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やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「ヒメアノ~ル」 感想

映画

どうでもいいし、めんどくさい


古谷実原作の「ヒメアノ~ル」を見てきました。
公式サイト↓
www.himeanole-movie.com
原作は読んでいますが、全て忘れた。「ヒミズ」以降のダーク・シリアス路線がもうどれがどれか分からない記憶力。


この作品は、予告が上手い。

『ヒメアノ~ル』予告編
途中までの青春ラブコメ映画と、途中からのバイオレンス映画への振り幅。予告編にあるタイトル「ヒメアノ~ル」のフォントの変化もいい。
で、実際映画を見るとタイトルバックが出るまで30分くらいかかるのですよ(計っていないので実際の時間は不明)。それも予告編以上のおどろおどろしいフォントで。不穏!


キャストは、皆さん素晴らしい。
濱田岳さん(岡田)は、当たり前だけど上手い。演技は、「本当に素のような演技」「自然のように見せるのが上手い演技」「演技っぽい上手い演技」などがあって、窪塚洋介は素のままに見えるし渡辺謙佐藤浩市は演技っぽい演技が上手い。そして濱田岳は「自然のような演技」が上手いです。
表情、視線、言い方、声のトーン・ボリューム、間。上手い。


ムロツヨシさん(安藤)は、コメディとして上手い。コントにならないように、でも笑えるように、その絶妙のラインが上手い。
ユカちゃんをデートに誘うためのやり取りで「日本酒は好きですか」ユカ「いえ、私は日本酒は飲みません」安藤「そうですか。日本酒の美味しいお店があるので今度どうですか」ユカ「いえ、私は…」安藤「…(ハッ!)そうですか、ではディズニーランドでもどうですか」という、想定外の答えが来ると柔軟に受け答えができなくなる非モテの特徴が上手い!


佐津川愛美さん(ユカ)は、ヒロインなので当然可愛い。そして小悪魔ビッチでも純真少女でもなく「普通にいる可愛い子」がぴったりでした。前半のラブコメパートは普通のラブコメなので「じゃあ有村架純でもいいじゃん」と思っていたのですが、セクシーシーンが激し目にあり、有村架純では無理でした。
いやー、びっくりした。乳首こそ出ていませんが、下着も胸のふくらみも背中もおしりも揉まれる胸(手が邪魔だ!)も出し惜しみなく披露。女優だなー。


で、森田剛さん(森田)。この作品の主人公は彼です。エンドロールでも最初に名前がありました。
私は、彼を知りません。V6も詳しくないし「学校へ行こう!」も見ていませんでした。舞台で活躍しているそうなのですが、見たことはありません。
世間では「ジャニーズなのにあんな役を!」という称賛の仕方が多いですが、ジャニーズ関係なくね?単に素晴らしい役者が素晴らしい演技をしてくれたのです。
濱田岳さんやムロツヨシさんは演技上手いなあと感心しながら見ていましたが、森田は、そこにいました。この映画の中に、森田正一はいました。死んでる目、こけた頬、しゃべるのも面倒くさい発声。人生を諦めた男がそこにいました。
前半の岡田と居酒屋で飲む場面でしれっと嘘をつくのも、本人は嘘をついているつもりもそれをごまかすつもりもないんだろうな。その場だけで生きている。後半の警官とのやり取りもそう。ばれないように嘘をつくわけでなく、ただその場をやりすごすための嘘。だからすぐに怪しまれるのですが、そうなったら殺せばいい。そのときはそのとき。計画性も保身もなにもない。ただ生きるために目の前の面倒を片付けるだけ。怖い!


その他、脇役・チョイ役の皆さんまで、みんな素晴らしい適材適所と演技でした。


この作品は、殺すシーンがリアルで怖い。殺し方が派手でも地味でも、痛そう。
特に最初の殺害シーンで、和草の婚約者を撲殺する場面。殴るたびに失禁するのは見ていて辛くなりました。が!それ以上にこのシーンと岡田とユカのセックスシーンを交互に見せる監督の技量と悪趣味。私はどういう気持ちでこの場面を見ていればいいんだ!
その後も頬を貫通する銃弾とか抵抗しているがゆえにじわじわ刺さっていく刃物など、痛いシーンは続きます。R15+だからこその痛さ。素晴らしい。


森田は、全てがどうでもいいし、面倒くさいんだろうな。きちんと生きるのは面倒くさいし、諦めている。殺しちゃったから火を点けて逃げる。やりたいからやる、飯を食いたいから他人の家に押し入り、殺す。帰ってきた家族も殺す。様子を見に来た警官も殺す。
もうどうでもいい。面倒くさい。投げやりで行き当たりばったり。
だからこそ、ユカに執着したのでは。彼女をものにするという目的がないと、生きている意味がないから。


ラスト、車で逃げる森田は犬を避けて事故を起こしてしまい、ようやく逮捕されます。ここで「今まであんなに殺してきたのになぜ犬は守ろうとするんだ」と少し思いましたが、エンディングの回想シーンで同じような犬を飼っているシーンがありました(この犬のきちんと手入れされていない感じがよい!)。一応理由は立ちますし、あとは目の前に障害物が出てきたので反射的にハンドルを切ってしまった、という考え方もできます。


ヘビーな作品でした。上記のように痛いシーン満載ですし救われないストーリー(一応森田の逮捕で岡田とユカはハッピーエンドですが)なので、「いい作品だった!」となかなか気軽に言えないし人にも勧めづらい。
でも、名作です。「アイアムアヒーロー」と同じく、これだけの公開規模でこれだけの表現をできるのは、素晴らしい。もちろん過激な暴力表現だからよいわけではなく、この世界とこの主人公にはこの表現が必要なわけで、それを躊躇も遠慮もなく描けたのは本当に素晴らしい。監督の技量も森田剛の演技力も、この表現を認めた映画会社も、皆さん素晴らしい。ありがとうございました。


少しだけ文句を。
上記のように森田は計画性もなく、殺したい欲求があるわけでもなく、ただ目の前の「面倒」を払うために殺人を繰り返してきたわけですが、森田が和草に「高校の同級生の岡田っているじゃん。アイツを今から殺して山に埋めようと思って」と電話をする場面では明確に殺意を抱いています。彼は、高校時代の河島殺害以降、殺人をしていたのでしょうか。あれ以来、ずっと何もしなかったのに、急にまた殺人衝動が蘇ったのでしょうか。そこがよく分からないです。


あと、途中高校時代の回想シーンが何度かあるのですが、そこでの森田と岡田が今の森田と岡田そのまま過ぎて、ここはリアリティに欠けるなーと思っていました。高校生なので子役を使うわけにはいかないでしょうが、髪型を変えるなど、もう少し高校生らしい造形で描いてほしかったです。画面を白く飛ばしているのは「あの頃の光景」というよりは「画面上のごまかし」に見えてしまいました。


大ヒットする作品ではないので、上映期間は短くなりそうです。興味のある方はぜひお早めに。興味のある方なら必ず満足すると思います。99分という長さもちょうどいい。
カップルで見に行くのはオススメしません。