岡村靖幸NEWアルバム『操』全曲感想
頑なな究極の9曲
岡村靖幸のNEWアルバム『操』が発売になりました。
前作から4年。早い。早すぎる。『家庭教師』→5年→『禁じられた生きがい』→9年→『Me-imi』→11年半→『幸福』という時間の流れに慣れている私たちにとって、4年なんて実質2年。加齢による時間加速の法則も加わり、実質1年くらいの感覚ですよ、マジで。
今回も毎度おなじみ9曲縛り。この少しの物足りなさがリピートを生むのでこれでいい。私はこれを「ヤクルト効果」と呼んでいます。
今回はシングル・カップリング含めて既発が4曲、未発表の完全新曲が5曲。これを多いと感じるか少ないと感じるか。そこにあなたの心の幸福度合いが現れます。
私?私はもちろん多いと感じますよ!だって前作『幸福』は完全新曲は3曲だったんですよ!
では、1曲ずつ感想を書きます。
M1『成功と挫折』
これぞ岡村靖幸サウンド!という始まり。途中のカウベルのようなアクセントが岡村ちゃんの過去曲『Boys』を思い起こさせます。
この曲はギターに小山田圭吾が参加しています。後半のギターソロはまるで運指の練習フレーズのよう。こんな精密なソロプレイは岡村ちゃんでは弾けません(偏見)。
最近の岡村ちゃんは歌詞が難解で、一度では意図やテーマを読み取れない。井上陽水の域に達している。なので、歌詞については触れません。
M2『インテリア』
今回の完全新曲の中でいちばん好き!細かいリズムと重なった音たち。メロディのキーも今の岡村ちゃんにぴったり。たぶんライブでは照明がビカビカ光って岡村ちゃんはカッコいいデンスを見せてくれるんだぜ。
歌詞はやはり読み取りにくいですが、「言葉には愛を持とう」「君は音楽になる」など、キラーフレーズは健在。
そしてこの曲は、アウトロからM3にシームレスにつながっていく。
M3『ステップアップLOVE』
前の曲からの流れでDAOKOの「現実を引き裂いていけー」のささやき、しびれた!初めて聴いたとき叫んじゃったね。
この曲は、職業作曲家である岡村靖幸の良さがとても出ている。つまりはキャッチーってこと。
この曲の前、DAOKOは米津玄師と『打上花火』をリリースしていました。どちらも歌の分量は半分ずつくらいなのに、『打上花火』では米津玄師4:DAOKO:6くらいに感じ、『ステップアップLOVE』では岡村靖幸7:DAOKO3くらいに感じるのはなぜなのか。
M4『セクシースナイパー』
先行シングル『少年サタデー』のカップリング曲。アルバムで聴くと改めていい曲、というかカッコいい曲だなー。ドラムとベースが強く、メロディよりもビート優先でできている。
これ、とてもいい曲なのでアルバムで初めて聴きたかった。(というか、全曲まっさらな新曲として聴きたいといつも思っているのですが)
M5『少年サタデー』
シングルとして発表されたときは「シングルとしては弱いんでないの?」と思いましたが、アルバムの中に置くと「ちょうどいい軽やかさ」に感じますね。
曲は悪くはないけど、シングルという強さはない。それはこの曲はダメということではなく、シングルとしての役割の曲ではないということ。
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発売当時の感想。
M6『遠慮なく愛してよ』
イントロは最近の桑田佳祐『簪』のような優しい感じ。ぼんやりした喩えですみません。
メロディはまさかの全編ファルセット。私、岡村ちゃんのファルセットは、ポイントポイントならいいけど、全編はあまり好きではないのです…。
歌詞では直接的な表現はありませんが、それでもやっぱり「愛してよ」なのね。自分から動け!
M7『マクガフィン』
じゃあ岡村靖幸の曲にRHYMESTERがフィーチャリングで参加したのかというと、ラップの分量(小節数)と岡村サビと別にラップサビがあるということを考えてもやはりがっぷり四つ。
— エセ@たぶんもう何もない (@ese19731107) November 15, 2019
「岡村靖幸さらにライムスター」は正しいコードネームでした。
この曲が出たときはこう思っていたのですが、今では少し変わりました。
がっぷり四つではなく、RHYMESTERの方が強い。
それは、『ステップアップLOVE』と同じく、分量の問題ではなく強さの問題。具体的にいうと、Mummy-Dが圧倒的すぎるから。
ちょっと長くなるけど、書きますね。
まず「まるであの映画で~」の部分、ケツにリズムを引っかけるフローでつかみ。続いて「とにかく訳もわからず~」からの3連フロー!ここで完全にやられちゃいましたね。3連を2つずつで刻んでいくフロー(タタ・タタ・タタ~とラップしている)。トラップ以降、譜割りはより自由になり、特に3連のリズムが進化しました。その最新版がこれだ!
