やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

そろそろZeebraを赦そう

タイトルは釣りです。


許すというより、謝ろうという内容です。
Zeebra日本語ラップオリジネーターのひとりで、功労者であることは間違いありません。しかし、私はZeebra日本語ラップのメジャー化(一般化)を阻んだ戦犯だとも思っています。
これは

①「HIPHOP=ワル」という印象
②Kjへのディス

が大きな理由で、今でもそうだと思っていますが、それでも最近「いや、Zeebraが全面的に悪いわけではないのでは?」と思うようになったので、このエントリを書きます。


①「HIPHOP=ワル」という印象

dragon ash - grateful days feat.aco,zeebra (+1) - YouTube

[LIVE] Grateful Days / Dragon Ash - YouTube
(この頃はこんなに仲好さそうだったのに…。私もこのライブ放送録画しましたが、VHSなので見ることができない)
「俺は東京生まれHIPHOP育ち 悪そうなヤツはだいたい友達」。これは、日本語ラップ史上最大のパンチラインです。『DA.YO.NE.』『今夜はブギーバック』など、日本語ラップで売れた楽曲はいくつかありますが、世間に認知されている歌詞としてはこの曲のこの部分が一番でしょう。
これはもちろん当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったDragonAshが出した楽曲だから売れたわけですが、世間の印象はこちらのリリックの部分の方が印象に残っているでしょう。
この曲はDragonAshの楽曲で、Zeebraはフィーチャリングゲストです。なのに本家のKjよりも印象的なパンチラインをぶち込むZeebraは、作詞家・コピーライターとしても一流なのです。


この共演がきっかけでZeebraはブレイク。翌年出したアルバムはオリコン3位に入りました。
しかし。この頃のシングル・アルバムの内容が「クソなゲットーから抜け出す、マイク1本でメイクマネー、オレがNo.1」といった、「ワル・カネ・成功・自己顕示欲・地元」にまつわる楽曲が多かったため、こういう音楽・リリック・ファッションがHIPHOPだ、というイメージが世間に定着しました。
これが私の思うZeebraの罪です。罪とは言葉がきついですが、本エントリではこの言葉を使わせてください。
こういう言動・ファッションをカッコいいと思う人たちもたくさんいるでしょうが、逆に「ダサい・恥ずかしい」と思う人もいるでしょう。私は後者です。
ヤンキー文化と合わさって、HIPHOPは悪い、そして頭の悪いイメージが世間に広まってしまいました。
このせいで、日本語ラップはメジャー化(一般化)しなかったと思っています。


しかし、最近考えを改めました。
ZeebraHIPHOPに対する態度(ファッション・リリック)は、間違いなくHIPHOPの要素であり、そして魅力の一側面です。日本に「HIPHOPとはこういうものだ」と紹介してくれたZeebraは確かに功労者なのです。日本語ラップにおけるフランシスコ・ザビエルなのです。
問題は、こういった要素はHIPHOPの魅力の一つではありますが、それだけではないということ。もっと自由で楽しい、そして知的な言語ゲームでもあるHIPHOPの魅力が伝わらなかったということです。
そしてこれはZeebraのせいではありません。Zeebraは「悪くてカッコいい」という側面は伝えてくれました。しかし、それ以外の魅力を伝える人たちがいなかったことが問題なのです。


なので、Zeebraは悪くない。批判してごめんなさい。


②Kjへのディス
私がZeebra日本語ラップのメジャー化を阻んだ戦犯とするもうひとつの理由がこれです。
90年代末、DragonAshは『陽はまたのぼりくりかえす』のヒットをきっかけにブレイクしました。『陽はまた~』で導入したラップがウケたわけですが、この当時は韻もフローも甘くて、今聴くとラップとしてはとても低いレベルです。それでもこの新しい表現方法に若者は熱狂し、Kj(当時は降谷建志)はカリスマになりました。
その後『Under Age's Song』『Let yourself go,Let myself go』とシングルを出すにつれてラップは上手くなってきて、『Grateful Days』でついにオリコン1位を獲得しました。HIPHOPが天下を取った瞬間です。
これは前述のようにZeebraの力も大きいわけです。ラップ・HIPHOPが何たるかも知らない若造に対して、Zeebraは先達としての教えを与えました。才能ある若者はどんどん吸収し、ラップを進歩させていきました。
そして『Summer Tribe』のシングルで、Zeebraの逆鱗に触れます。声やフローがZeebraに似過ぎているということで、キングギドラ公開処刑』という曲で「声パクリ そしてフローパクリ ステージでの振る舞いも超パクリ」と思いっきりディスされました。


