やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

2017年8月ツイートまとめ(その1)












































『週刊少年ジャンプ展』に行ってきました! 感想

足りない


六本木で開催されている『週刊少年ジャンプ展』に行ってきました。公式サイト↓
shonenjump-ten.com
今回は創刊から1980年代まで。来年3月からの第2回で90年代をやるそうです。
私は小学3年生から中学3年生まで毎週ジャンプを買っていて、それは1982年~1988年。まさにドンピシャの時代!これは行かねば。
f:id:ese19731107:20170821114410j:plain
f:id:ese19731107:20170821130904j:plain
中は撮影禁止なので写真がない。


私が買い始めたときは『ジョジョ』以前の『魔少年ビーティー』、『北斗の拳』の前の『鉄のドンキホーテ』(モトクロスのマンガです)、『ハイスクール奇面組』の前の『3年奇面組』、『聖闘士星矢』の前の『風魔の小次郎』、『魁!男塾』の前の『激!!極虎一家』などが連載していた時代。『キャプテン翼』はまだ小学生で再延長試合というひどい仕打ちを受け、『キン肉マン』は黄金のマスク編でジェロニモが自分の心臓揉んでいる時代。『ブラックエンジェルズ』では切人がまだ誰なのか分からず、『Dr.スランプ』ではガッチャンはまだ一人でおぼっちゃまくんもまだいない時代です。『こち亀』はもちろんこの時代も連載していましたが、両さんはまだタバコを吸っておりマリアも寿司屋も出てこない時代です。


平日とはいえ夏休みだから混んでいるかなーと思ったのですが、ものすごく空いていました。そうか、1980年代までだから学生や若い人は興味ないのか。確かに会場には私と同年代の人が多かったです。


入ってまずはオープニング映像。これは完全入れ替え制なので一度しか見られません。ケチ。
中も撮影禁止。ケチ。まあ、撮影OKにしちゃうと何でもかんでも撮影する人がたくさん現れて収拾つかなくなるから仕方ないか。


中はもちろん原画や名作シーンがあって作品の説明があるのですが、足りない。物理的にも足りないし内容的にも物足りない。
この作者は誰のアシスタントで、とか誰の影響を受けて、とかこのシーンはこういう裏話があって、とかこの作品が与えた影響とか。足りない。日本のマンガはこれだけ文化的にも歴史的にも厚みを持つカルチャー・コンテンツになったのだから、そういう時代的なつながりや影響についてもっと情報量をくれ!こういうところに来る人はオタク・サブカルが多いんだから、情報に飢えているんだよ。


原画ももちろん展示してありましたが、足りない。もっとたくさん見たい。そんな普通の回の普通のコマの原画じゃなくてあの名場面を原画で見たい。


1980年代までとはいえ、連載作品をすべて展示することは不可能だし取り上げる作品をあまり深く掘り下げることも不可能ですが、それでも足りない。単なるマンガ展示会でしかない。創刊号からの全部の号の表紙を一面に展示したスペースなどもほしいなー。
作品ひとつに対して深く掘り下げることが不可能であっても、週刊少年ジャンプについては深く掘り下げてほしい。私たちが見たいのは「わー、北斗の拳だーキン肉マンだー懐かしいなー」みたいな上っ面の懐古趣味ではなく、この歴史をきちんと振り返るマニアも納得の学術的な情報量です。私だけ?


物販やお土産はほぼ買わない私ですが、パンフ買っちゃった。そこで、ここに掲載されている作品について少し語らせて。オタクの一人語りはウザいけど、語らせて。


本宮ひろ志
そもそも私がジャンプを買うようになったのは父親田中角栄を好きで『やぶれかぶれ』を読みたくて買ったことから始まります。そこでその面白さにびっくりしてその後自分で買うようになりました。当時は170円。
天地を喰らう』の毎週巻頭オールカラーでおっぱいがいっぱい登場したのはいい思い出。


北条司
『キャッツアイ』のラストで記憶喪失とは都合のいい終わり方だなと思いつつ「もう一度瞳と恋ができる」という名ゼリフで許す。
シティーハンター』は今の時代、ああいう戯画的な「もっこり」でも許されないのかな。セクシーシーンはいくつも出てきましたが乳首はほぼないので北条司のバランス感覚は素晴らしいと思うけどな。これもラストでぐだぐだ引っ張りが続いて結局どう終わったのか覚えてないな…。


