やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

『KING OF STAGE ~ライムスターのライブ哲学~』 感想

なぜ東京ドーム満員にならないのか不思議だ


RHYMESTERは2019年に結成30周年を迎え47都道府県ツアーを行い、そのときにぴあアプリでツアーやライブの心得を語る連載がありました。それをまとめ、さらに追加で新規のインタビューや対談を追加したのが本作。
連載中も毎回読んでいましたが、こうやってまとめて読むとなお面白い。同じことを別の角度から語ったり、宇多丸さんが語ったことをDさんはどう思っているかなど、重層的な視点で語っているのがよい。
また、普通ミュージシャンのインタビューは「今回の新作は」という作品にフォーカスしたものがほとんどで、こういうライブについて語っているものは少ないので、そういう意味でもとても面白く、新鮮に読むことができました。
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金言部分に付箋を貼っていったらこんなことになりました。
そう、まさしく「ライブ哲学」を語った本作。金言のいくつかをご紹介します。


宇多丸

とにかくライブは最高なんだよ。自分たちがやったこと、つくったものに対して、リアルタイムで「いい!すごくいい!」って、直接大声で称えてくれるわけだからね。クリエイター稼業でもこんな仕事ほかにないんだよ。

まさにこれ。ミュージシャンって、この世でいちばん羨ましい職業です。

ペースをつかむまではぜんぜん休みがないって思ったけど、そんなのは気の持ちようだから。
日曜日公演のリハーサル前の午前中に行く散策なんかは完全にオフだし。「あ、俺いますごく軽やかな気分だ!完全な自由だ!」みたいな感じ。気持ちをそういう方向に持っていけばいいんだよ。

そうは仰いますが、実際休みないじゃない?気分は自由でも、実際は数ヶ月にわたって完全オフの日なんてないわけで。そうであっても軽やかな気分だ!自由だ!と思える宇多丸さんは偉い。

よくタフだって言われるけど、ツアー前の体力づくりみたいなことはまったくやってない。たぶん、スポーツや筋力とスタミナは関係ないんだよ。

宇多丸さんがすごいなーと思うのは、ここ。まったく運動していないのに、ジムに行きまくっているDさんより明らかにタフ。ライブ中は動きっぱなし、ジャンプは誰よりも高く、MCもずーっとしゃべっている。宇多丸さん、あなたは偉い。

Dのラップに対する声の重ねとかはもう完全に「演奏」だよね。あいだにカッティングを入れるのかユニゾンにするのか、リズムが映えるように、言葉が聞こえやすいように黙っていた方がいいのか、とかさ。

なるほど、確かに「演奏」だ!ボーカルの裏で楽器はどう演奏するとその曲はより映えるのか。

これは誰かが言ってたんだけど、ライムスターのライブは常に観客になにか働きかけているって。逆に言うと、別のアーティストのライブを見ていると、たまに「あー、この時間ムダにしてやがんなー」とか思っちゃうんだよね。

この本の後半でゴスペラーズ村上さんも「バンドで後ろを向いてチューニングしている時間」を例に出していましたね。私もそう思うことはあります。まあ、それでも間を持たせられるカリスマ性のあるアーティストだったら問題ないのですが、みんながみんなそんなレベルではないですからね。

実はうまく話す必要はないんだよ。要所さえ伝わっていればいい。みんな流暢に話すことがうまいしゃべりだと思ってるけど、それは違う。要点が伝わっているのがいいしゃべりなんだよ。よく嬉々として「噛んだ!」とか言うけどさ、そんなもんは言い直せばいいんだから。

これ、ミュージシャンやラッパーではなく、人間として大事なことを教わりました。学校でも会社でも、「しゃべる」と「伝える」は別もの。うまくしゃべるではなく、きちんと伝えることが大事。

(いい絵を見て)「見たままに感じればいい」って言う人もいるけどさ、それはテメエの受信機を過信しすぎていないかって思うんだよ。その絵がどういう意味を持っているかっていうのは受信したあとの解析の話であって、実はぜんぜん違う。

うむ。知識や文脈を知っておくことは、絵に限らずとても大事。

どんなにいい曲を歌っていたって、あいだの時間がクソつまらなかったら、その人のことは好きになれなくない?あと単純に、どんなにいいライブでも、途中で集中力って絶対に途切れるじゃん。

一旦ライムスターのライブにハマると、通常のライブで単に受け身でいい音楽を聴いているだけではちょっと物足りなくなってくるんじゃないかな。

完全にその通りです。MCがつまらない、ただ曲の羅列、ギター持って歌うだけなので左右へのアクションもない。とかだと途中でつまんなくなるんだよなー。ギターを手放せない人でも、半分はギター持たずに歌ってほしいなー。あいみょんとか。

ちゃんと伝えようとしている内容がインタレスティングであるっていうのは表現の根幹だし、そもそもつまらない奴が作ったおもしろい表現って存在するのか?っていう。だいたいラップのベースが「うまいこと言う」文化なんだからさ、うまいこと言わないでどうすんだよって話だよね。

