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映画『ロケットマン』 感想

ファンタジーセラピー


映画『ロケットマン』を見ました。公式サイト↓
rocketman.jp
ボヘミアン・ラプソディ』のヒットも記憶に新しい中、同じようなミュージックレジェンドの映画です。しかも『ボヘミアン・ラプソディ』の最終監督(←この面倒くさい書き方!)であるデクスター・フレッチャー。比較しちゃうのも仕方ない。
ese.hatenablog.com
ボヘミアン・ラプソディ』の感想はこちら。


私もやはりそういう目で見ちゃいましたが、当たり前ですが「別物」です。
フレディ・マーキュリーは既に亡くなっており、思い出はいつもきれい(©ジュディマリ)なので神格化し放題。バンドメンバーもそれを願ってきれいに漂白された物語になっていました。
それに対し未だに現役で、日々面倒くさい発言をしちゃう小太りおじさん。製作に本人の名前がありますが、漂白は求めておらず、あけすけに本人の「面倒くささ」を描いていました。
※この「面倒くささ」は、本人の癇癪持ちということだけではなく、あの当時にゲイであること(とそれを公表すること)の「生きづらさ」も含みます。
そして、『ボヘミアン・ラプソディ』がラストのライブシーンに向けて映画が進んでいき、そこで映画と音楽がスパークするという特別な化学反応を見せたのと対照に、『ロケットマン』ではエルトン・ジョンは未だ現役なわけで、明確な「終わり」や「ピーク」を設定しづらい。
そこで、この作品では「セラピー」と「ファンタジー」を使って、史実とは別の「映画」を見せてくれました。


映画冒頭、ド派手なステージ衣装に身を包んだエルトンが歩き出す。しかし、出てきたのはステージではなくセラピーの会場。ここ、わざとじゃないだろうけど、『ボヘミアン・ラプソディ』のオープニングと同じですね。『ボヘミアン・ラプソディ』ではライブ・エイドのステージに向かったのと対照的に、ステージから逃げ出したエルトン。たぶんたまたまなので、対照させた意図はないと思っています。
ここからセラピーの独白という体裁で、エルトンの幼少期から語られていきます。
セラピーが進むにつれてステージ衣装から普段着ジャージになっていくのも、いろいろな枷が外れていく表現だと思っています。


この作品はエルトンの音楽を使った映画ですが、名曲が生み出された歴史を描くものではなく、彼の音楽を物語の語り部として使っていました。『マンマ・ミーア!』側の楽曲の使い方!
大勢の人が名曲に合わせて歌って踊るのは、単純に楽しい。糖質や炭水化物が美味しいように、抗えない魅力があります。
登場する曲は、当たり前ですがどれも名曲で、小難しいレコード会社のお偉いさんを納得させるメロディとか『Your Song』の生まれる瞬間とかは、「才能ってすげえ」と唸っちゃうような笑っちゃうような名シーンでした。
いやほんと、運命とか努力とか支えとか協力とかももちろんあるでしょうが、それを突き抜ける圧倒的な「天賦の才」があってこそ、エルトン・ジョンはスーパースターになったんだよな、ということを再認識させるだけでもこの映画は価値があります。身も蓋もないけど、才能って、あるのです。


スターになってからは狂乱の日々。これは『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれていましたが、こちらの方がよりリアル(つまりひどいってこと)。
そこから困ったり解決したりどん底に落ちたり助けてもらったりと一進一退が続きます。それでもステージではド派手なステージ衣装で精一杯エンタテイナーとしてパフォーマンスして、そりゃ高低差ありすぎて耳キーンとなるよなーと思いながら見ていました。
ライブシーンはどれも素晴らしくて、特に前半の「浮いちゃう」描写。演者も見ているお客も浮いちゃうのです。音楽の魅力で浮いちゃうのです。このライブの盛り上がりを象徴的に見せる撮り方、とてもよかったです。これぞ映画的表現。
また、後半のピアノ周辺をカメラがぐるぐる回って様々な衣装で歌うエルトンを見せる撮り方も、ライブツアーの狂乱とハレの日々とエルトン本人の心情(ライブの最中はハイだけど、実際は混沌と混乱の渦中)を上手く表現していました。


ラストで『I'm Still Standing』「俺はまだ立ってるぜ!」となるエンディングもいい。俺はまだ生きてる、俺はまだ現役。MVの完コピはいらないけど。


ミュージカルの形を借り、ファンタジーとして半生を描き(なので、時系列含め事実と違うことも結構あると思います)、後半はセラピーになる。いい方法論だったと思います。
ラストのライブで全部持っていく『ボヘミアン・ラプソディ』と比べたら爆発力はありませんが、映画単体としてみたらこちらの方が上なのでは。


ロケットマン(オリジナル・サウンドトラック)

ロケットマン(オリジナル・サウンドトラック)