キャプテン翼
今の時代ならツッコミまくりですが当時は私も含めみんなが夢中で読んでいました。小学生では両方優勝でしたっけ?中学生は優勝した?その先はどうなったっけ?結局何も覚えていませんが、ドライブシュートタイガーショット、カミソリシュート、スカイラブハリケーンなど、ジャンプならではのスーパープレイがあればそれでいいのだ。この作品で私はサッカーのルールを覚えました。


車田正美
リアルタイムで読み始めたときは『風魔の小次郎』の聖剣戦争の初めの頃。そこから遡って『リングにかけろ』にも熱中しました。『男坂』のラストは子供だった私にも「これぞ打ち切り」と分かる不完全燃焼っぷり。そしてその後『聖闘士星矢』で爆発。「な、なにい」「あ、あいつは」という煽りセリフ、見開きと大ゴマで納得させる理論超越力、主役キャラの公平な割り振り(美男子、クール、熱血など)、天に向かって敵は飛ぶ必殺技など車田メソッドは今でも有効だ。現在それが自己パロディになっているのがもったいない。ちゃんと読んでないけど。


キン肉マン
こちらも『キャプテン翼』同様無茶な理屈ですが当時は誰もが疑わずに読んでいました。これがあーなってこーなって1000万パワーなんだな。今思えば話も荒唐無稽すぎてひどいのですが、なぜあんなに熱中して読んでいたのだろう。


北斗の拳
やはりラオウまでだよなー。修羅の国以降は武論尊だって「何も覚えていない」と言っているように、私も覚えていない。顔がどんどん細長くなっていくのも嫌だった。ラストのエピソードでは残虐描写がきつすぎて読むの辛かったなー。


鳥山明
やはり『Dr.スランプ』の頃から絵が素晴らしい。一枚絵としても素晴らしいのに一枚絵の中に動きが見える。


平松伸二
ドーベルマン刑事』の頃はリアルタイムではなく、『ブラックエンジェルズ』の前半から。ジュディが組織に捕まってマシンが服を破くシーンに興奮したなー。小学生にとってイラストであってもおっぱいは大好物なのです。今もだけど。


コブラ
早すぎた。絵の上手さも話の構成も脚本のイカしたセリフもすべてが10年以上早かった。この当時からコンピュータを導入してマンガ描いていたし。もし寺沢武一がアメリカでマンガを描いていたら今のアメコミの歴史は全部変わっていたぞ。
今でもハリウッドが映画化してくれないかなーと思っています。


●ストップ!ひばりくん
人気が出ないので打ち切りではなく、書けないから打ち切り。今思えばよく江口寿史が週刊誌でマンガ描いていたよな。のちに『ロッキングオンジャパン』という月刊誌で1ページマンガをたった2回で打ち切られたことを考えれば当時が異常なのか。
江口寿史は「80年代を始めた一人」だと思っていて、その辺をもっと掘り下げて紹介してほしかったなー。


銀牙-流れ星銀-
まさか今まで続く話になるとは。赤カブトを倒すまでも面白かったですが、「絶天狼抜刀牙」以降の方が熱中したな。


奇面組
3年奇面組』が高校に上がるから『ハイスクール奇面組』になるのは真っ当。しかしその後タイムマシンで1年戻るを繰り返して連載を引き延ばすのは苦しかった。途中から開き直って『サザエさん』のように学内の時代は延々繰り返すにしちゃえばよかったのに。そしてラストの「夢オチ」。そりゃないぜ!!!!
私は全く絵心ない芸人ですが、奇面組の5人だけ描けます。


●よろしくメカドッグ
これで車のことを学びました。ターボ、スーパーチャージャー、ニトロ、ボアアップ、ハイドロプレーニング現象。公道キャノンボールにゼロヨンレース。セリカXX、RX-7フェアレディZCR-X。アニメ主題歌で6速のことを「ハイオーバードライブ」というのも学んだ。本当にそういうのかは知らない。
この作品もラストは「最高のチューンナップって走りやすさだよね」という精神論で終わって不満。


徳弘正也
今回『シェイプアップ乱』を久々に見たら、絵がひどい。当時も思っていたけど、本当に絵がひどい。よくこれでデビュー出来たな。でも話は面白い。『ターちゃん』は包茎ネタをたくさんやっていたけど、これも今ではできないネタ?