ロックなんかは完全にこの通りとはいきませんが、ことラップについてはその通りですよね。

土日泊まりで月曜朝東京帰り、そのままアトロク、みたいな流れの週とかは、ホントに全く休む間もなく走り続けているわけで、まあ、よくやったよね。

本当にそうですよね。お疲れさまでした。しかもこの間にテレビ番組のレギュラーもあり原稿仕事もありその他レギュラーの仕事単発の仕事あれこれがあり、そしてその間に新曲作っているんでしょ。マジで数ヶ月休みなしでしょ。いくら「超楽しい!」といったって、大変ですよ。お疲れさまでした。

現役バリバリだし、それでいて歴史もある。いつの時代もがんばってきたからね。

よく30年がんばってきたな、と自分に思うこともある。例えば順行セットでやっていくと、やっぱりいまの曲の方が断然やりやすいし、ラップしていて気持ちがいい。いろいろよくできてるしさ。人がどう受け取ろうが、何を言われようが、どう考えてもいまの方が断然いいだろ、って確信できるのはいいことだよね。

うむ。いつの時代も頑張ってきて、そして今が最高なんだから、こんな最高なことはないぜ。

「くるべきところにくるべき曲が、キターーーッ!」って感覚こそが、大きなカタルシスにつながる。
それはライブに限らず、いろいろなエンタテインメントに言えることだと思うよ。いわゆる「お約束」の効果というのも当然あるし。

これ、難しいですよね。ひとつ間違うと「飽き」になるし。特にリピーターは「レアな曲聴きたいなあ」になるから、新規と常連のバランスが難しい。それでも山下達郎さんも「絶対に初めて来たお客さんはいるんだから、期待している曲は必ずやる」と言い、毎回『クリスマスイブ』は演奏してくれるもんな。

絶対に確かなものとして、お金を出して時間を割いてくれた人が目の前にいたわけだから。それはもう数字から得られる抽象的な感覚とは全く違う。

YouTubeの再生回数を競うのももちろんいいんだけど、時代が変わってもこれだけは絶対に揺るがないものだと思うし、少なくとも自分たちはそういうものをちゃんと持っているグループでありたい。泥臭い話かもしれないけど、一生懸命パフォーマンスをやってよろこんでもらう、それはものすごく大きいことだと思ってる。

その通り。ただし、これは「いいライブをするバンド=いいバンド」であって、「ライブがイマイチ=よくないバンド」ということではありません。レコーディング物がとてもいいミュージシャンだっているわけで。そうではなくて、「いいライブをしているのによくないバンド」ってのはあまりいないよね、って話。曲がよいのは前提。「曲はよくないけどライブだけいい」ってことはあり得ないから。だっていくら煽られたってダサい曲だったら盛り上がりようがないもんね。

例えば、これはよく出す例なんだけど、「歌って踊る人」と「歌うだけの人」がいて、歌の技量が同じだったら、「歌うだけの人」の方が偉いとされる傾向がある、みたいな。

確かに、その傾向はありますね。「歌うだけの人」は「ダンスに頼らず」と思われているのかな。「ダンスもしてるのにこの歌唱力!」とは思われないのかな。えーと、三浦大知くんのことを言っています。

立ち位置が100%決まっているタイプのバンドのライブになると、いよいよ絵面が変わらなくて「これ、ステージをずっと見ている必要ある?」って思う時すらあるわけだよ。別に表情もポーズも変わらないしさ。

宇多丸さんがどのバンドをイメージしているかは分かりませんが、私はオアシスとマンウィズを思い起こしました。

人をいちばんロックするのは「芸」なんだよ。

これ、めちゃめちゃ名言ですね。人力で2台のターンテーブルを操作して、2人の上手いラップをカマす。『ライムスターインザハウス』や『Back & Forth』なんかはこういうタイプの曲ですね。「聴けば分かる」強さ。

表現全般に関して俺がいつも言っているのは、「自動販売機じゃダメなんだ」ってことで。お金を入れてボタンを押したら思った通りのものが出てくる、それだけの存在になっては表現者はダメなんだ、というのは常に心掛けていることですね。

その通りであり、難しいこと。表現者だってお客がいなきゃ成り立たないわけですから、お客さんが望んだことをやってあげる、望んだものを出してあげるという側面も必要。それは媚びへつらうことではなくてエンタテインメントとして。ただし、お客さんの思った通りじゃ喜びも驚きもなくなってくる。ケツメイシRYOJIさんが言ってた「予想を裏切り期待に応える」が大事なんだろうな。


Mummy-D

オレらはライブハウスで客を煽りまくるから、コール&レスポンスをやってると本当に酸欠になっちゃうんだ。だから、アンコールを含めて2時間以内に収めないとお客さんもヘナヘナになっちゃう。
やっぱり限られた時間で、あともうちょっと聴きたいぐらいで、終わった後でまた行きたいねってなるライブが俺は好きだからさ。

