やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』 感想

最低な人たちによる最低なラブストーリー、最高だ!


彼女がその名を知らない鳥たち』を見てきました。公式サイト↓
kanotori.com
公開直後から評判よくて見たいなーと思っていたのですが私の地元では上映せず、諦めていたのが何と今になって上映してくれました。うれしい。というわけで見に行きました。


面白かった!お話、演出、演技、どれも素晴らしい!
(以下、ネタバレ含みます。ネタバレが重要な作品なので、知りたくない人は読まずに映画館へ走れ!)


これ、沼田まほかるさんの原作だったのですね。何も知らずに見に行ってたわ。なので、最低な人が出てどんでん返しがあって、後味は悪いのに最高!という分裂した感想になるのだな。
ese.hatenablog.com
(映画版は見ていません)


登場人物が全員最低なのに映画として最高ってどういうことだ。白石和彌監督の手腕の賜物ですな。
冒頭、蒼井優演じる十和子のクレームに早速イライラ。「できないってどういうことですか。どうでもいいってことですか。この時間をどうしてくれるんですか。人と人の話でしょ」あー、イライラする!こういう店側としてはどうしようもない言い方をする人大嫌い!どうしようもないんだから現実的な選択をしてくれ。どうでもいいとは言えないし時間を返せとか誠意を見せろとかはどうしようもないよ!
もうここから蒼井優が上手すぎて。関西弁も流暢だし会話の揚げ足取りも上手い。既に100点出てます(イライラしながら)。


同居人の陣治(阿部サダヲ)は汚ったない。十和子への愛は十二分に感じるのですが、押しが強すぎて嫌悪感がある。同居しているのに寝室も別で、マッサージしろと言われるけど手を出すと怒られるし、かわいそうな面もありますが、汚ったない。食事中に差し歯を外すな!靴下を脱ぐな!足の皮をむくな!
どうでもいいことですが、途中十和子は陣治に手マンされていますが手マンだけでいいの?クンニは?


クレーマー十和子はデパートの男性・水島(松坂桃李)からの丁寧な電話でも埒が明かない。あー、イライラ。家に伺うという電話で最初は断ったくせに顔を確認してイケメンだと分かると家に招く十和子。こらー。
ここでもクレーマー気質を出し謝罪は上手くいかなかったのですが、ここで何と水島が十和子にキス!いくら何でも初対面でそりゃないぜと思いましたが、映画は2時間しかないので話はさくさく進めましょう。また、この後の水島を見ているとこの行動にも納得するのです。白石監督の演出と松坂桃李の演技力の力技!


で、すぐにこの二人はセックスするのですが、これがエロい!十和子に「あー」と言わせてそのまま舌を絡めるキスもエロいし、蒼井優はブラも取るのです!上手い手の演技とカメラワークで乳首こそ映りませんが、蒼井優すげーな!その後パンツも脱がされるし背中越しの騎乗位もするし、蒼井優すげーな!
セックス後、水島の左手には結婚指輪が!お前既婚者かよ!最低だな!


あと、セックス後に部屋の天井から砂が落ちてくる描写があるのですが、これはどういう意味なのですか?どなたか教えてください。


十和子は昔別れた男・黒崎(竹野内豊)がまだ忘れられない。でも、この黒崎も最低なのです。ビジネスの有力者?國枝という男と寝るように十和子に要求するのです。自分のビジネスのために恋人をNTRさせる男。しかも國枝の姪と結婚することが決まると一方的に十和子を捨て、すがる十和子に殴る蹴るの暴行を加える男。口から血をコポコポさせている十和子は可哀そうすぎるよ!
なのに十和子はまだ黒崎との上手くいっていた頃を思い出したりハメ撮りDVDを見たりするのです。


その黒崎と重ね合わせているのでしょう、水島との関係もずるずると続いていて、姉(赤澤ムック)は黒崎と会っているんじゃないかと疑います。お姉さん、その心配はありがたいですが、妹の家に行って同居人もいるところで言わなくていいんじゃない?それは正論だけど、言うべき場所やタイミングってのがあるんですよ。で、姉の旦那は会社で不倫中。
この「正論だけど分かってない」感じがダメな人ですね(さすがに最低とまでは言わないけど)。本当にこの作品に出ている人は最低な人ばかりだ。


この後、陣治が黒崎を殺して埋めたと告白。あー、陣治の強すぎる十和子への愛はこうやって歪んで発現しちゃったのかー、とこの時点で私たちは思うわけです。


水島のダメンズっぷりはまだ続きます。奥さんがいながら十和子とは別の女性と食事に行き、突然会った十和子には時間がないからと外でフェラチオさせるのです!あんなところ、誰か来ちゃうぞ!ここで股間に顔をうずめ顔を前後させる蒼井優、すげーな!そして声を漏らす松坂桃李、やべーな!
重要書類が紛失して陣治を疑う水島でしたが、実は社内の連絡ミスで書類は出てきました。直前まで十和子にガン詰めしていたくせに事態が解決すると急に「食事の前にホテル行くか」と性欲を前面に出す水島。サイテー。


ここで突如水島にナイフを突き立てる十和子!陣治が飛び出して十和子を止め、「警察に行くならやったのは俺だと言え。しかしお前の悪さも全部証拠あるからな」と脅します。
そしてこの行動で過去のことを思い出す十和子。黒崎を殺したのは自分だった!!!!


全てを思い出した十和子に対し、全部自分のせいにして十和子は別の男と結婚して子供産んでくれとお願いする陣治。そして、公園の柵から身を投げる陣治!
ここから走馬灯の回想シーン。陣治と十和子の出会いから今に至るまで。


ああ、ストーリー全部書いちゃった。「あなたはこれを愛と呼べるのか」という本作のキャッチコピーは陳腐ですが、この作品のテーマそのものですね。
俳優たちの演技は皆さん素晴らしかったです。阿部サダヲの汚い、気持ち悪い、過剰な愛情、そしてすべてを背負う純粋な愛。松坂桃李の今後の俳優人生にプラスになるのかマイナスになるのか分からない素晴らしくペラペラな男。竹野内豊の声はいいしいいこと言っているようで最低な打算男。
でも、やっぱり蒼井優が優勝でしょう!この作品を見た女優はみな悔しがるはず。もしくは圧倒的な差に打ちひしがれるはず。それくらい「多面的なのに同じ人」を演じていました。クレーマーも不倫も同居人への悪態も恋人に甘える仕草も、それぞれは全然別ものですが人は多面的なので、実際の人間はそんなもの。それを物語上でも同じ人としていろいろな顔を見せてくれました。ラストの飛び降りる陣治を見る「どうしようもない感情がぐちゃぐちゃになっている顔」なんて最高じゃないですか!


見ている途中は「カップルで見に来たら鑑賞後絶対セックスしたくなるだろ」と思いましたが、ラストまで見ると「不倫おっかねえ!」になります。
いい原作といい俳優といい監督がいい化学反応を見せると、こんな素晴らしい作品ができるのです。傑作でした。