ついでにとんちんかん
これも絵は上手くない。でも当時は笑っていたなー。今でも子供には通用するだろうな。抜作先生と天地君の顔も描けます。
えんどコイチ月刊少年ジャンプの方で『死神くん』も連載していて、こちらはギャグではなくヒューマンストーリー。泣いたなー。立ち読みで泣いたなー。


今泉伸二
『空のキャンバス』で体操のルールを覚えた。吊り輪は力の種目!ラストの「伸身3回宙返り3回ひねり」が実現する日は来るのだろうか。『神様はサウスポー』も好きだったけど、お涙ちょうだいが多すぎて辟易した。


きまぐれオレンジロード
優柔不断な少年が二人の少女からアプローチをかけられて右往左往というベタな青春ラブコメ。しかも超能力もあるのでお色気にも対応。鮎川まどかがツッパリという設定(髪型も制服のロングスカートも)に時代を感じる。
この頃から私は恋愛ものに興味がなかったなー。だから今ひとりでこれを書いている。
今スピリッツで連載している『スローモーションはもう一度』はこれが下敷きですよね。読んでないけど。


荒木飛呂彦
魔少年ビーティー』はめちゃめちゃ面白かったのにすぐ終わって残念。ピンポン玉を脇に挟んで脈を止めたり爪楊枝で皮膚に文字を書いて浮かび上がらせたりいろいろやったなー。主人公はビーティーではなく公一。彼が見た謎の少年ビーティーの記録という体裁も面白い。そもそもビーティーって彼の本名でもニックネームでもなく、イニシャルなのです。その辺も、早すぎたのかなー。
この展示会では取り上げられてもいないのですが次の『バオー来訪者』も好きでした。溶かす液体を出すバオーの手がなぜ溶けないのかというと、同じ速度で同時進行で皮膚が再生しているからなのですよ。何を言っているのか分からねーと思いますが。
このテイストが次の『ジョジョ』につながっていくのでしょうね。ちなみにこの展示会は第一部のみ。第2回で二部以降を取りあげるそうです。私は二部が好きなのよ。波紋は手のひらより指先!ワムゥ、エシディシ、カーズ!考えるのをやめた!二部推しの私。


宮下あきら
『激!!極虎一家』はあまり覚えていません。『嗚呼!毘沙門高校』は野球やったりマラソンやったり途中からギャグじゃんと思いながら読んでいました。『ボギー・ザ・グレイト』は1回目から駅前の鳩を焼いて食うという、今ではアウトかもしれないところからスタート。でも何も覚えていない。
で、ようやく『魁!!男塾』。当初の「ひたすら真っすぐ進む訓練のために街中の家を破壊しながら歩く」とかも好きだったのですが、3号生大豪院邪気の登場からさらに面白くなりました。そして「驚邏大四凶殺」「大威震八連制覇」「天挑五輪大武會」と倍々ゲームで膨張する戦い。破綻しつつそれすらギャグにする力業は今でも健在ですな。
途中から民明書房がウソだということに気づいた私は大きなショックを受けましたよ!『元気が出るテレビ』の8月のペンギンなども途中まで信じていた素直な私。


●バスタード!!
当時ハードロックを聴いていたので、出てくる登場人物・呪文の元ネタが楽しくて。そしてエロくて。しかし途中から話が大きくなりすぎてついていけず…。私の中で『ベルセルク』と同じ道のりを辿った作品。


ろくでなしブルース
今見ると書き込みが多いなー。そしてヤンキー以前の「不良マンガ」だなー。千秋は少年マンガでなかなかの「魅力ないヒロイン」でしたな。これもラスト覚えてないな…。


ウイングマン
この頃からエロかった。アオイさんありがとう。『電影少女』『I's』はもう読まなくなった時代なので全然分かりません。


長くなったのでもうやめます。でも、ここに展示されない作品でも思い出のマンガはいくつもあるのです。『海人ゴンズイ』とか『アカテン教師梨本小鉄』とか。そういうちょいマイナーな作品を集めた展示会もマニア集まると思いますよー。


小学3年の頃から買っていたジャンプはすべて取ってあり、カラーボックスに入れていました。自分の6畳の部屋はジャンプだらけでした。それが中学3年のある日、急に「何だこれは!部屋中ジャンプだらけじゃないか!」と突然思ってしまい、全部処分しました。あの日の自分、どうしたんだろ。あれが大人への階段だったのかな。実際童貞を卒業するのはあと数年かかるのですが。


f:id:ese19731107:20170821125924j:plain
f:id:ese19731107:20170821125936j:plain
f:id:ese19731107:20170821125942j:plain
f:id:ese19731107:20170821125958j:plain
f:id:ese19731107:20170821130005j:plain
会場内で一部撮影OKの場所があったので一生懸命撮る。
10月15日まで開催しておりますので、ぜひ!