私は3時間超でも長くやってもらう方が好きなのですが、Dさんのこの考え方も分かります。私が2019年の47都道府県ツアーに5回も行ったのはDさんの策略にまんまとはまっているからかもしれません。「もっと欲しい」で止められるからこそのリピート欲。私はこれを「ヤクルト効果」と呼んでいます。

俺らはやらないけど、ミスした時に曲を途中で止めて「もう1回最初からやろう!」みたいなのはすごく盛り上がるよね。あれがまたその前のMCからやり直したりすると面白いんだよ。

「俺らはやらないけど」なんて言っていますが、この後、まさにこれをやるときがくるとはこのときのDさんはまだ知らないのであった…。
ese.hatenablog.com

オレの体を使ってその曲が存在してるみたいな感じになった時に届きやすくなるのかな。曲に対するエゴがなくなった頃、みんなのものになる感じがある。

自分で書いた歌詞に勇気づけられることなんてぜんぜんあるよ。だからもうオレのものじゃないというか、あの歌詞のあそこはああすれば良かったとか、ちょっとあの部分は恥ずかしいとか、そういうのも一切なくなる。授かりものというか、子供に近いというか。

だから歌詞を直したいと思っても、もう他人のものになっちゃっているから変えられないんだよ。

こういう感覚、羨ましいなー。ミュージシャンならではですよね。

やっぱりバイブスや勢いだけじゃなくてちゃんと聴けるもの、大人が聴けるラップ、耳がいい人たちが聴いていけるラップの仕方を追求しないと、若い時の一瞬のきらめきだけの音楽になっちゃうじゃん。

歌のうまい人や演奏のうまい人のやってる音楽のレベルって、どこを切り取ったって本当に気持ちがいい。もう音楽として、芸として成り立っているでしょ。

うむ。フレッシュさだけでなく、音楽として芸として聴けるものをこれからも作っていってほしいです!

オレも今年で50歳になるわけだけど、同じように歳をとってきたファンの人たちの希望になり始めてるんじゃないかなあ。大人になってもあんなにかっこよくいられるんだなとか、キャッキャ楽しそうだなとか、そう思ってもらえたらうれしいよね。

その通りです!希望であり憧れ。大人が楽しそうでいるのは、若者に対する責任でもある。歳をとることは悪いことじゃない。大人になるって、楽しいんだよ。これはYO-KINGからも学んでいる思想です。私もおっさんの愚痴は封印し、いつでも機嫌よく振る舞うことを意識しています。

(スタッフとの関係について)良い意味でリラックスしていることは大事だけど、どちらかに常に緊張感がないとだらしないチームになっちゃうから。だからどれだけ親しくなっても、スタッフには緊張していてほしい。実際ちゃんとした距離感は保っているつもりだけど、仕事上で大事な距離感というのは確実にあるよね。

どんな職場でもこれは大事です。みんながよそよそしくて会話もないというのはコミュニケーション不足で問題ですが、私語ばかりでなあなあになっている職場も問題。上司はどれだけ優しくていい人であっても友達ではないので、適切な緊張感というのはどこでも大事。


DJ JIN

DJって、基本的に仕込みと段取りでほぼ全てが決まる仕事だと思ってる。
だから自分でやりながら思うんだけど、これってバカじゃできない仕事だなって。

JINさんパートはDJの仕事とはという話が多いので、あまりパンチラインはありません。それでもこうやって語ってくれることで普段なかなか知ることのできないライブDJの仕事内容が分かって興味深い。
そしてこれを読むと、JINさんは慎重で丁寧で律儀で真面目だなーということがよく分かります。ライブでの「JINの部屋」や人間交差点フェスでの一本締め講義などで見せるグダグダっぷりとは大違い。昔は飲み過ぎで台車に乗せられて移動していた人とは思えない。


以上、付けた付箋からほんの少しだけ抜き出してご紹介しました。これだけ書いてもまったく足りない金言だらけ。どれも頷く内容ばかりだし、実際の活動やライブで実証済のことばかり。
そして私はいつも思う。こんな素晴らしいライブを毎回やっているRHYMESTER。ライブ見たら次回も行きたくなるでしょ?そう考えれば、ライブ動員数は右肩上がりのはず。それなのになぜRHYMESTERの人気や動員力はこの程度なのでしょう。
Creepy Nutsファンは全員RHYMESTERのこと知っているはずでしょ?それならなぜもっとこっちに来ないのか。DJのトーク力の差だけではないはずだ。
アトロク聴いている人は全員RHYMESTERのこと知っているはずでしょ?それならなぜもっとこっちに来ないのか。宇垣総裁や日比さんや宇内さんがいないからなのか。
小見出しに書いた東京ドームは大げさだとしても、もっと人気出てもおかしくないと思うんだけどなー。というか、人気出ないのはおかしいと思うんだけどなー。