やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

生活保護は別の世界の話ではない

あなたは単なる幸運なのかもしれない


前回、生活保護に対する誤解を解きほぐす記事を書きましたが、
ese.hatenablog.com
もう少し思いついたので、追加で書きます。


俺たちだって少ない給料で頑張っているんだ
それは大変ですね。よく頑張っていますね。それでも生活保護の支給額より稼いでいるのなら、保護対象にはなりません。もっと収入のない人、もっと貯蓄のない人が保護対象者となります。残念ですが、あなたは「稼いでいる人」なのです。


生活保護より少ない収入で頑張っている人はたくさんいる
こういう人は、生活保護を受けましょう。
そもそも、生活保護の捕捉率は20%と言われています。生活保護に該当するのに、実際に保護を受けている人は20%しかいない、残りの80%は生活保護レベル(あるいはそれ以下)なのに保護を受けていない人たちなのです。
yomidr.yomiuri.co.jp
ですので、「生活保護より少ない収入で頑張っている人がいる→なのにあいつらは」「だから気軽に保護を受けさせるな」という批判は本末転倒なのです。本来は、受けられる制度が行き渡っていない現状が悪く、残りの80%の人たちにも保護を受けてもらうことが大事なのです。もちろん、みんなが生活保護以上の生活ができて、貧困がなく、その結果生活保護を受ける人がいないというのが理想ですが、しばらくは難しいですね。だって今の政府は貧しい者に徹底的に厳しいから。


生活保護が対象者の20%しか捕捉できていないのは、保護が「申請」だからです。私たちが「あなた貧乏だから保護受けなさい」とは言えません。本人が「生活が苦しいので保護を申請します」と言ってもらうしかないのです。そのためにやることはいくつかあります。生活保護という制度の広報、それ以前の各種段階で生活困窮者を見つけて、各種サポート(そのうちのひとつとして生活保護がある)を行う、などです。
それなのに、「水際作戦」として相談や申請に来た人たちを窓口で跳ね返している自治体があるらしく、本当に迷惑です。最後の砦である保護にまで鉄壁の守りを固めてどうする。優しく毛布を掛けてあげるシェルターであるべきです。
そしてもうひとつ、世間の空気。生活保護は恥、生活保護は甘え、自己責任。こういった心ない声が、本当に困っている人を窓口に向かうのを躊躇させるのです。以下に書きますが、生活保護なんて誰でもなる可能性はあるし、自分の財布が痛むわけではないので無意味に他者を引きずり下ろすのは何の意味もありません。国が決めた制度ですから、誰でも当たり前に使えるようになってほしいものです。


でも、結局自己責任だろ
違います。
このグラフを見てください。
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https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000164401.pdf
生活保護者数と景気はきれいな相関関係にあります。景気が悪くなれば生活保護が必要になる人が増え、景気がよくなれば保護者数は減ります。自己責任ではなく、景気のせいなのです。つまりは政治のせいなのです。
そもそも、自己責任であっても困っている人がいたら助けてあげましょうよ。自分が困ったときは助けてもらえる制度があった方がいいでしょう。あっても誰も困らない制度をなぜ批判するのでしょう。


以上です。そして今回は、もう少し突っ込んだ話を書きます。あなただっていつ生活保護が必要になるか分からないのです。


対象者の情報は、「ケース記録」というファイルにまとめられています。そこにある「生活歴」には、対象者のこれまでの人生が記録されています。それを読むと、途中までは真っ当な人生を歩んでいる人が多いのに、何かのアクシデントにより真っ当な人生を外れ、そのまま転げ落ち、結果生活保護を受けるに至っています。
何かのアクシデントとは、病気、離婚、離職などです。普通の人生を歩んでいたのに、病気により仕事を続けることができなくなり、お金が無くなり、保護へ。小さな子供を抱えて離婚し、養育費は途中で振り込まれなくなり、子どもがいるためフルタイムでは働けず、困窮する。
彼らを責めることはできないでしょう。私たちだって同じことになる可能性は十分あります。たまたま運よく病気をせず、離婚しても養育費の支払いが続き、家族の支えがあったから今の人生があるだけかもしれません。
私だってメンタルを崩し仕事を続けられなくなったらどうすればいいのか。しばらくは失業保険があるとして、その先は?突然の大病や事故で治療費がたくさんかかるようになったらどうすればいいのか。保険で少しは賄えるとして、それ以外は?家を建てたり子供が小さい人は、こんなことになったら「即、詰み」ですよね。
この仕事を始めてから、「真っ当な人生」「普通の人生」って何だろうなと思うようになりました。みんな砂上の楼閣の上で生きているのです。


途中のアクシデントで躓く人の他に、最初からみんなと同じスタートラインに立てない人も大勢います。
親のネグレクトやDVなどで十分な教育や栄養を受けられない子供たち。大きくなるにつれてその影響は目に見える形で現れてきます。
そんな境遇にも負けずに真っ当に育つ子もいるでしょうが、そうはうまくいかない場合の方が多いと思います。それでも自己責任ですか?


たまたま親からお金と愛情を注がれて育ったとしても、アクシデントに見舞われることはある。そしてそもそもスタート地点から大きなハンデを背負って生きている人もいる。
どんな人も特別ではないし、「普通」と思っていた人生はどれだけ恵まれた環境と幸運によって成り立っていたのかを今になって思い知らされています。