桑田佳祐『がらくた』 感想(楽曲編)

前回、前フリのつもりで全体の印象や感想を書いていたら思いの外長くなってしまったのであれでエントリ1本として、今回それぞれの曲の感想を書きます。あくまで感想。批評なんてとんでもない。


前回のお話↓
ese.hatenablog.com
1.過ぎ去りし日々 (ゴーイング・ダウン)
桑田ソロアルバムの1曲目はロックンロールと決まっている。1stがそうでないのは小林武史のせいだと思っている。偏見ですが。
サザン『葡萄』も含めて最近の桑田さんは歌謡曲モードなのかな、と思っていたので意外な出だし。とはいえ最新型のロックンロールではなく、ルーツに根差したオールドロックンロールブギー。
桑田佳祐は日本語をロックのリズムに乗せるのが上手い」なんてのは「関ヶ原の戦いで徳川家が勝利した」みたいな誰もが知る歴史的事実なので今さら書くまでもなく、今作でも改めて取り上げるようなことではないのですが、それでも言わせて。

その名もTOP OF THE POPS 栄光のヒストリー
今ではONE OK ROCK 妬むジェラシー

ここ、すごくないですか?まず「TOP OF THE POPS」という2002年の自身のベストアルバムを引き合いに出し、それと対比させるのが「ONE OK ROCK」という現在のイケイケバンド。過去の栄光と現代を妬む自分の立ち位置。実際にはそんな卑下するような落ちぶれでは全くないのに、まだ若手に対して妬む気持ちがあるのか!まだ勝ちたいのか、まだ売れたいのか。
で、この歌詞は内容のすごさとともにそれぞれの部分できちんと韻を踏んでいるのです。固有名詞で韻を踏み、そして意味も通すのはかなり高度。韻を踏む専門家であるラッパーでもこのレベル(韻が固い、意味が通っている、固有名詞を使うサンプリング感、意味の強さであるパンチライン)のリリック書けるか?
そして何より皆さん、この部分、初めて聴いて聞き取れました?あまりにリズムとメロディと歌詞が融合しているので聞き取れなかったでしょ?それが桑田佳祐なのです。これを「女呼んでもんで抱いていい気持ち」と40年近く前からやっているのですよ、この男は。
曲のテーマはタイトルの通り「全盛期を過ぎた自分」ですが、それでもこんなパンチラインかまされたら「何をおっしゃる!」と言わずにおれない。


2.若い広場
服部良一か!というくらい徹底した青春歌謡。メロディが強すぎないのは半年間毎日お茶の間で流れることを意識しているのかな(メロディが強すぎると飽きる)と職業作曲家としての桑田佳祐を想像させます。
歌い方もさっぱり朗々としていますね。1曲目のしゃがれたブルースシンガーとは大違い。
歌詞も「指を絡め」の次、かつての桑田さんだったら「腰を絡め」という風に展開しそうなのにこの曲は「星を見上げ ふたり寝転ぶ屋根の上」と続きます。ベッドには行かないのです。青春だからね。
そして後半では「夜の酒場でLonely あの娘今頃どうしてる? さなぎは今、蝶になって きっと誰かの腕の中」です。青春だった彼らが少し大人になってお酒を飲むようになって別々の道・恋に進んでいるのです。この時間経過を伝える技、上手いなあ。


3.大河の一滴
打ち込みの四つ打ちビートに歌謡曲メロディ。新しいアプローチだな。打ち込み四つ打ちビートといってもEDMほど強い四つ打ちではないし2拍ごとにスネア(に当たるビート)が入るので聴きやすくなっています。
この曲は前回のエントリでも書きましたがサビの「逢わ/せて/咲か/せて/夢よもう一度」と細かく区切るメロディが素晴らしい。最新のUSラップのフロウみたいです。


4.簪/かんざし
パソコンでよかった。書けません、読めません。
昔は歌詞なんてリズムとメロディに合わせるためだけで意味なんて全然気にしていなかった桑田さんですが、近年はビートへの乗せ方はもちろん、意味においても素晴らしい歌詞を書くようになっています。
この曲はバラードなのであまりビートに乗せることを意識する必要がなく、それゆえ歌詞単体として素晴らしい散文詩になっています。「赤い雨の子守歌 しっぽり斬れた手のひら」「鉛色の空の下 うんざり晴れた世の中」なんて、意味だけ考えればよく分かりませんが、何となく寂しい感情や情景が浮かんでくると思います。こういう、「そのものズバリを言わないのに伝わる」ことが「表現」だと思うのです。桑田佳祐は素晴らしい表現者です。
そしてそれは初期の『いなせなロコモーション』『C調言葉に御用心』『ミス・ブランニュー・デイ』などの「意味なんて何も考えていなかった時代」でも伝わっちゃうんだから、やはり桑田佳祐は素晴らしい表現者です。