そして一旦普通のフローに戻し、「オレだけに見せる~」でまた技を見せる。ここは「オレだーけに見ーせるとーくべつな」と意図的に伸ばす部分を作ることによりリズムに引っかかりを持たせているのです。
そして最後に「二人して」と「B.I.T.C.H」で韻を踏んでゴール。
すごい。
また、歌サビはありますが完全なサビメロディではなく、それと並列にラップサビ(実体のない~の部分)もあるので、余計ラップの分量が多く感じていまいます。ラップサビもDさんの印象強いしね。
なので、欲をいえば最初に岡村ちゃんAメロを付けるか、サビ終わりに追加の大サビを付けるかしたら五分の印象になったかなーと思っています。
この曲は、ライブではどうするんだろ。RHYMESTERのライブなら岡村ちゃん部分はオケ流すかお客に歌わせればいいけど、岡村ちゃんライブでは難しいですね。そうか、私がステージに立てばいいんだな。
M8『レーザービームガール』
この曲のイントロを聴いた8割はマイケル・ジャクソン『The Way You Make Me Feel』を思い浮かべたはず。
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つーか、『レーザービームガール』のタイトルでこのシャッフルビート想像できた人いる?いや、いない。
普通、こっちを思い浮かべますよね??
とはいえ、曲はいいので文句は何もない。この跳ねるリズムに相応しい軽やかで嬉しそうな歌詞。いいぞ、こういう歌詞をもっと書くんだ。
しかし、ここでも「流れ星に誓えば二人でリング買いにいけるかな?」と単なる希望願望。誓えよ!言えよ!行けよ!
M9『赤裸々なほどやましく』
「3+6みたいに10から1引きゃ9になるから」って、あなたは曲の頭で何を言っているんだ。この歌詞を許されるのは岡村靖幸しかいない。「Crazy×12-3=me」の人ですから。
アルバムのラストに相応しい余韻のあるテンポとコード進行。希望のあるポジティブな歌詞。とってもにこやかにアルバムを終えることができます。とはいえ物足りなくてすぐ1曲目にリピートしちゃうんだけど。
しかし。「今デートしようってとっさに浮かんだ」浮かんだだけ!「毎晩話したいよ」願望だけ!相変わらず行動はしない岡村ちゃんであった(cv.さくら友蔵)。
この曲で締めというのは、とてもよい。完全な「終わり!」ではなく余韻がある。
いいアルバムです。個人的には『幸福』より好き。曲順の配置も完璧。全体的に明るく軽やかな印象なのもよい。歌詞は簡単には読み解けないのでこれから何年もかけて味わっていきます。
最近、岡村ちゃんは雑誌やテレビなどに登場し、質問返しで煙に巻くことは多いけれども、それでも岡村ちゃんの考え方や感じ方は少しだけ伝わってきます。
岡村靖幸の音楽は「青春」がキーワードのひとつで、今回のアルバムでも『少年サタデー』は青春の曲です。ずっと同じテーマを扱ってはいるのですが、その意味合いは昔と今で変わっている気がします。
昔は「あの頃が最高(だったはず)」という思いがあり、謳歌できなかった悔しさと喪失感を取り返すべくあがいていた感じがします。部活、バスケ、彼女。
それが、最近はいつまでもフレッシュな気持ちを持っていたいという「願望としての青春」な感じがします。「あの頃はよかったなあ」ではなく、「いつまでも瑞々しい感性」としての青春。
また、岡村靖幸の歌詞は「好き」までです。付き合って倦怠期とか結婚して平穏で平凡な幸せとかは描かれません。自分が相手を好きだという感情と、相手が自分を好きであってほしい願望。そこだけ。そこまで。
これは、「あの子が好き」という気持ちそのものではなく、「好きとは何か」を歌っているから、その先は扱わないのかなと思うようになりました。
昔からずっと「好きとは何か」が分からない。分からないから繰り返しテーマ・モチーフとして描く。そして今もそれは同じだけど、今は「分からないということは分かった」という段階なのではないか。
理解したつもりにならない。「分からない」ということに誠実に向き合っている感じがするのです。
こんなことは私が勝手に思っているだけで岡村ちゃん本人からすれば違うよと言われるかもしれませんが、想像妄想するのはリスナーの権利だ。それに、どうせ「絶対にきっと答えてくれやしない」のだから。
こんなに素晴らしいアルバムなのに、ライブを見ることができない。これを書いている現在はツアー日程延期が決まった段階ですが、状況が状況だけに、延期した時期でもライブを開催することは難しいかもしれません。いいです。いつまでも待ちます。全力で叫べる日が来たら、全力で岡村ちゃんに愛と感謝を叫びます。その日まで、みんな健やかに過ごしましょう。