』が『おっさんずラブ』のことをツイートしてくれたりとか、前にやっていた作品で別の番組のプロデューサーと、あんまり上に言わずこっそりコラボのセリフを作ったり、コラボの美術品(小道具?)を出して、それも売らずにネットで気づいた人だけ気づくみたいなことをやったり。
(ジュニア)こっちの日テレの主人公が着てたTシャツをテレ朝で着てたりとかね。
(竹山)それは視聴者のことを一番考えてますよね。だって視聴者がそういう同じTシャツ見つけたときの喜びって、テレビ見ててものすごい楽しいことだから。
(ジュニア)ねえ。「これ誰々にもろてん」って一言セリフあったらね、「あいつとあいつ仲ええねや!」ってなるもんね。
(竹山)一番視聴者のことを考えた番組作りですよね。
(ヒャダ)夢の箱だ。


平成のテレビニュース。大スターの番組が終了。

(ジュニア)この間若手としゃべってて、「どれでも好きな番組レギュラーにしてもらえるっつったら何がええ?」って言ったら「ええと…、何すかね」って、全然出てこないんですよ。

動画配信サービスはどこまで伸びるのかという話題で、少しずれるけど東京03の話。

(佐久間)東京03が、ものすごい10代のファンが増えたんですって。それはYouTubeチャンネルを開設して、2年くらい経ったら昔のコントを10代が見てて、テレビそんなに出てないのに10代のファンが異常にいて、ライブの動員が2万人を超えたって言ってました。

褒められているのになぜかけなされている感もある。


ネット番組とYouTuberのチャンネルの違い。

(佐久間)今はやっぱり過渡期で、テレビバラエティの文法で作ってるネット番組がたくさんあるんですよ。YouTuberの編集って全然違うじゃないですか。ジャンプカットっていうのを多用して、ワンカメでどんどん音節も切ってく。そういうような編集のテクニックを使った超面白い芸人が出てくるバラエティとかが生まれたりするとまた変わるんだと思うんですよ。今はYouTuberの作るものとテレビの芸人が出るネットバラエティというのは全然乖離してて、テレビの文法の中での番組が、出先がネットってだけになってるので、今は。


5年後のテレビはどうなっているか。
皆さん結構楽観的な予想。私もそう思います。CDがなかなかなくならないのと同じように。ただ、それはチューブで流動食を流し込むような延命策なのかもしれないとも思っています。CDビジネスほどいびつにはならないでしょうが、お金になる番組(舞台やイベントなど)と、老人向けの番組(健康・クイズなど)と、二極化していくのかな。
そこで、前田さんの意見。

(前田)テレビはC向け(コンシューマー=消費者)が苦手だと思ってるんですよ。見てる人がテレビにお金を払うなんてあんまない。そこで、僕は向こう5年はテレビがお客さんとコミュニティを作って、お客さんがテレビに対してお金を払うような5年間になると思っています。

なるほど。具体的な方策は私には思いつきませんが、スポンサーだけではなく、課金やクラウドファンディングのような参加の仕方ができると、番組の作り方も変わる(忖度が少なくなる)よな。


最近はフジテレビの下げ止まりとTVerなどの新しい視聴方法が軌道に乗ってきたこともあり、そして何より出演者のスタンスが私に合っていたのもあり、今回はいい空気の番組でした。来年も話題になる面白い番組が出て、その素晴らしさや新しさを語る番組になってもらいたいです。