5.愛のプレリュード
この曲が、私は世間ほど好きではない。『愛しのミーナ』と同じ箱に入っています。コード進行も普通で、手癖で作ったなーと思ってしまうのです。


6.愛のささくれ~Nobody loves me
桑田さんもいい歳なので、あまり色恋の話は書きにくいのでしょう。生々しいセックス描写はリアリティがないし、かといって枯れてしまうのはもったいない。そこで「何とかものにしようと頑張るけどフラれる」というパターンが最近の着地点のようです。サザンの『栄光の男』のように。
この曲は打ち込みビートが合っている。リズムも細かい。そしてその中を字余りで歌っていく桑田佳祐のグルーヴ感!これ、このボーカルを知らない人が譜面通りに歌ったら全然違う印象になると思います。リズムに対して後ろ目の乗っかり方。ビートのケツに引っかかるように歌っていく歌い方。グルーヴは譜面には書いていないところから生まれるのだ。


7.君への手紙
これも手癖で作ったような気がするなー。メロディはいいので文句は全くないのですが、いろいろ詰めきれていない気がする。エンディングも「仮」みたいな終わり方だし。
あと、この曲の間奏で「エンヤートット」が入っていますが、これは何?どういう意味や効果があるのかしら。



8.サイテーのワル
桑田ソロは1曲目ともう1曲ハードロックを入れると決めているらしい。しかし1曲目のオールドロックンロールと違ってこちらはシンセも使うしボーカルにはオートチューンもかかっている。コーラスもボコーダー(?)使っているし、ちょいとサイバーな感じ。
曲のテーマは「ネット怖い」「文春怖い」みたいな内容ですが、私が一番気に入っているのはサビの「暗証番号 口座番号」の部分。この歌詞でこれだけ英語っぽく歌える歌手は桑田佳祐しかいない。


9.百万本の赤い薔薇
キラキラしてる!今回のソロ作品で打ち込みを導入したのがとてもうまく作用しています。イントロからメロディ部分から間奏まで、すっとポップでキラキラ。
この曲は市川紗椰さんの出演していた『ユアタイム』のテーマ曲ということで「紗椰」という歌詞が使われています。スタッフは「SAYA」がいいのではと言ったそうですが、桑田さんが「紗椰」がいいということで漢字が採用。えー、10年後20年後のことを考えたら「SAYA」の記号性の方がいいと思うけどなー。


10.ほととぎす[杜鵑草]
今回のアルバムはシングルやタイアップ曲が多く、そういうのはアップテンポな曲が多いので、バランスを取るためにアルバムで初めて聴く曲はバラードが多くなります。それが、どれも絶品揃い。この曲もいいでしょう?個人的には『月光の聖者たち』と同じ箱です。
サビのコード進行は複雑のようでルート音(ベース音)は一つずつ下りてくる。だから気持ちいいんだな。桑田さんの曲でこれだけファルセットで歌った曲は他にあるかしら?
雑誌『Pen』桑田佳祐特集のインタビューでこの曲について

「たった一言の『お元気で』」は昔だったら「フォーエバー」とか書いちゃっていた気がする。(略)でも今のリスナーは「たった一言のフォーエバー」ではもう腑に落ちてくれないほど手強いんです。(略)日本のポップスには「フォーエバー」に逃げちゃいけない局面が絶対にあると、最近すごく思うんですよ。

と語っています。リスナーを信頼し、かつ舐めていない姿勢、頭が下がります。


11.オアシスと果樹園
この曲、桑田印のメロディのようで新機軸のような気もする。何が違うのかよく分からないけど。珍しく「詞先」だったのが何か影響しているのかな?リズムが打ち込みだからかな?
これも前回のエントリで書きましたが、Bメロの「熱い風が吹いていた」の小節をまたぐ譜割りが好きです。Aメロとサビの譜割りが細かいからよけいBメロの大きさが目立つ。


12.ヨシ子さん
ああもう、この曲についてはあらゆる人が語っているので今さら私が言えることなど何もない。でも書く。

R&Bって何だよ、兄ちゃん(Dear Friend)?
HIPHOPっての教えてよ もう一度(Refrain)
オッサンそういうの疎いのよ妙に
サタデー・ナイトはディスコでフィーバー

