やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『空白』 感想

振り上げた拳の落としどころ


映画『空白』を見てきました。公式サイト↓
kuhaku-movie.com
吉田恵輔監督作品としては『ヒメアノ~ル』以来。『BLUE/ブルー』も見たかったのに私の地方では公開してくれなかった。『ヒメアノ~ル』は素晴らしかったし古田新太×松坂桃李だもの、期待しかない。
さて。
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面白かった!(以下、ネタバレあります)


物語は予告編のとおり。
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万引きを追いかけたらその子が事故に遭い、亡くなってしまう。亡くなったことは悲しいが、自分は加害者なのか?娘を亡くした父親は被害者だが、原因は娘の万引き?このさじ加減が上手い。
実際万引きしたのか、店長は過去に痴漢をしたのか、この辺を曖昧にしておくのが上手い。そのおかげでどちらも完全に正義とはならない。
車に轢かれる描写がリアルすぎてびっくりしちゃった。どうやって撮影したんだろ。


父親のやっていることは恫喝でありストーキングであり脅しだけど、娘を亡くした被害者。店長は万引きの被害者であり娘が亡くなる原因を作った加害者だけど、そもそもの原因は自分じゃない。スーパーのパートのおばちゃんのやっていることは正しいけどそれで救われるわけじゃない。
みんな「いい奴ばかりじゃないけど悪い奴ばかりでもない」わけで、それぞれに理があります。
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しかし、マスコミはクズですね。あっちにもこっちにも押しかけて人の嫌がるところを撮影し、恣意的な編集で本人の意図と違う発言に仕立てる。それをしたり顔で「困ったもんですね」。あー、クズクズ。反吐が出るね。
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娘が亡くなったことは覆らない。謝っても謝っても娘が戻ってくることはない。父親は真実を知りたいと言うが、話しても信じてもらえない。土下座しても許してもらえない。どうすればいいのか。
病んじゃうよね。
娘が亡くなったことは覆らない。いじめが原因なのでは。そんな事実は出てこない。店長がわいせつ行為をしたのでは。そんな事実は出てこない。娘が万引きなんてしてない。していたかも。
振り上げた拳をどうすればいいのか。


実際、見ている最中「かわいそうすぎる」「悲しすぎる」「辛すぎる」と思いつつ、「で、これ、どうやって着地させるの?」と思っていました。物語中の父親の心も、映画としての着地も。
親子で同じモチーフの絵を描いていた!やっと親子だったことを実感した。やっと娘のことを少し理解できた。
上手い!いい着地!
店長との関係性も、「少しずつ受け入れることができるようになってきた。自分はまだ謝っていないが、謝るにはもう少し時間が必要」というギリギリの軟着陸。
店長自身も「あの店、好きだった。美味しかった」という味方がいたことを知り、ありがたく思う。
上手いなー、吉田監督。


このように、物語(お話・脚本)はとても素晴らしかったわけですが、そのお話に血肉を与えているの役者陣の力。
古田新太
怖い。怖いよー。怖いよーー。
松坂桃李
桃李くんはどんな役でも上手い。今回もとてもよかったです。特に自殺未遂した後の呼吸の仕方がとてもよかった!
寺島しのぶ
「正義の暴力」「正しさ押しつけ」。頑張って頼られて私大変!何も間違っていないけど、そういうことじゃないんです!店長の自殺未遂を救ったのはたまたま?そこからの流れるようなキス、さすがです。ありがたいけど、迷惑なんです!
●藤原季節
チャラいけどチャラくない、ちょうどいい案配!
ひとつ文句をいうと、父親に手を差し伸べる理由がほしかった。以前助けてもらったとか、頑張ったときは褒めてもらえるとか、そういうエピソードがあれば飲み込めたけど、普段から横暴でさらにおかしくなった父親の元に戻る理由が見えませんでした。
片岡礼子
娘を撥ねた加害者の母親。葬式に現れた父親に向かって「弱い娘ですみませんでした」と謝る強さ!涙を流しながらもきちんとしゃべる姿に、父親だけでなく観客の心も震えました!


その他、娘の地味な感じと可愛すぎないビジュアル(でも女優として画面映えはする)、同級生のさらに地味な感じ(女優ではない)、轢いてしまった女性の明るくて真っ直ぐでいい人な感じ、校長先生のちょうどよい物腰、店長とツーショットを要求する弁当屋の客のゲスでだらしない感じ、「これぞスーパーのパート」という地味なビジュアルの女性、ワイドショーに出ている3人の下品な顔、「何やよう分からんですわ」のチャンス大城、ボランティア活動を強要される女性の押しの弱そうな感じ、ラストに店長に優しい言葉をかけるチンピラの首の動き(「ちっす」という挨拶のあれ)など、端役に至るまで登場人物全てのビジュアルと演技が素晴らしかったです!
皆さん素晴らしいのに役名と役者名が併記されていないので誰が誰か分からず不満!邦画のエンドロールはなぜいつも役者名だけなの??


吉田監督、あなたは素晴らしい。傑作でした。心がえぐられるので何度も見たい作品ではないし人に勧めづらい作品ですが、いい映画でした。オススメです!


『ヒメアノ~ル』の感想↓
ese.hatenablog.com