やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

「弱起」でグルーヴを感じろ

ビートのお話


『ザ・カセットテープ・ミュージック』は毎回面白くて勉強になる。つい先日にこの番組の記事を書いたばかりですが、またいい話があったので、その部分だけ書かせて。
前回書いた話↓
ese.hatenablog.com
今回はライブ盤特集なのですが、私が書きたいのはライブの話でもライブ盤CDの話でもなく、ビートの話。
スージー鈴木さんが選曲したのはいとうせいこう『東京ブロンクス』(1986年)のライブバージョン。
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曲を流したあとで

(スージー)今、みなさん普通にノっていたじゃないですか。日本語のラップって今や普通ですけど、あれをほぼ作ったのはいとうせいこうだと言いたい。
(スージー)弱起。弱く起きると書いて弱起っていうんですね。強起と弱起ってのがあって、音楽の授業で聴いた方もいるかもしれませんが、いとうせいこうよりも前のラップは弱起じゃなくて強起の方だったんです。

ここから過去の「日本語ラップの元祖」と言われてきた曲を紹介(番組内ではスージーさんがアカペラで歌う)。
You an' Me Orgasmus Orchestra『咲坂と桃内のごきげんいかが 1 ・2 ・3』(1981年)
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「Here we go everybody come on Rocken'roll」(上記動画0:30~)


山田邦子『邦子のかわい子ぶりっ子』(1981年)
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「お久しぶりっ子 ぶるぶるぶりっ子」(上記動画1:30~)


吉幾三俺ら東京さ行ぐだ』(1984年)
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「テレビもねえ ラジオもねえ」


C-C-B『ないものねだりの I Want You』(1986年)
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「愛して 冷たい 君は電話」

(スージー)全部1拍目から入るんですよ。ラップなんだけどちょっと民謡っぽい。なーんかグルーヴしないなってときに、(『東京ブロンクス』の)「俺はRAPPER」、半拍あとですね。

「あとね」と言い、例題を続けます。佐野元春『COMPLICATION SHAKEDOWN』(1984年!)
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「つかの間の自由をビートに任せて転がり続けな」(上記動画0:49~)

(スージー)これは半拍前。強起じゃなくて弱起にすると、なんか向こうのラップに近くなるじゃないですか。吉幾三の「テレビもねえ」と今のラップはかなり距離がありますけど、いとうせいこうが作ったこの弱起のビート感っていうのは今のラップにかなり近い。
つまり、今のラップを作り上げたのはいとうせいこうだって話。

共演者からは「へえ~」くらいのリアクション。

(スージー)非常にサブカル濃度の高い話をしてしまって何となくシーンとしている気配もありますけど。

そうなんだよなー。サブカルっていうか、ラップ・ヒップホップに興味のない人にとっては「へえ~」しかないもんな。さらにそこで弱起・強起なんて話されても「へえ~」しかないもんな。
マキタスポーツによるフォローと補足。

(マキタ)いやいや、これは重要ですよ、ほんとに。「騒げー!」って言ってたでしょ。あれは英語のラップだと「スクリーム!」っていう盛り上げ言葉があるんだけど、あれを「騒げー!」にしたのがいとうせいこうさん。ラップって新しい表現だから、お客さんたちが慣れてないのよ。だから盛り上げ方のマナーとかも啓蒙していかなくちゃいけないんだけど、「スクリーム!」って言ったって分かるわけないじゃん。だから「騒げー!」っていう言い方を発明したの。


この曲についてはここまで。この重要度が伝わるでしょうか。
日本の昔の歌謡曲は、ビートは表拍です。1拍目に手拍子を打つ。民謡とか盆踊りが分かりやすいですね。
その後、日本にロックが入ってきます。ロックンロールは、4拍子に8ビートが基本で、3拍目にスネアを入れるのが一般的です。4拍子を8つに分けているので、2・4拍にビートが入る。
この差です。これが身体に落ちているかでビート感は変わってきます。
今は16ビートも当たり前になっていて、「裏から入る」というのも意識しなくても普通に耳なじみのよい音楽になっていると思います。この30年以上に渡る啓蒙の結果、日本人にビートは教育されてきたのです。
個人的に「裏から入る」とか「半拍ずれる」とかを意識したのはユニコーン『大迷惑』ですね。
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サビの「この悲しみをどうすりゃいいの」の入りの部分、裏からですねー。


若い人やロックを積極的に聴いてきた人は、裏拍(スージーさん曰く弱起)の感覚がありますが、お年寄りはその感覚が身体に染みついていない。NHK『のど自慢』などで最近の曲を歌っても客席は表拍で手拍子を入れることがよくあります。ちがーう。


ラップも、上手いラッパーの気持ちいいフロウは、キックとスネアの位置を理解して言葉を当てています。ラップを聴いていて感じる「気持ちよさ」は、固い韻を踏むことだけではなく、ビートアプローチによるものもあるのです。というか、後者の方が重要。それさえ出来ていれば韻は踏まなくても心地よいラップに聞こえます。


ビートやリズムは意識しなくても身体が動くものですが、意識や知識があるとより楽しめるよ、というお話でした。


建設的

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