内容だけ読めば新しい音楽についていけなくなったおっさんのぼやきですが、しかしこの曲はEDMを経過したダンスホール・レゲエを桑田さんなりに解釈した最新のリズムで、新しい音楽にアンテナを張っていないと作れないリズムです。
そして上2行の耳なじみの良さ。「ディアフレンド」ではなく「ディーフレンド」だし、「おしえてよ」ではなく「おせーてよ」なのです。これぞ桑田節。
なので、「チキドン」とか「上鴨そば」とか「エロ本」という歌詞に対していろいろな解釈をしている人がいますが、そんなの全くの無意味だと思っています。この曲全体が意味を超越しているので、これらの歌詞も単にリズムとメロディにはまりのいい音に日本語を当てはめただけです。自分で空耳アワーを作っているのです。
この「変だけどポップス」な感じはくるりの『Liberty&Gravity』を思い起こす。


13.Yin Yang(イヤン)
2013年のシングルで私も買いましたが、当時は全然好きではありませんでした。何でこれがシングルなんだよと。しかし今回アルバムに入ったらはまりがいい。アルバム内の曲だったらとてもしっくりくるな。
これも歌謡曲メロディですが、ブラスが入っているのでベタな感じがしない。ライブで映えそうな1曲です。


14.あなたの夢を見ています
今回のアルバムは先行シングルのカップリング曲が何曲か採用されていますが、個人的には「なぜこの曲一軍入り(アルバム収録)したの?」と思っています。そんなに好きじゃない。
この曲はイントロと間奏がいちばんいい。イントロはキラキラしているのにAメロに入ると急にもったりする。サビもカップリングレベルだと思うんだけどなー。で、2番終わりの間奏でギターソロの後にエレピが細かいリズムを入れるところはとてもいいのになー。
エンディングも「仮」な感じ。


15.春まだ遠く
ディズニーじゃん。この曲はネットでこういう表現をいくつか見ました。確かにその通り。アルバムラストに相応しい極上のバラードです。サザンの『素敵な夢を叶えましょう』『心を込めて花束を』と同じ箱。編曲は『素敵な~』と同じ島健さんです。
これだけ人生経験を積み達観したように思える桑田さんですが、「自分の愚劣(バカ)さを悔やめども きっとあなたは出ていくんだろう 春まだ遠く」と歌います。「実るほど頭が下がる稲穂かな」というか「いまだ木鶏たりえず」の双葉山というか。


今回のアルバムでカップリングから漏れた中には『悪戯されて』がありますが、これを入れると歌謡曲っぽさが強くなりすぎるから落としたのだと思っています。そしてそれはとてもいいジャッジだと思います。『がらくた』といいつつきちんとバランスを考えられた選曲。さすがプロデューサー桑田佳祐
ちなみにこの曲は初回限定版のDVD(ブルーレイ)にMVが収録されていますのでそちらでお楽しみいただけます。この辺のサービス精神も桑田さんだなー。


あー、終わった!長かった!5,000字超えたよ。前回と分けてよかった。
何度も書いているのでほんと今さらですが、いいアルバムです。様々なジャンルを包括しつつ桑田佳祐というフィルターを通すと日本のポップスに着地する。昔から聴いている「あの頃がよかったなリスナー」も満足でしょうし新しいリスナーの「2017年に聴く音楽」というリアルタイム性としてもクリアしています。これは桑田さんが常にアップデートしているからです。
私もいつまでも「最新が最高」でありたい。聴く側の感性も常にアップデートしていきましょう。


さて、ツアーですよ。私は初日の朱鷺メッセに行ってきますよ。うふふ、楽しみ!


がらくた (通常盤)

がらくた (通常盤)

Pen (ペン) 2017年 9/1号 [1冊まるごと、桑田佳祐。]

Pen (ペン) 2017年 9/1号 [1冊まるごと、桑田佳祐。]

桑田佳祐『がらくた』 感想(全体編)

高値安定の大変さ


桑田佳祐のソロアルバム『がらくた』が出ました。ソロアルバムとしては6年ぶりですが、その間にサザンオールスターズとしての活動があり、その後もシングルやタイアップ曲をいくつも出しているので「休まずにずーっと活動しているな」というのが私の実感です。


今回のアルバムタイトルは『がらくた』ですが、これはもちろん桑田さん流の自虐であり謙遜なわけで、もちろん名曲ぞろいですがアルバムとしての統一感はない。「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現もあまりにベタなので、『がらくた』で上手く表現されていると思います。
前作は『MUSICMAN』なんて大上段に構えたタイトルでジャケットも静謐で格調高く、歌詞も含めた曲調もシリアスな印象がありました。桑田さんの「ふとした病」はレコーディング終盤に発覚したので、病気のせいでこういうアルバムになったわけではありませんが、聴いている私たちはどうしてもその事実を踏まえながら聴くので、必要以上にシリアスに受け止めてしまうアルバムでした。
とはいえ、桑田さん自身が「自分の音楽人生の集大成のつもりで作った」というこのアルバムが名盤であり当時の到達点だったことは間違いありません。