Dragon Ash 1997~2001 - 「Summer Tribe」(PV 90sec ...

公開処刑 キングギドラ - YouTube
このディスを受けて、DragonAshは沈黙します。発売予定だったシングルは延期未定になり、メンバーが土下座しているポスターが街中に貼られました。
f:id:ese19731107:20150620132538j:plain
(ネットで見つけた画像。私も渋谷で見た覚えがあります)
そして1年以上経って久々に出したシングル『morrow』は、それまでのアッパーでイケイケなラウドミュージック+ラップではなく、テクノ・ミニマル・アンビエントの影響を感じる緻密な曲調と英語詞メインのものに変わっていました。
その後ラテン期を経て再びミクスチャーロックに回帰しましたが、ラップはミクスチャーロックの要素の一つでしかなく、HIPHOPをメインにした音楽性に戻ることはありませんでした。


日本にHIPHOPが根付くかと思われたDragonAshのブレイクは、Zeebraのディスによりバブルのように弾けてしまいました。そして今、世間に知られているレベルのHIPHOPミュージシャンはRIP SLYMEKREVAくらい。(個人的にはRHYMESTERも入れたいですが、世間には知られていないですよね…)
この千載一遇のチャンスをZeebraが潰した、と思っていたのです。


しかし、そもそもHIPHOPにおけるディスとそれに対するアンサー、これら一連のビーフと呼ばれる諍いは、HIPHOPの様式美です。これらも含めてHIPHOPなのです。ディスられたらアンサーで返す。プロレスと同じで、技を掛けられたら受けて、そして技をやり返す。
Zeebraだって100%の憎悪であの曲を書いたとは思っていません。ちょっとイラっとしたからディス曲を作った、くらいに思っています。話題づくりも含めて。なので、やられたKjはそれを受けてアンサーソングで返すべきだったのです。DragonAshの新曲として出すと反響が大きすぎるので、Kj個人として動画でのアンサーでもよいので、何かアクションを起こすべきだったのです。
それを、ただ真に受けてただ傷ついて部屋の隅で膝を抱えていた(あくまで想像)のでは、HIPHOPのプロレスは成り立たないのです。ここでシャレた返しができていればHIPHOPはさらに盛り上がり、ディスやビーフについての理解も深まり、HIPHOPという文化がより深く浸透していったかもしれないのです。
Zeebraにしてみたら「よし、いっちょビーフかましてやるぜ」くらいのつもりだったのに、Kjのあまりのへこみっぷりに「え?マジで傷ついてんの?これはビーフっていうゲームなんだけど」と肩すかしをくらった感があるかもしれません。
そう思えば、HIPHOP文化の芽を潰したのはDragonAshだったという言い方すらできます。
また、この時期は『Life goes on』のパクリ疑惑もあったので、KjがへこんだのはZeebraのせいだけじゃないし。


なので、Zeebraは悪くない。批判してごめんなさい。


Zeebraはラップ上手いのです。世間的なイメージの「オレがNo.1」みたいなイケイケの曲だけでなく、メロウでスムースなラップもいける。その辺がもっと上手く伝われば、世間のイメージも変わったかもしれないのにな。

ZEEBRA - Teenage Love - YouTube



時計の針は戻せない。今さらたらればを言っても仕方ない。私たちにできることは、いいHIPHOPを世間にプッシュし、HIPHOPに対する世間の誤解を解いていくことです。
というわけで、RHYMESTERの次のアルバムを推しましょう!


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