このアルバムに統一感がないのは、第一にリズムが統一されていないからです。打ち込みもあるし生ドラムもある。先行シングルはみんな打ち込みリズムマシンだったのでアルバム通してこの形でいくのかなと思っていましたが、生ドラムもあり、結果的にバラエティに富んだというか取っ散らかったというか、散漫な印象になったのは否めません。まあ、『がらくた』だからそれでいいのだ。
また、曲調もバラバラです。ロックンロールから青春歌謡からキラキラポップスからディズニーサウンドまで。そしてそれに合わせて声も歌い方も違っています。そりゃこれだけ手札があったらまとまらないわ。


でも、でーも、その『がらくた』に集められたバラエティに富んだ曲たちは、どれも名曲なのです。イントロダクションやインタールードなし15曲68分超のボリュームで、どれも名曲なのです。じゃあ文句ねえだろ。はい、すみません。ぐうの音も出ない名曲ぞろいのアルバムでした。
『葡萄』のエントリのときにも書きましたが、桑田佳祐はもう上り詰めた大御所なわけです。今さら冒険なんて必要ないのです。「桑田印」の曲を出せばファンは満足するのです。それなのに、まだ打席に立ってフルスイングしてフェンスを越えないと満足しないのです。素振りを続け、打席にも立つのです。で、実際ホームランを打つんだもんな。あぶさんの「62歳まで現役」はマンガだから可能な偉業ですが、それも超えて今後も打席に立つんでしょ。敬意しかないぜホント。


このアルバムの前にはシングルが3枚出ており、タイトル曲を含めるとそれだけで12曲あります。そこからアルバムに入る一軍を選んでさらにブルペンで温めていた秘蔵っ子も出す感じ。『MUSICMAN』の頃に比べると筆が軽く、たくさん曲を書いてそこから上位選抜を選んでいる感じ。
MUSICMAN』でひとつの到達点に達したのでそこからはフットワークが軽くなったのかな?サザン『葡萄』のときも似たようなことを感じました。


もうひとつこのアルバムで感じたこと。
「リズムへのアプローチが新しい」。桑田佳祐が日本のロック・ポップスの歌詞の乗せ方に対する発明をしたのは今さら言うまでもありませんし今作でもその技はますます冴えわたっているわけですが、今作は歌詞の乗せ方だけでなくメロディのリズムに対するアプローチが新しいと感じる曲がいくつかありました。『大河の一滴』のサビ「逢わ/せて/咲か/せて/夢よもう一度」と細かく区切るメロディ。最新のUSラップのフロウみたい。また『オアシスと果樹園』のBメロ「熱い風が吹いていた」の小節をまたぐメロディなど。
まったく、いつまで進化する気だ!


さて、ここから1曲ずつ感想を書いていこうと思ったのですが、既に1,800字書いてしまったので、ここで一旦切ります。次回、それぞれの曲について感想を書きます。


がらくた (通常盤)

がらくた (通常盤)

映画『ベイビー・ドライバー』 感想

ネタバレあります


映画『ベイビー・ドライバー』を見てきました。公式サイト↓
www.babydriver.jp
全然知らない作品だったのですが、Twitterで皆さん絶賛なので見てきました。


前半最高!車!音楽!恋愛!


予告編見てください。
www.youtube.com
ほら面白そう。
これでもまだ首を縦に振らない人はこちらを見てください。映画の冒頭6分間の「つかみアクションシーン」です。
www.youtube.com
サムネのフォントがダサいけど気にしないで。本当はこの場面は映画館で見てもらいたいので動画は見ないでほしいです。


このつかみのオープニングの後、タイトルバックと主要キャスト・スタッフの名前が出るオープニングクレジットのシーンなのですが、主人公ベイビーがi-Podで聴きながらノリノリで街を歩くシーン、街の人や音までがi-Podの音楽とシンクロしているのです!さらにここ3分くらいノーカット!すげー。この二つのオープニングで一気に掴まれました。
公式サイトに「カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』!」と書いてありましたが、まさにそんな感じ。いいコピーだとは思わないけど、伝わりやすい。


天才的なドライビングテクニックを持つ少年。幼い頃に交通事故で両親を亡くしその後遺症で耳鳴りがひどく、それを消すために音楽が手放せない。趣味は録音した会話をサンプリングしてオリジナル音源を作ること。
少年は組織から抜けたいけどもちろん簡単に抜けさせてくれない。そんなとき運命の出会いが…。
何だこの設定。少年マンガか!いいんです。こういうのはベタがいいんです。


もうね、途中まで最高。ベイビーの家には耳の聞こえない養父がいて手話を交えながら楽しそうに暮らしている。音楽を流しながらノリノリで料理を作ったり踊ったり。そして夜な夜な録音素材を生かしてオリジナル音源づくり。
ふらりと入ったレストラン(ダイニングバー?)のウェイトレス:デボラに一目ぼれするベイビー。彼女も好感触。
なんだこりゃ、ワクワクとドキドキとニヤニヤしかないぞ。


ようやく最後の仕事を終えて組織から抜けられたベイビーはデボラを高級レストランに誘ってデート。ここでの立ち振る舞いがスマートにできるのがちょっと不満。慣れないながらもエスコートしようとするベイビーに彼女も私たちも惚れるのに!
そしたらそのレストランに組織のボス:ドクがいて「また仕事やれ」と。断ったら足を骨折したり彼女に不幸があるかもしれないよと脅すドク。仕方なく再び仕事をすることになるベイビー。
いいぞ、ここもお決まりの展開。こうでなくちゃ。正しいエンタメの進め方です。


ここまで、「前半最高!」「途中まで最高」と書いている通り、前半はとてもよいのです。しかし、このラストの仕事のところからちょっとおかしくなります。


強盗の逃がし役という「悪の組織の一員」でありながら自らは暴力をふるうことのなかったベイビーですが、急にいろいろやっちゃう。この辺の決意や翻意の部分がよく分からなかったです。助手席の人を串刺しにしたり銃で撃ったり。
この串刺しで車が動かなくなるのでそこから走って逃げるのですが、この作品でそういう普通のアクションやる必要あるかな。
何とか逃げ切って彼女のレストランに着いたら強盗チームのバディが店にいた。あなた、逃げなくていいのかい?撃たれそうになるがたまたま警察が来たので難を逃れるベイビー。しかしその直後バディの銃を奪って撃つ!こんなに警察がいる中で撃つのかよ!
で、ドクのところに戻って交換条件を出して説得するもけんもほろろ。しかしデボラが一緒にいることを知ると急に気を変えて味方になる。急に変わりすぎだろ。
先ほど撃たれたバディは生きており、駐車場で最後の闘い。生きていても撃たれたんだからそんな自由に動けていいのか?ヤクを山ほど飲むとか何か理由がほしかったな。
最後の車同士の押し合い合戦は「殺す!」の強い意志がないとできない行動ですよ。怖いわ。
何とか逃げ切ったベイビーとデボラ。郊外の道をドライブ。あれ、ボニー&クライドにならないのか、と思っていたら検問があって万事休す。彼女は人質ということでベイビーだけ逮捕されます。
これはこれでいいラストだなと思っていたら、裁判があって「彼はいい人なんです」という証言者が次々に現れて5年で仮釈放。こんな甘々恩赦でいいのか。車盗んだ人にバッグを返したらいい人なのか。車盗まれているんですよ!郵便局へ入らないように忠告したらいい人なのか。強盗ですよ!


この後半に理解できない・納得できない部分がいくつもあり、「満点!最高!」とはいえない感想になりました。
最後まで自分は暴力を振るわない、銃は撃たないなどの縛りや彼女を守るために仕方なく、などがないとベイビーに肩入れできない。「とはいえ、あなたやることやってますよね」と思ってしまう。
そもそも、ベイビーは車を盗んだことがこの組織に入るきっかけです。じゃあ元はワルなのか。天才的なドライビングテクニックをドクに買われて養父の治療代などの名目でなかなか組織から抜けられない、など「本当はいい人ですよ」「悪いことは本意ではないですよ」などだったらいいのになー。
あと、冒頭の街を歩くシーンが音楽と完全シンクロしていて「歌っていないけどミュージカル」になっている点はとても良かったのですが、途中銃撃戦の銃を撃つタイミングなどまでBGMと完全シンクロしているのは好きでなかったです。そこも評価ポイントになる人もいるでしょうが、私は好きではなかった。アクションのリアリティや緊迫感が薄れちゃう。


でも、劇場で見る価値はあります。特に音楽好きの若者男子には刺さるんじゃないかしら。


<追記>
これを書いた翌日、このエントリを読んでとても腑に落ちました。そうか、これは「逃避」の物語だったのか。このキーワードを思いながら見るといろいろすっきりと物語が見えてくる。もう私の文章読まなくていいです。ここに素晴らしい評論がある。
jigowatt.hatenablog.com



Baby Driver (Music From The Motion Picture)

Baby Driver (Music From The Motion Picture)

Baby Driver

Baby Driver